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2024年9月19日【イベント】

自工会、型式指定申請に関する不正行為の再発防止策を報告

松下次男

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日本自動車工業会(自工会)の片山正則会長(いすゞ自動車会長)は9月19日、東京都内で定例記者会見を開き、型式指定申請の不正行為に対する再発防止や下請け企業との取引適正化に関する改善策などを表明した。

 

記者会見には鈴木俊宏スズキ社長、佐藤恒治トヨタ自動車社長、内田誠日産自動車社長、三部敏宏ホンダ社長、松永明自工会専務理事の各副会長が同席した。

 

片山会長は記者会見の冒頭、カーボンニュートラルの実現や産業発展に向け「今後も自動車およびモビリティ産業が基幹産業として日本経済に貢献するために、向こう2年程度をスコープに7つの課題を抽出し、正副会長自らが各テーマのリーダーとなり、課題解決に向けた検討を進めている」と述べたうえで、直面する足元の課題テーマとして4つの事案を掲げた。

 

一つ目がクルマの型式指定申請に関する不正行為の発覚に関する問題だ。今年1月の国土交通省の実態調査で複数の会員企業で不正行為が発覚した件であり、片山会長は原則「個社の事案」としながらも、業界全体で再発防止策を共有する取り組みを進めていることに言及した。

 

まず「複数の会員企業でこのような不正行為が発覚したことは、自動車をお使いいただくすべての皆さまの安全、安心に関わる自動車製造の根幹の問題として、自工会としても大変重く受け止めている。あってはならない事案と認識している」と強調。

 

そのうえで、「各社の個別の状況を踏まえながら、業界全体で再発防止に全力で取り組むべく、会員企業14社から、経営風土作り、技術的などの広い視点で、再発防止・未然防止策の243項目が自工会へ提出された」ことを明らかにした。

 

これら具体策を「各社で共有し、自社の取り組みへの学びや役立てられるものがないかを参照することで、再発防止に向けた取り組みをより確実かつ強固なものにしたいと思っている。今回の件を確実に正しく反省するとともに、次にどう生かすかを考えることが大切だ」と語った。

 

二つ目が、下請け企業との適正取引に関する案件だ。片山会長によると、3月の公正取引委員会からの勧告、要請を踏まえ、「下請取引についての自主的な緊急点検を実施した」ところ、「一部改善が必要と思われた案件が確認された」という。

 

このため、取引先に「不利益が生じた場合は、その回復などの措置を取った上で、公正取引委員会、中小企業庁にも報告しており、今後も適正に対処したい」と話した。

 

 

合わせて、労務費などのコスト増加分の価格転嫁についても取引先との協議の状況を点検したところ、各社の調達、購買部門以外の取引を含めて、自工会が取り組んでいる“明示的な協議”のあるべき姿へと一歩踏み込んだ定義づけが「まだ十分にできていないといった回答が一部あった」とも述べた。

 

これに対し、片山会長は「価格交渉促進月間に、取引先に交渉の意思を示すレターを発信することや能動的に困りごとをヒアリングすることなど、あるべき姿に沿って取り組みを強化していきたい」と話した。

 

こうした自工会の取り組みは取引先にも周知が必要とし、片山氏は「明示的な協議のあり方、労務費、原材料費、エネルギー費などの品目ごとの対応方針を自工会の自主行動計画徹底プランに明記」するとともに、「適正取引についてはOEMとティア1のサプライヤーとの取引だけでなくサプライチェーン全体に浸透させていくことが大変重要な課題だ」との認識を示した。

 

このため、7月18日に自工会と日本自動車部品工業会の双方の正副会長全員が参加した会合を実施し、「適正取引のさらなる推進と自動車産業の競争力強化に向けて一層連携を深めていくことを確認した」と述べた。

 

具体的な取り組みの1例として、8月21日に部工会との共催で適正取引セミナーを実施し、弁護士から下請法のなどのコンプライアンスを遵守するポイントなどの講義が行われたと紹介した。

 

加えて、「適正取引の推進に向けた活動は会員企業、個社による地道な取り組みを重ねていくことが最も重要」とし、「今後、適正取引の推進に向けた活動は、会員企業個社による地道な取り組みを積み重ねていくことが最も重要であり、今般、サプライチェーン全体の共存共栄に向けた会員企業のトップによるパートナーシップ構築宣言において明示的な協議の実施や労務費、原材料費、エネルギー費などのコスト増加分の適切な転嫁に取り組むことを織り込んで更新することにした」と語った。

 

続いて、10月15日~18日に千葉・幕張メッセで開催される「ジャパンモビリティショービズウィーク2024」について触れ、ビジネスに特化したショーとして新たな試みを展開する考えを示した。

 

昨年、東京モーターショーから生まれ変わった「ジャパンモビリティショー」を初めて開催。
この背景について片山会長は「自動車産業がモビリティ産業へと変革を進め、多くの仲間と一緒に、移動だけではなく、社会課題の解決や新しい価値を創造し、豊かで夢のあるモビリティ社会を創りたいという想い」があったとし、それが多くの仲間と一緒に幅広い未来を提示する「共創プラットフォーム」へと進化したと評価した。

 

一方で、昨年のような一般の方向けのイベントは今後も2年に1回の開催とし、次世代を担うスタートアップ企業とモビリティ関連企業が集い、新たなビジネス共創を生み出す今年のようなショーは毎年開催すると述べた。

 

今年のショーについては「共創プラットフォーム」のアップデートにつながるビジネスに特化したイベントとし、3本柱に焦点を当てて実施する方針。

 

一つ目は、「スタートアップや事業会社などの技術やサービスを紹介するブース出展」。二つ目は、「スタートアップと事業会社とのマッチングプログラム」で、三つ目が「モビリティ社会の将来に向けた情報発信」と紹介した。

 

また、今回はビジネスショーであり、広く一般生活者の皆さまというより、「自社課題の解決を目指す事業会社の方々や新たな技術やサービスのアイディアをお持ちのスタートアップ関係者、そして未来のモビリティ社会や技術革新にご興味のある皆さまに多くご来場いただきたい」と述べた。

 

最後の案件が自動車税制の抜本見直しであり、片山会長は「政府・与党には今年と来年の2年間で腰を据えた議論をしていただきたく、今年の税制改正要望書において具体的な改革案を提示する」との考えを示し、近日中に詳細を公表するとした。

 

質疑応答の要旨は次のとおり。

 

――型式指定申請の不正行為再発防止に対する自工会の取り組みについては。

 

「まずは信頼回復なくして、未来志向はない。基本的には個社の問題ですが、複数社で発覚しており、業界に関わる総論的な問題として取り上げ、議論することにより、個社の活動に役立つことを目指しています。7月30日には臨時の理事会を開催し、対面で話し合い、活発な議論が出ました。結論から言いますと、個社の問題ですが、横断的に自工会のテーマともなっています。というのも各社の中で、同じような悩みを持っており、各社の改善事例、それも具体的な事例を共有することで、参考になります。それぞれ固有のケースもありますが、先に述べましたように243の改善事例が報告されており、仲間の問題として取り組み、共有したいと思っています」

 

――取引適正化に関する自主的な緊急調査で、一部改善が必要と思われる案件が確認されたとありますが、具体的にどのような事案があったのでしょうか。

 

「今回の調査は調達、購買以外を含めて幅広く公正取引問題について実施したものです。個社の観点でいえば独特のシステムなど、一般化しにくい内容になっています。それを自工会の立場で類別化し、まとめたものです。また類別化しなければ、監督官庁への報告にも難しいものがあります。先ほど、個社で一部改善が必要と述べましたが、それとは別途に法解釈の確認のレベルの問題などもあり、個社で何件あったかというのはこの場では適切ではないと思います。事例でいえば、支払い期限や減額要請の確認をしたかどうかのレベルです」

 

――それらは下請法違反に該当するのでしょうか。

 

「自工会はその内容を取りまとめたものであり、法制度に抵触するかどうかは個社の判断であり、必要ならば申請するということになるでしょう。我々にはその部分について判断できません。いずれにしろ、今回の調査で出てきた案件は総じて記載ミスや金額レベルが小さなものです」

 

――自動車税制に関する抜本的な見直しはどうような内容になるのでしょうか。

 

「自動車を取り巻く環境変化に適応したものに見直すというのが前提になります。購入時の負担軽減による市場活性化および保有時の環境性能を加味した税制を考察しており、経産省からもこのような提案をうけています。ユーザーにとっても簡素化、環境に良いクルマは負担軽減につながります。今年、来年と政府税調で議論していただき、来年末には結論を出していただければと考えております」

 

――いまグローバルでEV(電気自動車)市場が鈍化していますが、自工会の取り組みへの影響は。

 

「グローバルレベルでEVの販売が鈍化しいているのは認識しています。もともと長期的視点でみれば、市場には浮き沈みがあり、それは各国の補助金なども影響しています。今後も各国の選挙などの影響があるかもわかりません。しかし、いずれにしろ2035年、2040年に向けて流れは変わらないと思っています。このため、自工会としては2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、マルチパスウエイでマイルストーンごとの課題に取り組ことに変わりはありません」

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。