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2024年5月16日【イベント】

ホンダ会見、10年間で約10兆円へ投資額を拡大

松下次男

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価値連鎖や生産技術に投資、2030年時の電動車の競争力を高める狙い

 

ホンダは5月16日、中長期の電動化戦略に関する「2024ビジネスアップデート」を発表し、2030年までの10年間に約10兆円を資源投入すると表明した。バッテリーを中心としたEV(電気自動車)の包括的バリューチェーンの構築や生産技術・工場の進化に投資し、2030年に向けて電動車の競争力を高める狙いだ。(佃モビリティ総研・松下次男)

 

記者会見した三部敏宏社長は北米や欧州で足元のEV(電気自動車)市場が踊り場に差し掛かったと指摘する声があるとしながらも、2050年カーボンニュートラル実現に向け、二輪・四輪などの小型モビリティについては「EVが最も有効なソリューションであるという考え方は変わらない」と強調。

 

長期的視点で見れば「EVシフトは着実に進んでいくと確信している。足元の状況変化に捉われ過ぎることなく、2020年代後半以降に訪れるEV普及期を見据えた中長期の視野で、強いEVブランド、事業基盤の構築が最大のミッションだ」と話した。

 

今回のビジネスアップデートは三部社長が就任時に表明した事業方針の進捗度を示したもので、今回が4回目の公表。表明した2030年までの資源投入額の約10兆円はこれまでに示していた投入額の倍増となる額だ。

 

三部社長はその要因について電動化やSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)の動きを取り巻く環境変化から、従来の投資額計画では足りないと判断したという。

 

EV普及期は、自前生産による垂直統合型バリューチェーンを構築する

 

今回のビジネスアップで示した電動車ラインアップ戦略では、今年の米デジタル技術見本市のCESで公表したEV「ホンダ 0(ゼロ)シリーズ」を2026年の北米を皮切りに、2030年までに小型から中大型まで、グローバルで7モデル投入する。

 

ゼロの発想で創り出したという0シリーズではF1やハイブリッドの開発で培った技術で軽量・薄型化したパワーユニットの採用により、従来比約100キログラムの軽量化を目指す。知能化では、ビークルOSやアプリケーションを独自展開し、機能をOTA(オーバー・ジ・エアー)で継続的にアップデートする商品へと進化させる方針。

 

中国では独自展開し、2027年までに10機種のEVを投入。さらに2035年までにEV販売比率を100%にする。
日本では2024年秋に軽商用EV「N-VAN e:(エヌバン イー)」を皮切りに、2026年には小型EVを投入する計画だ。

 

また、交換式バッテリーのモバイルパワーパックを使った電動化も並行して展開すると表明。広く他社へ呼びかけ、標準規格化を進めながら、普及を目指す。

 

商品では2024年にモバイルパワーパックを2個搭載する二輪電動モビリティを投入するのに続き、2025年度中にモバイルパワーパックを4個搭載した超小型モビリティを日本へ投入する。

 

EVのコアとなるバッテリーでは、EV移行期、パートナー企業との合弁生産を活用しながら、EV普及期には自前生産による垂直統合型バリューチェーンの構築を目指す。

 

2030年までに投資する都合約10兆円、その資源投入の内訳は

 

具体的には、米国で2025年に韓国LGエナジーソリューションとの合弁によるバッテリー工場を稼働開始させるほか、2020年代後半にはカナダでGSユアサとの共同開発バッテリーを自前生産する。

 

これにより2030年には北米で調達するバッテリーのコストを現行バッテリー比で20%以上削減する。また、2030年に計画する約200万台のEV生産を賄うバッテリーについては、地域ごとに最適な方法で確保する見通しが立っているとした。

 

生産技術では、6000トンクラスの高圧ダイキャストマシン、メガキャストの導入を目指しており、現在、日本初となる6000トンクラスのメガキャストマシンを栃木の生産技術の研究拠点に導入し、量産化の検証を行っている。

 

EV生産では、まずはICE(内燃機関搭載車)との混流生産で進め、最終的には2028年に稼働開始するカナダのEV専用工場で完成形を迎えるとし、従来の混流生産ラインと比較して約35%の生産コスト削減を目指す。

 

2030年までに投資する約10兆円の資源投入の内訳はソフトウェアデファインドモビリティ実現に向けた研究開発費の約2兆円、米国、カナダ、日本などでのEVの包括的バリューチェーン構築に係る投資・出資の約2兆円のほか、ものづくり関連費用の開発出資への3兆円、投資・出資の3兆円を合わせた約6兆円となっている。

 

写真左から、本田技研工業の取締役 貝原典也 代表執行役副社長、取締役 三部敏宏 代表執行役社長、取締役 青山 真二 代表執行役副社長

 

 

質疑応答には青山真二、貝原 典也の両副社長も加わった。その要旨は次の通り

 

――資源投入額を10兆円規模に引き上げた背景は。
三部 電動化やソフトウェアなどに向けて5兆円投資すると申し上げたのは約2年前。その当時から検討が進んだ結果、EVをベースにしたSDVを目指すには1台分の約3~4割を占めるバッテリーの調達が課題なります。

 

それをホンダの中で行うことで競争力が格段に高くなる。そのために巨額な投資が必要になります。加えて、これからのクルマの価値としてEVを作ればよいということではなく、AI(人工知能)を中心としたSDVが重要となっており、ソフトウェアへの投資がより必要で、従来の投資額では足りないと判断しました。

 

また、そのためには投資できる財務基盤も必要だが、十分にその力がついてきており、公表することにしました。

 

――HV(ハイブリッド車)が好調となっていることも稼ぐ力を押し上げる要因となっているのでしょうか。
青山 HVによる稼ぐ力は計画どおりの進捗です。北米で販売しているCR-Vやアコードのハイブリッドシステムは従来のものに比べ約25%ア改善しており、2020年代後半に投入する次期タイプはさらに高効率のシステムになります。

 

稼ぐ力という点ではバッテリーEVも当然、担保しており、今回の判断になりました。

 

三部 HVモデルは北米で好調となっており、システムも大きく進化しました。現状、ICEに比べても十分に、対抗できる収益性を確保しています。

 

さらに2020年代後半にはもう一段性能アップ、小型化した進化型を投入します。現状、HVモデルは販売状況は85万台程度ですが、どこまで伸びるかといえば、生産能力との兼ね合いもありますが、180万台レベルに増える可能性はあり、サプライヤーとも協議しています。販売のピークは2019年頃と見ています。

 

――2030年のEV販売計画200万代の地域別内訳は。
青山 おおよそでいえば北米75万台、中国75万台、残りの50万台を日本、アジア、欧州で分けると予想しています。プラットフォームでいえば、2030年代は0シリーズが中心になりますが、一部、日本などへはスモールタイプのプラットフォームを投入し、計画の中に含まれています。

 

三部 生産は初期段階については混流が優勢でしょう。専用ラインはカナダの25万台、中国では両方あわせて24万台。その他地域についてはこれからの動向を見て、決めることになります。カナダを作る専用工場をベースにグローバル展開することになります。

 

――どのようにメガキャストを展開していくのでしょうか。
三部 まずはバッテリーケースの60ぐらいの部品を5つ程度にすることで、軽量化を目指します。それが第一歩で、次の世代ではボディー部品の検討になります。世の中、メガ鋳造といわれているが、そんなに簡単なものでありません。

 

――次のクルマの価値はどのようなものになるのでしょうか。
三部 次のクルマの価値はSDVになるのは間違いないと思っています。昨日、発表したIBMとの共同開発もそのためのものであり、能力の高いAIをクルマが持つことを目指します。

 

ソフトウェアの開発費2兆円にそのことが含まれており、2030年前後には格段に進化したSDVになるでしょう。

 

まだ内容は絞れないが、最終的にはお客様に合わせてカスタイズされることになるでしょう。このため、半導体を含めて、我々自身が決定できる能力を持たないとSDVの競争に勝てないと考えています。

 

――中国事業での電動化戦略をどう見ているのでしょうか。
三部 中国では我々が全分野を展開するのは難しいでしょう。現地のパートナー2社を含めた3社の共同購買などを活用し、コストを下げることなど様々なケースを検討しています。

 
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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。