ソフトバンク孫正義会長兼社長
ソフトバンクグループ(SBG)が5月12日発表した2020年度(20年4~21年3月)連結決算は、売上高が5兆6281億円(前期比7.4%増)、当期純利益が4兆9879億円(前期は9615億円の赤字)だった。純利益はこれまで最高だったトヨタ自動車の2兆4939億円(17年度)を大きく抜き、日本企業で過去最高となった。世界的に見ても、2020年度の純利益としては、米アップル(約6兆1900億円)、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコ(約5兆2600億円)に次いで3位に入るそうだ。(経済ジャーナリスト・山田清志)
創業の地の写真と当期純利益の推移
創業時に社員に述べたことが実現
SGBの決算会見は1枚の写真から始まった。それは創業の地である福岡県の雑餉隈駅付近の写真で、1981年に撮られたものだ。孫正義会長兼社長は同年、そこでソフトバンクを創業した。毎日その光景を見ていた孫社長は「初めて雇った2人の社員に対し、朝礼で『いつか必ず売り上げも利益も1チョウ、2チョウと豆腐屋のように数えてみせる』と宣言した」という。
そして次の瞬間、その写真に40年間の当期純利益の推移を示したグラフが重ねられ、「やっとそうなった」と感慨深くつぶやいた。前期の2019年度が当期純損益で過去最大の9615億円の赤字を計上しているので、文字通り1年で様相がまったく一変してしまったわけだ。
ビジョンファンド事業の投資損益
「今回の5兆円近い利益というのは、たまたまのたまたまの、たまたまが重なった結果なので、あまり胸を張って言えるような状況ではない。ただ、1回達成したものが1回きりで終わらせるようなことはしたくない。仕組みとしてそれを上回っていけるような実力値をつけるように頑張っていきたい。反省点もあり、それが見えているものもある。見えている以上は改善できると思っている。必ずそれらを改善しながら、多くの人が『たまたま』というのをやめようかと思ってもらえるようにレベルになりたい、いやなってみせるという気概はある」と孫社長は話す。
利益急増の主な要因は、ファンド事業が好調だったためだ。なにしろSBGが中心となって出資する「ビジョン・ファンド1」や「ビジョン・ファンド2」の投資利益が世界的な株高を背景に6兆3575億円にも及んでいるのだ。
しかし、ビジョン・ファンドは成功事例ばかりではない。19年には米シェアオフィス大手のウィーワークが経営難に陥り、追加投資を迫られた。また、21年3月には英金融サービス会社グリーンシル・キャピタルが経営破綻した。孫社長はこうした投資の失敗に関して反省の弁を述べるものの、「それ以上に反省しているのが、素晴らしい会社への投資の見逃しがいくつもあった」と強調する。
NAVの推移
21年度は前年を上回るIPOを予定
孫社長が純利益よりも大切と考えているのがNAV(時価純資産)だ。これは保有株式価値から純有利子負債を引いたもので、投資会社としての成績を示す目安とされる。その額は21年3月末時点で26.1兆円。このうち中国のアリババグループ株だけで43%を占める。
「ほんの半年前まではアリババが60%を占めていたが、現在は43%になった。一方、ビジョン・ファンドは全体の5~10%だったが、25%になった。近い将来、全体のなかで最も大きくなる」と孫社長。
現在の投資先企業はビジョン・ファンド1で92社、ビジョン・ファンド2で95社、そしてラテンアメリカ・ファンドで37社と、合計で224社にのぼる。3カ月前に比べて60社増えたそうだ。そのほとんどがAIの技術の最先端、AIを使ったビジネスモデルのユニコーン企業だ。
また、新規株式公開(IPO)については、20年度14社あり、「21年度はそれを大きく上回る上場がある。すでに具体的社名も含めパイプラインに入っている」と孫社長は話し、「エコシステムができあがると、継続して利益を出せるようになる」と自信を見せた。
孫社長は最後に「NAVなどいろいろと数字をあげたが、われわれの一番大切な武器であり財産であるのは『向こうにある夢を必ずつかむんだ』という胸の高まりだ。まだまだ胸の高まりが続いている。博打ではなく、仕組みを進化させ、これからも続々と上場企業を生み出していく。お金はあくまでも道具であり、『情報革命で人々を幸せにする』ことが経営理念だ」と強調していた。