「東京ベイeSGプロジェクト」その名に込められた想い
――そうした切迫感が〝東京ベイeSGプロジェクト〟の背景になっている訳ですね。
山本 ▶ はい。加えて、その東京ベイeSGプロジェクトの名称について我々は、〝ESG〟のEを小文字のeにして〝eSG〟と読み替えて表しています。
このeSGとした理由については、もう少し詳しく説明させて下さい。一般的にE・S・Gは〝環境・社会・ガバナンス〟に沿った事業活動の事を指していますよね。
しかし私たちは敢えてeを小文字に置き換える事で、そこに複数の意味を込める事にしました。例えばこの〝e〟はエコロジー、エコノミー、エポックメイキングなどの複数の意味合いを持たせています。
実は、このような読み替えには、他にも幾つかのテーマ性が内包されているのですが、中でも東京ベイeSGプロジェクトには、我々が最も大切にしているテーマがあります。
それは小文字のeに続く大文字の〝S〟と〝G〟です。ここには〝渋沢栄一〟を表す〝S〟と、〝後藤新平〟を表す〝G〟が表現されているのです。
今日に至る東京の歴史を振り返ると、現代の東京の礎を築いて来た先のふたりの先人は、持続可能性を希求し、先見性と確固たる信念、幾多の困難を絶え間ない努力を重ねて乗り越え、それぞれが思い描く夢を実現させました。
まず日本の資本主義の父と呼ばれている渋沢栄一氏は、生涯「論語と算盤」を唱えていたように日本全体が豊かになるためには、一握りのエリートが経済発展の利益を独占するのではなく、利益を社会に還元する事が大切だとする考えの下、持続可能な社会の実践に努めました。
対して元々は医師であり東京市長であった後藤新平氏は、関東大震災後の帝都復興計画の策定で、都市機能として重要と考えた幹線道路を敷く事により、人の流れや物流の変化を促すなど、50年・100年先の未来の人たちの暮らす社会を見据えた都市づくりを進めました。
これを前提に、我々が打ち出した東京ベイeSGプロジェクトのコンセプトは、感染症・気候変動・エネルギーの3つの危機を前に、未来の東京のあるべき姿を描いていくべく、本来のESGの概念に〝環境・エコロジー・経済・革新〟を束ね、更に今から100年前に今の東京の種を蒔いた先人の精神を表す〝SとG〟で撚り合わせたものなのです。
小池東京都知事も、このお二人の先人を大変敬愛しており、そのスピリッツを拝借したいという想いも込められています。
――では、そうしたテーマ性を踏まえて、今後どのような都市づくりを東京ベイeSGプロジェクトは目指すのでしょうか。
山本 ▶ まずは〝自然〟と〝便利〟が融合するサスティナブルな都市を目指します。
自然では、生物多様性の保全や気候変動対策を掲げて、緑や環境を重視した都市づくりに取り組む事になります。
とは言っても、大都市・東京に林立するビル群を動かす訳には行きません。そこで実施計画の皮切りとして我々は、ベイエリアの埋立地を舞台に自然に立脚した都市づくりに挑戦します。
しかし都市の限られた区画の一部に、緑の自然を設けるだけでは全く意味がありません。そこで次世代モビリティや再生可能エネルギーなどの最先端テクノロジーを融合させ、自然環境の中に便利さが根付いている未来都市の姿を描いて行く事を考えています。
そんな未来の都市づくりで柱となるのは2つの拠点です。
その1つは、東京ビッグサイトや物流ターミナル、商業エンターテインメント施設、東京2020大会関連施設など多彩な魅力を備えた〝臨海副都心〟。
もう1つは、東京湾の南側に位置する〝1000ヘクタールの広大な埋立地〟を配した中央防波堤エリアです。(※注:1000ヘクタールは埋立が完了する将来の数値)
まずは、これら東京のベイエリアを中心に新しい都市づくりを展開して行きます。自然と便利が融合した新しい都市づくり、危機を乗り越えたモデル都市としての姿を、東京から世界へ発信出来ればと考えています。