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2024年2月13日【トピックス】

トヨタ主導の新経営体制でダイハツは再生できるのか

山田清志

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ダイハツ工業は2月13日、一連の認証不正問題を受けて新たな経営体制を発表した。松林淳会長と奥平総一郎社長ら5人の取締役が3月1日付で退任し、新社長にはトヨタ自動車中南米本部本部長の井上雅宏氏が就任する。また、副社長にはダイハツの星加宏昌氏が留任し、トヨタ自動車九州副社長の桑田正規氏が加わる。さらにトヨタのカスタマーファースト推進本部副本部長である柳景子氏が非常勤の取締役に就く。この新経営体制で再発防止を進め、ダイハツの再生を目指すそうだ。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

軽自動車に軸を置いた会社に変更

 

「ダイハツの原点は『国民車』である軽自動車など小型車でお客さまの暮らしを支えること。良品廉価なクルマづくりは本来のダイハツの強みであり、その原点に立ち戻り、会社をつくり変える覚悟でダイハツらしさを取り戻していきたい。その考えのもと、改めてダイハツの事業領域を軽自動車に軸を置いた会社と定め、海外事業については、企画・開発・生産をトヨタからの委託に変更する方向で詳細の検討を進める」

 

トヨタ自動車の佐藤恒治社長は記者会見の挨拶でこう述べ、将来的に小型車を中心としたラストワンマイルを視野に入れたモビリティカンパニーにしていく方針だという。

 

 

ダイハツは軽自動車で2006年度から22年度まで17年連続でシェア1位を誇っているが、年間生産台数約179万台(22年度)のうち、6割以上がトヨタからの委託車といわれている。しかも、大きく増えたのが16年にトヨタが完全子会社にした以降で、ダイハツはトヨタグループの新興国向け小型車戦略の中心を担っていた。その裏で、不正を働かざるを得ないほどダイハツの負荷が大きく膨らんでいった。

 

「ここ10年の成長は、ダイハツの長い歴史の中でさまざまな強みがトヨタグループの中で発揮されたものだと思う。一方、そのなかで、現場の声、困りごとを吸い上げきれず、課題を残したまま、業務遂行をしてしまった。再発防止策について、ダイハツが力不足の点はトヨタの力を借りながら確実に実行していくこと。そして、不正を引き起こしたダイハツの組織・風土をダイハツメンバーと力を合わせて改革し、ダイハツ再生に全力を尽くしていきたい」

 

こう力強く話す井上氏は、1987年に同志社大学経済学部を卒業後、トヨタ自動車に入社。在職36年の大半を海外で駐在し、ブラジルトヨタ副社長などを経て、2019年4月に中南米本部長に就任した。ブラジルやアルゼンチンの地域経営の再構築など、長年にわたり中南米事業の構造改革に取り組んできたそうだ。

 

ダイハツ新社長の内示があった2週間前は、出張先の南米ペルーにおり、突然インターネット会議の連絡が入ったという。「真夜中に目覚まし時計をかけて出席し、豊田章男会長、佐藤社長から今回の話を聞いた。これは夢なんじゃないかと思ったが、事実だったので、責任の重さに身震いした」そうだ。

 

 

ダイハツの社長、会長の辞任は引責ではない

 

佐藤社長とともに記者会見に臨んだ井上氏は、現場主義でダイハツ再生に取り組む姿勢を示した。それでは、記者会見での主なやり取りを紹介しよう。

 

――井上氏をダイハツの新社長に選任した狙いはどんなところにあるのか。

 

佐藤氏「ダイハツが取り組まなければならないことは、再発防止をしっかり実行していくこと。それを進めるには、現場でそれぞれの人が思ったことをしっかりと話ができ、会話をしながらダイハツらしさを取り戻していくという長期視点の経営改革が必要だと考えている。井上氏は新興国を中心に言葉の壁を乗り越えながら、かなり厳しい事業環境の中でもコミュニケーションを大切にしてきたリーダーだ。そういう意味で、現場で対話しながら一緒になってダイハツの向かうべき方向を従業員と取り組んでくれると考えた」

 

――ダイハツの内部から社長を選ぶのではなく、またトヨタから人材を送ることになった理由を教えてほしい。

 

佐藤「まず本当に現場で指揮することが大事と考え、グループ全体の中から人選した。井上氏もそうだが、副社長として経営に参画する現トヨタ自動車九州である桑田氏は、トヨタ九州で仕事を始めて以降、毎週、毎週現場で対話しながらものづくりを進めている。そういう人間が井上氏をしっかりとサポートすることで、クループ全体でダイハツらしさを取り戻していきたい。

 

井上氏「今回送られた側なので、送る理由は言えないが、送られた側の気持ちとしては、ワンチームでダイハツの経営改革、風土改革、ものづくり、ことづくり改革を進めたいと考えている。不正の問題となった認証制度については、柳氏をいうエキスパートがいるので、しっかり見てもらいながら、ダイハツのことを一番よく知っている星加氏、組織作りのプロである桑田氏、そして井上の4人がワンチームとなってダイハツを再生すること、これがミッションだと思っている」

 

――松林会長と奥平社長が辞めるのは引責辞任と考えていいのか。

 

佐藤氏「再発防止を徹底しながらダイハツらしさを取り戻していくために必要な体制変更を行うということなので、引責辞任ではない。ただ、今回の人事を決定するに当たって、奥平氏とも直接会話をし、今後のダイハツの再生をどういう体制でやっていくべきかということについては、かなりの時間を使って話をした。奥平氏本人からは辞任の申し出があり、また副社長として留任する星加氏からも辞任したいという話があった」

 

開発スピードを落として態勢を立て直す

 

――ダイハツの再建に関して、トヨタ本体との一体化は考えなかったのか。

 

佐藤氏「不正問題の発覚当初は、ダイハツという企業の存続そのものが社会から認められないのではないかということで、トヨタへの一体化も含めて検討した。現場でダイハツの従業員や販売店、業販店など地域の方々の声を聞いたところ、応援や叱咤激励の声が多かった。やはり100年を超える歴史をもつ企業でもあり、もう一度ダイハツに役割を任せるという決断に至った」

 

――ダイハツの再生にどのように取り組んでいこうと考えているのか。

 

井上氏「最初にやりたいことは社員をはじめ、販売のセールスマンの方、メカニックの方、サプライヤーなどと話をし、その声を聞きながら早く元の体制に戻したい。新しいダイハツの再生に向けて、チームが一丸となって盛り上がること、心を一つに進んでいくことを目指していこうと考えている」

 

――現場に余裕を持たせるために開発期間を延ばすということだが、ダイハツの競争力低下につながらないのか。

 

佐藤氏「企業にとっての競争力は大事なファクターだが、企業経営はマラソンと同じで、長期的に考えていくべきものだと思う。今のタイミングでは、少しスピードを落としてでも、正しい仕事ができるように態勢を立て直す必要がある。そのペースを落としている間に、自分たちの強みをもう一度見直していくことが必要だ」

 

井上氏は4月に新社長としての方針を発表するとのことだが、ダイハツが風土改革を実行して再生するまでの道のりは険しそうだ。

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。