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2024年3月22日【イベント】

自工会、片山新会長初の記者会見

松下次男

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下請法違反を重く受け止め、法令遵守の緊急点検を実施

 

日本自動車工業会(自工会)は3月22日、片山正則会長(いすゞ自動車会長)就任後初の記者会見を東京都内で開き、会員企業の下請け法違反の勧告を受け、法令遵守状況の緊急点検を行うことなどを表明した。( 佃モビリティ総研・松下次男 )

 

また、今年はジャパンモビリティショーの裏年となるが、片山会長は「BtoB(企業間取引き)プラスC(個人)」のかたちで、今年もショー、イベントを実施する方向で検討を進める考えを明らかにした。

 

記者会見には片山会長のほか、副会長の日髙祥博ヤマハ発動機社長、三部敏宏ホンダ社長、鈴木俊宏スズキ社長、内田誠日産自動車社長、佐藤恒治トヨタ自動車社長、永塚誠一自工会専務理事の6人が同席した。

 

片山会長は今年1月にトヨタ自動車の豊田章男会長からバトンを引き継いで新会長に就任。その新体制後の最初の記者会見となった。

 

そこでまず見解を示したのが日産自動車への下請法違反の勧告を受け、公正取引委員会および中小企業庁の連名で自工会に対して行われた「下請代金支払遅延等防止法違反行為の防止について」の要請への対応。

 

片山会長はこの要請について「大変重く受け止めている」と強調するとともに、「本日の理事会で、一層の適正取引の浸透に向けて早急に、法令遵守状況の緊急点検を行うなど、全会員企業で再発防止の取り組みを徹底することを申し合わせした」と述べた。

 

JMS裏年の今年も「BtoBプラスC」でイベント実施

 

公取委からの要請は、下請法違反行為を周知し、違反行為の未然防止を促すとともに、今後の価格転嫁に係る法令遵守のあり方や原価低減のあり方などを検討し、業界全体の取引適正化を一層推進することを求めたものだ。

 

これに対し、片山会長は緊急点検の結果を公取委に報告するとともに、何らかの形で公開したい考えを示した。また、日本自動車部品工業会とも連携して、明示的な価格交渉の協議や労務費転嫁指針に則し、価格転嫁をしっかりと図っていくことを全会員企業へ浸透、徹底していくとした。

 

ジャパンモビリティショー関連では、昨年、次世代に向け東京モーターショーから名称変更して開催し、約111万人の来場者を達成した。このため「この流れを絶やさない」ために、今年についても理事会での議論の中からショー関連開催に関する「具体的な提案が出てきた」ことを明らかにした。

 

その上で、昨年のモビリティショーは来場者に「モビリティの素晴らしさを伝えたいという観点からBtoC(企業対個人間取引)プラスBという考え方」で実施したのに対し、今年は規模を縮小して行うことなどを検討しているという。

 

加えて、昨年のモビリティショーで展開したスタートアップ企業とのタイアップが「非常に面白い話になってきている」とし、これを継続する観点からも「BtoBプラスCという考え方で、全理事から賛同を得た」と話し、モビリティショー関連のイベントを行う方向で検討を進める意向を示した。

 

記者会見での会長、副会長の発言および質疑応答の要旨は次のとおり

 

片山会長
私自身、今年1月に豊田前会長より「タスキ」を受け取り自工会の会長に就任しましたが、100年に一度といわれる自動車産業の大変革期において、カーボンニュートラルの実現や物流の停滞が懸念される2024年問題など、様々な課題に正面から向き合い、副会長や理事の皆様と一致協力し、全力でこの難局を乗り越えてまいる所存です。

 

先日、春交渉の結果が出揃いましたが、自動車産業はこれまで厳しい経済下でも雇用を守りながら大手製造業平均を上回る水準の賃上げを継続してきました。今回の交渉では特に物価を重視した賃上げに取り組み、ほぼ全ての会員企業で満額回答を行いました。

 

物価上昇が続く中、自工会各社は「成長・雇用・分配」に積極的に取り組むとともに、サプライチェーン全体で適正な価格転換が実現できるよう一層の取引を推進したいと思っています。

 

そして自工会では自動車産業がモビリティ産業へと発展し、今後も基幹産業として日本経済に貢献していくために向こう2年程度をスコープに注力する「7つの課題」を取りまとめています。

 

その中で、「物流・商用・移動の高付加価値化・効率化」の課題については、私自身がオーナーとなり、物流24年問題に対し、課題解決に向けたデータ連携や自動運転の実用化を目指し、貢献できるよう検討を進めていきたいと考えています。

 

その他の課題についても、各副会長にて取り組む課題の調和を図り、かつ自動車産業の枠を超えて経団連モビリティ委員会企業との連携や官邸との懇談会を通じてオールジャパンで取り組みを加速します。

 

日髙副会長
7つの課題に対し、私の担当は課題6「競争力のあるクリーンエネルギー」と課題7「業界を跨いだデータ連携や部品トレーサビリティの基盤構築」の二つです。

 

課題6のついては鈴木副会長と連携して様々なクリーンエネルギーを競争力ある形で環境を整え、「マルチパスウェイ」を具現化していきます。

 

課題7のIT基盤については、まず目の前にある欧州電池規則にきちんと対応すべく、ITシステム「ウラノス」を活用した電池トレーサビリティを進めながら、「モビリティスマートパスポート構想」の実現を目指しつつ、経団連モビリティ委員会企業と協力してデータ連携の輪を広げていきたいと考えています。

 

三部副会長
私は7つの課題のうち、半導体の領域について取り組みを進めます。
ここ数年、問題となった自動車製造での半導体不足に対応し、「レガシー半導体」「アナログ半導体」という少し古く感じるかもしれませんが、自動車にとっては基幹の半導体について、うまく対応するとともに、安定調達を確保する狙いで取り組みます。

 

それも自工会だけでは完結できませんので、ティア1のサプライヤー、商社、半導体メーカーをも巻き込み、官民一体となった企画・検討を進めたいと思っています。

 

鈴木副会長
7つの課題については「競争力あるクリーンエネルギー」ということで、カーボンニュートラル燃料の早期実現を目指したいと思っています。自工会としてマルチパスウェイを取り組む中、カーボンニュートラル達成の多様な選択肢の一つであり、8250万台を超える保有台数に対しても有効なカーボンニュートラル燃料をしっかりと推進していきたい。

 

自動車業界だけでなく、石油業界、他産業、経団連、政府を巻き込みながら一つひとつ課題を解決していきたいと思っており、まず実行することが大事と考えています。

 

内田副会長
私は7つの課題のうちの2つ目「電動車普及のための社会基盤」の構築、整備に取り組みます。

 

まだまだ日本の電動化比率は高くなく、どうこれから促していけるかを、関連企業や政府と相談、連携しながら進めていきたいと思っています。
日本の競争力を引き出すという点においては協調領域が多くあると思っており、正副会長と連携しながら、自工会として方向性を出せれば良いかと考えております。

 

佐藤副会長
7つの課題について私が取り組んでいますのは「重要資源の安定調達」ならびに「国内投資が有効に生かせる通商政策への反映」です。

 

昨年のG7で発信した日本らしいカーボンニュートラルのあり方、マルチパスウェイを基軸に置きながら、その一つの手段であるバッテリーEV(電気自動車)の普及・浸透に向けて材料調達から電池の二次利用ならびにリサイクル、こうした大きなエコシステムのサイクルを描いていくことは非常に重要だと捉えて、様々な課題に対応すべく検討を進めているところです。

 

とくに重要資源の調達については、電池や半導体もそうですが、安定的に調達ルートを確保していくことが非常に重要になり、自工会全体で取り組むとともに、産業を跨いだ連携を意識しながら具体的な取り組みにつなげていきたいと考えています。

 

質疑応答は以下の通り

 

――下請法違反の問題について、原価低減のあり方を検討するということですが、どのように取り組んでいくのでしょうか。

片山 今回の下請法違反の勧告については、まず法令遵守に基づき、こういうことが起こらないよう取り組むことです。そして一つ目は、今後防止するという観点からより理解を深めること。二つ目は、今回の件では人的なミスもあり、これをシステム的に防止できないか、自動車会社の中にはすでにシステム的に優れた取り組みを行っているところがあるかと思っており、会員各社の協調領域として横展開できるような取り組みを考えていきます。

 

あわせて、今回の件を限られた問題と捉えず、これを契機に、公正取引を行うかたちへとつながれば良いと思っています。

 

関連して、原価低減のあり方でいえば、コストダウンのエビデンスをしっかりと話し合い、結果として原価を低減していくという当たり前の話になるでしょう。逆に、コストアップについてもしっかりと話し合い、価格に転嫁していくということだと捉えています。

 

――世界的にみいると、EVの減速感がでていますが。

片山 自工会としてはずっと多様な選択肢、マルチパスウェイの取り組みを申しあげてきました。昨年のG7でも官民挙げてマルチパスウェイを世界に打ち出してきたわけで、世界でもマルチパスウェイの重要性、理解が高まってきていると考えています。

 

そしてマルチパスウェイの全ての技術を持っているのは日本であり、各国の規制、エネルギー事情により、どのようなタイミングでどのような技術を出すかは個社の判断となるでしょう。

 

その上で先進国のみならず、新興国においてもしっかりとCO2(二酸化炭素)排出削減につなげていくというのが自工会の考えであります。

 

これに対し、7つの課題はカーボンニュートラル燃料を含めてバランスの良い考えと思っています。

 

――日本銀行がマイナス金利を解除しましたが、どのような感想をお持ちでしょうか、また自動車産業への影響をどう見ているのでしょうか。

片山 日本銀行が金融政策正常化に向けてマイナス金利を解除したことは大きなステップだと思います。加えまして、金融緩和政策は引き続き継続すると表明しており、金利が大きく上昇することなく、パニックは起こらないと考えています。

 

もう一つは為替の問題で、現状、日米の金利差があり、想定以上に円安に振れていますが、これについては我々の事業に直結する要素でもあり、動向を注意深く見ていきたいと思っています。

 

いずれにしろ日銀の政策は正しい時期に、正しい方向に向かっていると理解しています。

 

――通商政策に関し、各国で保護政策の動きが強まっていますが、これにどう対応していくのでしょうか。

 

佐藤 今取り組んでいますのは、バッテリーEVおよびバッテリーに関してどうエコシステムを構築していくかを議論しているところです。

 

これまでも日本の自動車産業、とくにアジアでの取り組みに関しては産業振興の観点から推進してきたところと思います。そういう点で、電池に関しても官民一体になり、アジアにおける産業振興の観点から取り組みが必要となるでしょう。

 

加えて、ブロック経済の動きが強まる中、各社バラバラに取り組みますと、産業振興や経済合理性を確保するということが難しくなります。そのためにも、ある程度、日本の中で上流から下流まで一気通貫できるエコシステムを作り、アジアで展開できる取り組みを進めていきたいと考えています。

 

――電動車普及のための社会基盤整備の取り組みをお聞かせください。

内田 例えば、日本でのEV普及率はまだ2%弱です。EVを購入しない一つの理由に、充電インフラへの不安があります。その点で言いますと、集合住宅の問題があり、新しい集合住宅にはいろいろと設置のための制度が設けられていますが、既存のものには難しいところがあります。

 

日本には集合住宅にお住いの方が全体では4割、都内で見ますと7割に上っており、その中で充電設備が設置されているのは0・06%にすぎません。
こうした中で、充電設備を早急に拡大できるかというと、機械式駐車場に設置するためには住民の方との話し合いも必要ですし、我々メーカー間の充電口が右左で違う問題もあります。

 

このため、例えば、充電設備のある集合住宅は価値が向上するとした提言や充電設備設置のための仕組みづくりなど政府と相談しながら進めて、EV購入者の不安を取り除くことが重要になると考えています。  

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。