VAIOの山野正樹社長
ソニーから7年前に不採算事業として見捨てられたVAIOが復活し、PCで攻勢をかけようとしている。10月13日にはモバイルPC「VAIO SX12」「VAIO SX14」の2機種の新モデルを発表。これらは同社にとって中間のメインストリームモデルに位置するPCで、2月に発表した50万円台のフラッグシップモデル「VAIO Z」、9月末に発表した7万円台のエントリーモデル「VAIO FL15」と合わせてすべてのカテゴリーで新製品が揃った。(経済ジャーナリスト・山田清志)
「VAIO SX12」と「VAIO SX14」
堅牢性など機能と性能を飛躍的に向上
「VAIOは2014年にソニーから独立し、この7月で満7年を迎えた。設立以来、国内市場、法人向けPCに選択と集中を行ってきた。その法人向けビジネスは弊社の成長の基盤となり、売り上げの約4分の3が法人ビジネスになるまで成長した。今後は個人向けPCも再強化していく。グローバルにも通用する製品、サービスをより多くの世界のお客に届けていきたい。それがVAIOの持続的な成長につながっていくと思う。今回発表した新製品はその序章となる」と、今年6月に社長に就任した山野正樹氏は冒頭の挨拶で力強く話した。
新製品はフラッグシップモデルであるVAIO Zで培った機能とデザインを継承し、サイズ、重量、堅牢性はそのままに、機能と性能を前モデルから飛躍的に向上させている。新たに採用した立体成型カーボン天板は、127cm落下試験をもクリアする堅牢性を誇る。そのほか、液晶をひねったり、ペンを挟んだりといった数十項目の独自試験に加え、アメリカ国防総省制定MIL規格に準拠した品質試験も実施し、クリアしている。
また、バッテリー駆動時間の長さもウリの一つになっており、内蔵するバッテリーは薄型軽量だが、最大約30時間の利用が可能だという。さらに、業界最小クラスのUSB PowerDerivery対応ACアダプターを採用しているので、持ち歩く際にもかさばらないとのことだ。重量については、SX12が約887g、SX14が約999gとなっている。
そのほか、コロナ禍でオンライン会議が増えたことを踏まえ、AIノイズキャンセリング機能を初搭載した。これは、AIの力で騒音などの環境ノイズだけを除去する機能で、在宅時のさまざまな生活音や屋外での雑音もカットする。しかも、マイクの集音性能を向上したステレオアレイマイクや本体前面に配置された大口径スピーカーにより、オンラインでも距離を感じることなくクリアな音声で会話ができるようになっている。
立体成型カーボン天板
キーボードについても、ストロークが1.2mmから1.5mmに深くなり、静粛で吸い付くような心地よい打鍵感を追求したという。配列については、かな文字あり・なし2シュル値の日本語配列、英語配列から選択可能で、プレミアムエディションでは黒色キートップに黒文字で刻印した「隠し刻印」を選ぶことができる。
もちろんOSは最新のWindows11がプリインストールされ、定番USB端子が左右に1つずつ、2系統のUSB Type-C端子、HDMI端子、そして有線LAN端子も搭載されている。価格についてはオープン価格だが、量販店向けモデルの想定価格はSX12が17万9700円から、SX14が19万9800円からとなる。
売上高が設立時の約3倍で6年連続の黒字
1997年に薄型でマグネシウム合金を用いたバイオレットカラーで登場したPCのVAIOは、圧倒的な存在感も示し、一世を風靡した。ソニーらしく、デジタルカメラとの通信機能など、エンターテイメント要素をふんだんに盛り込んだ。
その結果、VAIOシリーズの出荷台数は、1999年度約140万台から2004年度330万台、2010年度には870万台と過去最高を記録した。しかし、個性よりも出荷ボリュームを優先する戦略に打って出たため、ブランドを失墜させる結果となってしまった。おまけにスマートフォンにも押され、2013年度には出荷台数が3分の2の約560万台に減少し、917億円もの営業赤字に陥った。
「VAIO」の個人向けPCラインナップ
そこで2014年2月、ソニーの平井一夫社長(当時)が記者会見で、「苦渋の決断をした」と投資ファンドの「日本産業パートナーズ」に売却すると発表した。山野社長はその日本産業パートナーズ出身で、その前は三菱商事でITサービス本部長やシンガポール支店長を歴任している。
その山野社長は話すように、VAIOは国内市場、法人向けに的を絞り、その結果、2年目から6年連続で黒字決算を達成し、売上高は独立直後に比べて約3倍になった。そして、次は個人向け、海外市場というわけだ。コロナ禍で2020年度はノートPC需要が大きく増えたものの、スマートフォンやタブレットに押されている状況には変わりがない。そのなかで、具体的にどのような戦略に打って出るのか、山野社長の言動が注目される。