——トヨタが進めるコネクティッドカー戦略のポイントは。
友山 いわゆる「三本の矢」から成る重点施策の推進を加速させることにある。その第一の矢は、「すべてのクルマをコネクティッド化した『つながるプラットフォーム』の構築だ。具体的には2020年までに日米でのトヨタ車・レクサス車にDCM(データコミュニケーションモジュール=車載通信機)を標準搭載していく。
続く第二の矢は、「ビッグデータ活用を推進し、お客様や社会に貢献すると同時に、トヨタ自身のビジネス変革を推進」する。
そして第三の矢が、「あらゆる異業種・IT企業と連携し『新たなモビリティサービス』を創出することだ。すでにマイクロソフトや、KDDIとは連携しているが、今後もプラットフォーム事業に於いては積極的な提携を進めていく。
MSPF戦略の推進でトヨタはモビリティサービスのプラットフォーマーに
——「つながるプラットフォーム」の構築は、異業種やIT企業との協業や競争を意味するのか。
友山 トヨタは「MSPF(モビリティサービス・プラットフォーム)」を構築する。このMSPFによってトヨタは将来、モビリティサービスのプラットフォーマーになる。
従ってトヨタは、コネクティッドの分野に於いて対立軸は作らない。基本的には協業であり、パートナーを素早くキャッチアップしてMSPF戦略を推進し、未来に向けてトヨタの成長を促していく。
——かつては、テレマティックス時代の到来を踏まえて、「クルマのスマホ化」とも呼ばれた頃もあったが、現在のコネクティッド戦略との違いはどこにあるのか。
友山 たしかにかつてテレマティックスサービスと言われていた時期もあるが、それは表面的な通信サービスだけを意味している。対してコネクティッドは、メーカーやディーラー、あるいは異業種とお客様とを有機的につないだプラットフォームのことを、そう呼んでいる。
トヨタのコネクティッド戦略は、電子部品とソフトウェアが時代の推進力となっていたこれまでのクルマの価値を大きく変え、車両情報連動型保険やライドシェアに対応し、さらにクルマ中心としたビジネスを大きく変革していくということだ。バリューチェーンもコネクティッドを介して一貫してつながり、そのビジネスフィールドは、より大きく広がっていくことになる。
ここでトヨタは、MSPFを介してクルマの接点をきちんと確保しつつ、オープンにサービスを提供する。また全てのお客様の安全やセキュリティを守るためにトヨタがお役に立っていくということになる。
トヨタの強みを生かした戦略で、自動車ビジネスの民主化は加速される。
——ライドシェア(相乗り)は、日本での規制に対し海外では広がっている。日本の若い世代も、海外に行くとウーバーなどを利用する機会が多いと聞く。
友山 トヨタもウーバーと提携しているが、世界規模に於けるクルマ利用で、どのライドシェアサービスが拡大していくかはまだ未知数だ。
いずれにしてもライドシェアやカーシェアリングで、保有から利用への流れは進むだろう。これによりクルマへの関わりや利用方法が変わる。例えばライドシェアは米国やアジアで大きく伸びている。我々もコネクティッド戦略の一環として、この動きはしっかりと捉えていかねばならない。
——トヨタのコネクティッド戦略におけるシェアリングビジネスとは。
友山 カーシェアにしても、ライドシェアにしても、「お客様が乗りたくなるクルマを作り提供する」。この基本は変わらない。
ただライドシェア市場でトヨタ車やレクサス車が、より多く利用されることを目指すためにもコネクティッドは重要だ。この結果、現在よりクルマの稼働率を上げられれば、クルマの代替えサイクルがより一層短くなり、ディーラーの整備ビジネスも、より多くの要望を求められることになるわけだから。
——トヨタとして捉えるコネクティッド戦略の課題は。
友山 今後、自動車ビジネスはどんどん民主化していく。これは様々な意味での民主化と言うことであり、そこには「電動化」や「情報化」、「知能化」などの技術革新の動きに加え、多様な企業など、時代を塗り替えようとする人的リソースも加わってくる。
具体的な動きでは、自動運転やバリューチェーンの変化。ライドシェアといった自動車利用に関わる新たな動きに対してもそうだ。そうしたなか特にグローバルIT企業の存在は、伝統的な自動車産業にとっては脅威になるとの見方もある。
しかし我々は、これらをリスクとは捉えない。こうした時代の流れを我々は積極的にチャンスに換えていくべきあり、そのためにトヨタが今後、何を強みに、どのような事を成し遂げようとしているかが、ひとつの鍵となるだろう。
例えばその切り口として、我々は旧態の産業資本で云う「マニュファクチャラー」ではないということだ。
我々のトヨタのビジネスは、マニュファクチャラーとしての事業だけで語れるものではなく、「人から人へ」と製品の流通ネットワークを広げていくディストリビューターでもあるということを忘れてはならない。
つまりトヨタは、自らの手でものづくりを行って独自の製品を生みだし、さらにその製品の販売網を広域で持ち併せ、自らで全域をコントロールしているというところが大きな意味を持つ。
この他には代え難い、強みを活かすことができれば、グローバルIT企業とも手を組むことができるし、むしろ先進国など一部の国際環境に於いて成熟産業となった同市場を、改めて成長産業に切り替えていくことすらできると考えている。
白物家電にはならない、サイバーセキュリティには細心の対策を(後半へ続く)
(同コンテンツは、12月4日に書店販売を開始した隔月刊誌「NEXT MOBILITY」からの記事転載となります。連載2回目となる後半は、11日に公開しました)