– MOBILITY INSIGHT –
本記事は平素、雑誌版に上稿頂いている識者によるNEXT MOBILITYの連載コラムです
もはや半分忘れかけていたが、新型 コロナウイルスの感染爆発にビクビク しながらも前代未聞の無観客という異 例ずくめの「東京五輪・パラリンピッ ク」が開かれた令和3年(2021年) も師走に入り、この時期は1年を振り 返ることが多くなる。秋以降、恐れて いた変異株も一時落ち着き、緊急事態宣言が全面解除となり、大規模イベントの人数制限も撤廃された。ただ、ようやくコロナの闇から小さな光が見えてきた矢先に、新たな「オミクロン株」への感染懸念もあり、今年も忘年会などの宴会を控える企業も少なくない。
検査不正が相次ぐ三菱電機、 システム障害続出のみずほ
宣言解除後に東京商工リサーチが全 国の約8000社の企業を対象に実施 した調査では、7割以上の企業が「忘年会や新年会を開催する予定がない」 と回答したという。昨年の同様の調査 では「開催しない」が9割を超えていたそうだが、やや復活の兆しはみられるものの、感染防止の意識が高まり、まだまだ警戒心を解くに至らないことに加え、宴会そのものを控えるムードが広がっていることが読み取れる。
忘年会とは読んで字の如く、今年1年の嫌なことや、苦しかったことを忘れて、新たな気持ちで新年を迎えようと、年末の飲食を伴う「親睦会」だが、しばらく会えなかった人と日ごろの不義理を果たすにも好都合だ。歴史を紐解けば、庶民の間で酒を酌み交わし、どんちゃん騒ぎしながら憂さ晴らしする習慣が始まったのは江戸時代のようで、明治になってから役人や寮生活の学生の間で年中行事として定着したらしい。
ではこの1年を振り返って、そんな 憂さ晴らしでもやって〝厄払い〟をしなければ年が越せそうもないようなお騒がせの〝謝罪〟企業とは、どんな会社なのだろうか。まず浮かぶのは創立100周年という記念すべき大きな節目の年にもかかわらず、鉄道車両向け製品の偽装データによる検査不正や品質問題などが相次いで発覚した三菱電機。しかも一連の不正が30年以上にわたり、組織的に隠蔽されていたというから罪深い。
次いで今年だけでも8回のシステム障 害が発生し、金融庁から業務改善命令を受けたメガバンクのみずほフィナンシャルグループも呆れ返るばかりだ。お家の一大事が露呈した三菱電機同様に、みずほの経営トップも引責辞任に追い込まれるほどの危機的状況に直面している。
今年のトヨタは過去「最高」と「最悪」の二刀流で〝MVP〟
そして、まるで「厄年」かのように、グルーブ会社を含めて〝イエローカード〟が積み重なったのがトヨタ自動車だ。企業業績は好調で業界全体を悩ます半導体などの部品不足による減産を強いられた中でも9月の中間決算は、円安の追い風もあり売上高、営業利益、純利益とも中間期として過去最高となった。
しかしながら「好事魔多し」で、6月には、若手社員の自殺が上司のパワハラが原因として労災認定され、トヨタも因果関係を認めて和解が成立。豊田章男社長が遺族に直接謝罪したことが明らかになった。さらに、7月以降、直営店や系列ディーラーによる不正車検が発覚したほか、部品共販会社でもパワハラ問題などが取り沙汰された。8月には五輪開催中の選手村では、トヨタが提供した自動運転中の巡回バスが視覚障害の柔道選手と接触事故を起こして大騒ぎとなった。
また、10月に入り、日本製鉄が特殊材の特許権侵害でトヨタと中国の宝山鋼鉄を提訴する予期せぬ〝事件〟も勃発。目下係争中のため、軽々に論ずることはできないが、日本経済をけん引するトップ企業同士の関係に微妙な亀裂が生じているのが気掛かりだ。わ ずか数カ月の間にこれほどの不祥事が続出した年も珍しいが、過去「最高」と「最悪」との「リアル二刀流」の〝MVP〟ではコロナ下の好業績も台無しになる。
KHK大河ドラマ『晴天を衝け』でも話題を集めた渋沢栄一が、『論語と 算盤』に「名を成すは常に窮苦の日にあり。敗事の多くは得意の時による」 と記している。順調な時でも奢らずに失意の時だからといってめげずに大きな志を忘れるなという教えである。新しい年はネジを巻き直して汚名返上を果たせるか、お騒がせ〝ビッグスリー〟 の振る舞いをしかと見届けたい。
福田 俊之
1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。