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2023年3月29日【イベント】

VAIO、ソニーから分離独立後10年目の挑戦

山田清志

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山野正樹社長(右)と黒崎大輔センター長

 

VAIOは3月29日、東京・渋谷駅前のイベントホールでPCの新製品発表会を開催した。山野正樹社長は「ソニーから独立して初めて違った路線の製品を出す」と強調。これまでは小型軽量の高機能モデルばかりを販売していたが、機能を絞って価格を3~4割ほど安くした製品を出すことにした。文字通り、質より量の戦略を打ち出したわけだが、そこにはどんな狙いがあるのか。( 経済ジャーナリスト・山田清志 )

 

必要な性能に絞ってPCの定番を目指す

 

「いくら製品が良くても、多くの人にお届けすることができなければ、その価値を体感させることができない。また、ボリュームを売ることができなければ、製品コストも下がらない。いつまでもプレミアムニッチに留まっていていいのか。そして、このままで生き残っていけるのか。今こそVAIOが本当に必要な性能を研ぎ澄ました、より多くの人に愛される定番のPCをつくることを目指すことにした」と山野社長は冒頭の挨拶で力説した。

 

山野正樹社長

 

VAIOはソニーのPC事業が分離独立し、2014年7月に設立した会社だ。ソニー時代のVAIOは薄型でシルバーカラーという尖ったデザインのPCを販売し、1990年代~2000年代初頭に一世を風靡した。その後、量を追う戦略に転換し、2011年3月期には、世界出荷台数で約870万台を数え、世界トップテンに入るブランドに成長した。

 

しかし、量を追った結果、価格競争に巻き込まれ、そのうえスマホにも押されて、14年3月期は出荷台数が3分の2の約560万台まで減少し、917億円の営業赤字に陥ってしまった。そして、ソニーの平井一夫社長(当時)が「市場に一石を投じてきたブランドだが、苦渋の決断をした」とVAIO事業を投資ファンドの日本産業パートナースに売却すると発表したのだ。

 

新生VAIOは、海外から撤退し、国内だけで販売する体制で再スタート。関わっていた社員も1000人以上から240人と大幅に減った。初年度の業績は売上高がわずか73億円で、営業損益が20億円の赤字だった。それが20年5月期には、売上高257億円、営業利益26億円までに回復し、営業利益率は電機メーカーとして高水準の10%を記録するまでになった。しかし、その後、PCを取り巻く環境は大きく変わった。

 

国内市場は3年連続で減少し、2022年第4四半期のグローバルPC市場も前年同期比28%減と大幅に落ち込んだ。VAIOの業績も、22年5月期には営業損益が2億円の赤字に転落した。「全需の低迷、半導体不足とキーデバイスの入手困難、価格の高騰、中国ロックダウンによるサプライチェーンの混乱と販売遅延、そしてウクライナを起点とした円安などが主たる原因だ」と山野社長は説明。

 

2023年5月期については、売上高が前期比で1.6倍と過去最高を達成する見込みで、営業利益も黒字に転換するという。「法人向けPCの営業体制を強化し、これまでVAIOが選定に入っていなかった企業から数千台、1万台規模の受注があった」(山野社長)と法人向けPCの販売が好調だった。

 

開発本部プロダクトセンターの黒崎大輔センター長

 

2024年5月期には出荷台数で150%成長

 

しかし、山野社長には現状に対する危機意識があった。VAIOはすでにブランドとして確立しているものの、ハイエンドユーザー向けの製品に偏っており、持続的な成長をするためには大衆に広く受け入れられる“定番商品”が必要と考えていたのだ。そこで、路線の違った製品を出すことにした。

 

それが今回発表した「F14」と「F16」である。それぞれ13万円台からという購入しやすい価格で、6月から販売する。しかし、開発本部プロダクトセンターの黒崎大輔センター長によると、「ただ安いPCをつくるのはVAIOの役割ではない。ずっと長く使ってもらうための仕掛け、シンプルだけれど気持ちよく使える無数の細工を施した」そうだ。

 

このPCをつくるにあたって、全社的なプロジェクトを発足し、従来PCの“当たり前”を見直した。VAIOのPCが長年の開発によって培ってきた価値の中で継承すべきものを見極め、さらに変化するワーク・ライススタイルに対応できるかどうかを検討したうえで、「定番」と呼べる4つの条件を導き出したのだ。

 

一つ目が見やすい大画面。特にF16は、一般的な15.6型ワイドのA4ノートPCと同等のサイズで、一回り大きい16.0型ワイドディスプレイを搭載。画面が約11.4%広いために、作業がはかどるという。しかも、画面が180度開くので、対面の相手とすぐに画面を共有して話ができる。

 

2つ目が長持ちする品質・安全。例えば、パームレストは1枚板のアルミ合金製で、キズに強くなる表面処理により、長く使ってもその輝きは変わらない。さらに、キーボードひとつひとつに、特別配合したUV硬化塗料でしっかりとコーティングし、文字は消えにくいレーザー刻印なので、いつまでも美しいキートップを保つそうだ。

 

3つ目が普段使いに“ちょっといい”性能。PCのパフォーマンスにとって重要なプロセッサーは、最新世代の第13世代インテルCoreを搭載。バッテリーは約16時間使えるスタミナバッテリーで、そのうえバッテリー駆動時の実使用時間が少しでも長くできるように制御する機能「バッテリー節約設定」も備わっている。

 

VAIOの新製品

 

4つ目が快適なオンラインコミュニケーション。AIの力で騒音などの環境ノイズだけを除去するAIノイズキャンセリング機能によって、周囲の生活音や野外での雑音もカットする。また、マイクの集音性能を向上したステレオアレイマイク、VAIOが独自に最適化を施したDolby Atmosによって、オンラインでも距離を感じることなく、クリアな音声で会話できるという。

 

文字通り、F14とF16は、VAIOのスタンダードモデルとして、裾野を広げていくための戦略モデルとして位置づけられ、山野社長はこの新PCを軸に、24年5月期にVAIOの出荷台数で150%成長を目指すと宣言。そのときに、「売上高の4~5割を今回の定番モデルが占めているだろう」と山野社長は話し、グローバル市場への本格的な進出も果たしていくそうだ。

 

ソニー時代には量を追う戦略が失敗したが、果たして今回は奏功するのか。今後のVAIOの動きには目が離せない。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。