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2024年3月1日【イベント】

ボッシュ、自動運転開発に係る生成AI連携で新境地

坂上 賢治

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ボッシュとマイクロソフトは3月1日、自動運転機能の向上を目指し生成AIの活用を視野に協業することを明らかにした。

 

ロバート・ボッシュGmbH取締役会会長のシュテファン・ハルトゥング氏は、先のベルリンに於いて2024年2月28日 – 2024年2月29日の期間で開催したボッシュの産業カンファレンス〝Bosch Connected World (BCW)〟の壇上で、「ボッシュは、自動車に新次元のAIアプリケーションを活用しようとしています。

 

当該生成AIの活用を介して車両が周囲の走行状況を判断し、その場、その場に応じた反応ができるようになること。その結果、道路利用者の安全が更に高まることが期待できます。

 

 

しかし、これを実現するためには、ボッシュの車両に関する包括的な理解と、自動車固有のAIの専門知識、さらに生成AIに提供するための車両センサーデータへのアクセスが益々、重要になります」と述べた。

 

対してマイクロソフトのCVP 兼ディスティングイッシュド・アーキテクのウーリ・ホーマン氏は、「より安全な道路にしていきたいとする、今回のボッシュ社の揺るぎないコミットメントのもと、当社は生成AIの領域を開拓するために、彼らとの協業の機会を探求したいと考えています。

 

というのは今日でさえ、自動運転ソフトウエアのトレーニングシステム上で、旧来のAIはすぐに限界に達っすることがあります。

 

というのはカメラやLiDARを介した運転支援システムに於いて、人、動物、物体、車両を素早く検出できる一方で、その対象物がどういう動きをするのか、即座に判断しなければならない領域は、未だ課題になっているからです。

 

 

仮に運転中の前方の道路にボールが転がると、その直後には車の往来も気にせずに、子供がそれを追いかけてくる可能性があります。

 

人間のドライバーなら、状況に応じた知識を用いてこの状況を判断できますが、現在の運転支援システムや自動運転システムでは、この領域で、さらなる学習が必要であり、そうした領域に於いて生成AIは、事故につながる可能性があるかどうかの判断に関して、大きく役立つと考えているからです。

 

例えば、前方の路上にある物体がプラスチックの袋なのか、それとも破損した車両部品なのかを推測するなど、生成AIは、膨大な量のデータを利用して自動運転向けのシステムを更に深く学習させる機会を提供でき、そうした蓄積データからより良い結論を導き出すことが可能です。

 

 

生成AIであれば、この情報を警告表示などでドライバーへ直接伝えたり、ハザードランプを点灯させながらブレーキを掛けたりすることを促すなど、適切な運転操作の実行に活用できます」と説明した。

 

またロバート・ボッシュGmbHの取締役会メンバー兼チーフデジタルオフィサーのタニア・リュッカート氏は、「生成AIは自動運転のイノベーションを加速させる可能性があります。かつてのコンピューターの発明と同様に、産業を一変させる潜在能力があるからです。

 

 

それは、2024年の調査Bosch Tech Compassでも証明されており、回答者の64%がAIは将来的に最も重要なテクノロジーであると考えていることが分かっています。その調査は、そこから僅か1年前に行われた際は41%に過ぎませんでした。

 

実際、ボッシュでは、製造業から日常の事務作業に至るまで、既に多くの分野で生成AIが活用されており、AWS、Google、Aleph Alphaなどの複数パートナーと協力実績もあります。

 

またボッシュ・グループのベンチャー キャピタル部門であるBosch Venturesは昨年、AI企業のAleph Alphaに投資しています。以来、ボッシュとAleph Alphaは相互に学び、お互いのノウハウからメリットを享受し、事業領域を跨いだユースケースで協力したいと考えています。

 

実は、このパートナーシップは現時点に於いても、北米で最初の成果をあげており、ボッシュはAleph Alphaと共同で、ある高級車メーカー向けのAIベースの音声認識を発表しました。同ソリューションでは、チャットボットが自然言語処理のもと、方言、アクセント、雰囲気も認識しながら、ロードサービスとの通話を理解し、応答します。

 

 

この音声認識機能は、直接電話の対応ができるため、ドライバーの待ち時間が最小限に抑えられます。更に40%もの問い合わせが自動的に処理され、解決されます。より複雑な内容の問い合わせに対しては、ボットがすべての関連情報をサービスセンターのエージェントに送信し、エージェントがすぐに対応します。

 

ちなみに、ボッシュの AIエキスパートは現在、この新しいAIモデルを活用して、ボッシュの従業員やお客様向けに、ソフトウェアプログラムコードの生成や、技術者をサポートしたり消費者と対話したりするための高機能チャットボットやボイスボットといった、120を超える具体的なアプリケーション開発に取り組んでいます。

 

加えて2023年末に当社が発表した社内のAI支援検索エンジン、AskBoschでは、イントラネット上に散在する様々なデータソースに自然言語による高速アクセスが可能になります。

 

AskBoschには、外部から入手可能なデータに加えて、社内のデータソースも含まれているため、ボッシュの従業員は会社固有の情報も調べることができるようになりました。

 

 

加えて生成AIは、製造現場のスピードも向上させます。ドイツにあるボッシュの2つの工場に於ける初期プロジェクトでは、生成AIにより合成画像を作成し、光学検査用のAIソリューションの開発と拡張、および既存のAIモデルの最適化を行っています。

 

その結果、AIアプリケーションの計画、立ち上げ、増強に必要な期間が、現在の半年~1年から、わずか数週間に短縮されると見込んでいます。合成データを生成するこのサービスは、試験運用が成功したのち、ボッシュの全拠点に提供される予定です。

 

つまり日々の生活に於いて、より多くの分野でAIが利用されるようになるにつれ、専門的な能力開発の重要性がますます高まっているのです。

 

Bosch Tech Compassの調査結果でも、回答者の58%がこのことを確信しています。この意見は特に米国で多く、63%に登っています(ドイツ:54%、中国:52%)。

 

更に〝AI は、世界をより良い場所にしますか?とする問いに対して、全体の55%はAIが世界をより良い場所にすると信じており、その詳細では、中国 (83%) とインド (75%) の回答者が最も楽観的でした。

 

また〝AI 時代の幕開けに向けた準備はできていますか?〟とする問いについて約半数 (49%) は、Aの拡大の準備ができているとした結果が出ました(インドで76%、中国で73%)。〝AIは人間と同じくらい賢くなることができるのでしょうか?〟とした問いでは大多数 (61%) が、AI が人間レベルの知能を達成すると予想しています(イン73%、フランスでは53%)。

 

 

そうしたなかボッシュは、欧州に於けるAI活用の世界を先導しており、積極的な従業員教育を重ねています。既に2019年の段階でボッシュは、当初3万人の従業員にAIに関する知識を習得させることを目的としたトレーニングプログラムを開始しました。

 

 

現在までに約2万8,000人の従業員がこのプログラムに参加しています。AIを扱う倫理ガイドラインを定めたボッシュAI倫理指針と同様、このプログラムにも生成AIに関するコンテンツが追加されています」と、社内に於けるAIを利用した実績と、その波及効果について結んでいる。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。