パナソニックの大泉工場
パナソニックスホールディングス(HD)傘下の空質空調社は7月19日、群馬県の大泉工場で空質空調事業の説明会を開催し、その製造現場を報道陣に公開した。その中で、マレーシアや中国で生産していた国内市場向けビル用マルチエアコン(VRF)を2023年度中に大泉工場に移管すると発表した。地政学リスクへの対応や生産のリードタイム短縮のために国内回帰を決めたわけだが、これによって生産のリードタイムは大きく削減されるという。(経済ジャーナリスト・山田清志)
生産のリードタイムが3分の2に短縮
南には利根川が流れ、北にはSUBARU(スバル)の工場がある。そんな環境に立地しているのがパナソニックの大泉工場だ。旧三洋電機の工場で、戦前は中島飛行機の工場として、零戦や銀河を製作していた。しかも、その当時の建物を現在も使用しているという。
吸収式冷凍機の製造現場
その大泉工場がパナソニックにとって重要な拠点となっている。というのも、パナソニックHDは車載電池に次ぐ重点投資領域として空質空調事業を掲げ、今後のグループを支える事業として期待されているからだ。その主力工場が大泉工場というわけだ。
大泉工場では、1.5~10馬力のオフィス・店舗用エアコン(PAC)、6~54馬力のVRF、8~30馬力のガスヒートポンプエアコン(GHP)、30~5000冷凍トンの吸収式冷凍機(NC)が製造されている。「電気とガスの空調機を開発・製造するオンリーワンメーカーで、一般店舗から地域冷暖房まで、用途や容量に応じて最適な機器をそろえている」と空質空調社設備ソリューションズ事業部の池田博郎部長は強調する。
ただ、国内向けVRFについては、これまで室外機の約9割が中国・大連で、室内機の約7割が海外(マレーシア約5割、広州約1割、大連約1割)で生産されていた。しかし、地政学リスクや生産のリードタイム短縮に向けて地産地消で対応することにした。
これによって、室外機については10割、室内機については約9割を大泉工場で生産することになり、生産のリードタイムが3分の2に短縮される見込みだ。移管のための投資額は20億円ほどだという。
「当社は現在、製品の消費地の近い場所で、開発・生産・販売を行う“地産地消”のモノづくりを推進している。今回、VRFについても、大泉工場に設備投資を行い、国内回帰により最適な生産体制を構築することで、顧客ニーズを反映した製品をスピーディーに展開していく」
ガスヒートポンプエアコンの製造ライン
こう説明する池田部長によると、カーボンニュートラル実現に向けて、ビル、店舗、工場などで使用するエネルギーを正味ゼロにするZEBが推進され、消費電力の空質空調機器の省エネルギー化の動きが加速している。
また、コロナ禍以降、とりわけ不特定多数の人が往来する非住居空間での換気や除菌など空気質への関心が高まっている。さらに、労働人口の減少、エネルギー問題といった社会課題に関して、顧客の行動や社会のニーズが大きく変化してきているという。
そこで、機器個別の革新と同時に、機器を連携することで、さらなる消費エネルギー削減に取り組んでいる。例えば、昨年4月には空調、換気、除菌機能などを一体化した業務用空質空調連携システムを発売。
また昨年7月には、NCにコジェネレーションシステムを組み合わせて、廃熱活用で高効率な運転を可能にした「分散型エネルギー事業」に本格参入し、専門組織を発足し、マイクロコージェネレーションシステムで強みを持つヤンマーと協業を開始している。
さらに、今年4月には、ガスと電気空調を組み合わせて、業界トップクラスの省エネ性とBCP(事業継続計画)対応を実現した「一体型ハイブリッド空調スマートマルチ」を発売した。
課題は現場のロボティクス化と省人化
しかし、製造現場ではいろいろと苦労しているようだった。というのも、自動化がなかなかできずに手作業に頼っている状況なのだ。特にNCは一品一様で、しかもパイプなどを溶接する工程が多く、ベテランの作業員が手作業で行わざるを得ないようだ。そのため、小さいNCで1カ月、大きいNCだと2カ月半も完成までかかる。
NCは工場などから出る廃熱を利用して冷房ができるということで、カーボンニュートラルを目指している企業からの注文が着実に増えているそうで、現在10機ほどが製作中だった。その中には、ホンダの工場向けのものもあった。
設備ソリューションズ事業部の池田博郎部長
それは、GHPも似たようなもので、年間約1万台生産しているが、その自動化率は約20%。ろう付け作業は人間の手に頼るのが一番確かとのことだ。
とは言うものの、ロボティクス化や省人化を進めていく必要があることを痛感しており、デジタルカメラを導入してベテランの技能を数値化したりして、いろいろと自動化に向けて取り組んでいる。5~10年後にはスマートファクトリー化、デジタル化を実現したいそうだ。
また、顧客接点の強化ということで、工事業者を対象に幅広い業務用機器に関する製品知識、施工方法・ノウハウを習得するトレーニングセンターを昨年11月に拡充した。
さらに昨年12月から業務用空調向けIoTサービス「パナソニックHVAC CLOUD」をスタートした。これはNCの運転効率をリアルタイムで分析し、省エネルギーの低減を実現するもので、業界で初めてである。そして2024年4月には、対象機器をオフィス・店舗用エアコンに拡大するなど、クラウド開発を強化していく計画だ。
「提案から設計、販売、施工、サービス、メンテナンスまで循環型ソリューション事業のプラットフォーマーを目指して事業を成長させていきたい」と池田部長は話し、これからも2ケタ成長を目指していくという。
2022年度の空質空調社の売上高は前年度比12%増の7610億円、23年度は同12%増の9040億円を見込む。調整後営業利益についても、216億円から420億円と増える見通しである。国内回帰がうまくいけば、今度さらに利益率が上がっていきそうだ。