「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム」の電力供給イメージ
京セラは10月11日、ドローンやスマートフォンなどにワイヤレスで電力を伝送できるようにシステムの基礎技術を開発したと発表した。これによって、電池の交換や充電の手間がなくなるという。実用化の時期はいまのところ未定だが、京セラではこの独自技術の開発を急いで行く方針だ。(経済ジャーナリスト・山田清志)
10m離れたところに電力伝送
「近年、パソコンやスマートフォンなどインターネットにつながる社会が広がっている。それに伴いIoT機器の増加、AI活用やビッグデータ収集に伴う多種多様なセンサーの増加、さらにドローンや小型電動車などの長時間連続利用時間増加といった社会課題が出てきている。これらの社会課題に対し、電源のワイヤレス化へのニーズ、センサーの設置自由度に対するニーズ、移動体に追従したワイヤレス電力転送に対するニーズが広がっている」と先進技術研究所の田中裕也氏は説明する。
先進技術研究所の田中裕也氏
そこで、京セラでは独自の電波制御技術により移動体への給電を可能とする「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム」の基礎技術の開発を始めた。その基になっている技術は電波(マイクロ波)の放射を集中させる技術(ビームフォーミング技術)と、電波の伝搬環境に応じてリアルタイムに電波放射を追従制御する(アダプティブアレー技術)の2つで、それを融合して5.7GHz帯おける空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムを実現した。送信時の出力は32Wで、約10m離れた場所にワイヤレスで電力を送れるという。
京セラが通信基地局事業で長年培ってきた電波の制御技術を活用し、「高速追従する電波制御」と「高精度な電波制御」を同時に両立させて電波をコントロールすることが特長だ。
高速追従する電波制御とは、電波を放射したい方向へコントロールするビームフォーミング技術により、電波エネルギーを集中制御すること。また、電波の伝搬環境に応じた指向性制御技術を適用して電波制御を高速追従することにより、移動体にも安定的に電力供給することが可能となる。この技術は、安和から放射される電波を電気的に制御するため、機械的な消耗や故障のリスクも排除できるという。
一方、高精度な電波制御とは、壁などの反射を効率的に利用し、ビームフォーミング技術と同時に電波を放射したくない方向へ電波放射を抑えるヌルステアリング技術を活用することで、電波の指向性を高精度に制御することを指す。また、電波放射を抑える範囲ココントロールするヌル広角化技術により、人体や他の無線システムに影響を及ぼさないよう電波放射を制御することが可能とのことだ。
先端技術研究所の小林正弘所長
ドローンが充電不要で飛び続ける
そのほか、ビームフォーミング技術をはじめとする独自の電波制御技術と、交流マイクロ波から直流電流へ変換整流する独自のレクテナ回路技術の組み合わせにより、電波が持つエネルギーを効率的に変換できる。その変換効率は70~80%だという。
「この技術をシステム化することで、移動する電子機器への電力伝送が可能となる。そして、電池交換や充電における手間、配線の制限による設置できなかった機器やデバイスの設置など新たな価値創造が期待できる。今回は小型モーターを搭載したミニカーの移動を追従しながらワイヤレス電力伝送することの実証に成功した」と先端技術研究所の小林正弘所長は話す。
今回の記者会見では、約70cm離れた上からミニカーに電力を送って走らせるデモを披露した。将来的には、等間隔で空間伝送ワイヤレス電力伝送システムを設置すれば、ドローンが充電不要で飛び続けられることも可能だという。しかし、それが実現するのはずいぶん先の話で、まずは工場のセンサーやIoT機器への用途を想定している。
デモンイトレーションが実施されている様子
京セラは10月17日~20日にかけて千葉県の幕張メッセで開催される「CEATEC 2023」の出展し、今回報道陣に披露したデモンストレーションを行う予定だ。