パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEO
パナソニックホールディングス(HD)の楠見雄規グループCEOは5月18日に行った事業戦略発表会で、電気自動車(EV)向けの車載電池事業に投資を集中する方針を示した。2030年までに現在の約4倍となる200GWhの生産能力を目指す。その達成に向けて、まずは2024年までの3年間で戦略投資6000億円の大半を車載電池に投じる。(経済ジャーナリスト・山田清志)
高いエネルギー密度と安全性を誇る円筒形電池
「2023年度は競争力強化に徹するステージから成長ステージへギアを上げるために、グループが目指す姿の解像度を上げて使命達成に向け変革を加速する」と楠見グループCEOは強調。グループが目指す姿として、「地球環境問題の解決」と「お客一人ひとりの生涯の健康・安全・快適」のどちらかの領域に貢献する事業だけになるという。
その地球環境問題の解決として、重点投資領域に位置づけたのが車載電池である。パナソニックが力を入れている北米では、「EVが2021年から30年にかけて年平均35%という急速な勢いで市場の拡大が見込まれている。また、米国政府は米国内でのEVサプライチェーン構築を国策として進め、米国での車載電池生産への強い要請がある」と楠見グループCEO。
しかも、高いエネルギー密度と安全性、低コストの円筒形電池は、EVの利便性にとって重要な急速充電時の冷却にも適しており、北米市場でさらに需要の拡大が見込まれているそうだ。事実、テスラからは強い需要があり、またルシード・モータースやヘキサゴン・プルスにも円筒形車載電池を供給する契約を締結している。「このほかにも新たな引き合いがある」という。
「パナソニックは電池技術開発の先駆者として、高容量化、レアメタルレス、そして安全性に直結する品質でリチウムイオン電池業界をリーとしてきた。
高容量化ではエネルギー密度を第一世代から現在まで3倍以上の800Wh/Lに高めており、2030年までに1000Wh/Lの達成を目指す。これによって、航続距離を大きく伸ばすことができ、当社の電池を搭載するクルマの性能向上につながる」と楠見グループCEOは同社円筒形車載電池の技術的優位性を強調する。
しかも、世界で初めてコバルト含有量の5%以下を実現し、さらにゼロ化も射程圏内とのことだ。またニッケルレス化に向けた技術開発も行っている。安全性についても、EV200万台相当の電池を供給しているが、電池に起因する重大事案の発生はゼロだという。
パナソニックの車載電池。写真左から1865、2170、4680電池
さらに、ネバダ工場では高いオペレーション力が備わってきて、当初目標を10%超える生産実績を達成している。改善思想も定着し、さらなる生産能力の増強が可能になっているそうだ。
コスト構造面でも、中長期的な拡大を見据えた投資効率の改善を行っており、ネバダ工場の立ち上げノウハウの展開によりカンザス新工場での投資効率を大幅に改善することができた。
カンザス新工場に続く新たな生産拠点も検討
そのカンザス新工場では、州政府から税制優遇の支援を得ているほか、材料の安定調達とリードタイムの短縮を図りながら北米でのサプライチェーンの構築を進めている。「これらの競争優位性の進展により、いままさに北米での車載電池の供給拡大へ準備が整った」と楠見グループCEOは力説する。
そこで今回、2030年までに現在の約4倍となる200GWhの生産能力を目指す計画を打ち出した。これまで同社では、2028年度までに22年度の約50GWhの3~4倍を目指すという曖昧な表現だったが、目標年度と生産規模を明確にした。
また、22年度から24年度までの投資計画についても、グループ全体の投資額1兆8000億円うち6000億円を戦略投資としていたが、そのほとんどをカンザス新工場に振り向けることを明らかにした。
「カンザス新工場では2170電池を量産して、北米での供給拡大に対応していくことになる。また、4680電池については、和歌山工場で早期に安定生産を実現し、北米新拠点へ大規模展開する」と話す。
ただ、その新拠点については、「すでに稼働しているネバダ工場かもしれないし、建設中のカンザス新工場かもしれないし、それ以外かもしれない」と楠見グループCEOは煙に巻いた。
また、車載電池の開発体制を強化するため、2024年に大阪・住之江に生産技術開発拠点、25年に大阪・門真に研究開発拠点を新設して新機種・次世代機種の開発や材料の源流開発を加速する。
車載電池について、パナソニックはかつて世界トップのシェアを誇っていたが、中国のCATLや韓国のLG化学に抜かれ、現在は3位である。
4位には中国のBYDが急速に迫っているという状況だ。文字通り、いま積極的な投資を行わなければ、世界の競争に勝ち残っていけないと言ってもいいだろう。新電池の4680と能力増強でどこまで反撃できるか要注目である。