NEXT MOBILITY

MENU

2017年12月4日【特集】

トヨタ自動車、友山茂樹氏に訊くモビリティの未来とコネクティッド戦略(前編)

佃 義夫

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

 

——トヨタが進めるコネクティッドカー戦略のポイントは。
 友山 いわゆる「三本の矢」から成る重点施策の推進を加速させることにある。その第一の矢は、「すべてのクルマをコネクティッド化した『つながるプラットフォーム』の構築だ。具体的には2020年までに日米でのトヨタ車・レクサス車にDCM(データコミュニケーションモジュール=車載通信機)を標準搭載していく。

 

続く第二の矢は、「ビッグデータ活用を推進し、お客様や社会に貢献すると同時に、トヨタ自身のビジネス変革を推進」する。

 

そして第三の矢が、「あらゆる異業種・IT企業と連携し『新たなモビリティサービス』を創出することだ。すでにマイクロソフトや、KDDIとは連携しているが、今後もプラットフォーム事業に於いては積極的な提携を進めていく。

 

MSPF戦略の推進でトヨタはモビリティサービスのプラットフォーマーに

 

——「つながるプラットフォーム」の構築は、異業種やIT企業との協業や競争を意味するのか。
 友山 トヨタは「MSPF(モビリティサービス・プラットフォーム)」を構築する。このMSPFによってトヨタは将来、モビリティサービスのプラットフォーマーになる。

従ってトヨタは、コネクティッドの分野に於いて対立軸は作らない。基本的には協業であり、パートナーを素早くキャッチアップしてMSPF戦略を推進し、未来に向けてトヨタの成長を促していく。

 

 

——かつては、テレマティックス時代の到来を踏まえて、「クルマのスマホ化」とも呼ばれた頃もあったが、現在のコネクティッド戦略との違いはどこにあるのか。
 友山 たしかにかつてテレマティックスサービスと言われていた時期もあるが、それは表面的な通信サービスだけを意味している。対してコネクティッドは、メーカーやディーラー、あるいは異業種とお客様とを有機的につないだプラットフォームのことを、そう呼んでいる。

 

 トヨタのコネクティッド戦略は、電子部品とソフトウェアが時代の推進力となっていたこれまでのクルマの価値を大きく変え、車両情報連動型保険やライドシェアに対応し、さらにクルマ中心としたビジネスを大きく変革していくということだ。バリューチェーンもコネクティッドを介して一貫してつながり、そのビジネスフィールドは、より大きく広がっていくことになる。

 

ここでトヨタは、MSPFを介してクルマの接点をきちんと確保しつつ、オープンにサービスを提供する。また全てのお客様の安全やセキュリティを守るためにトヨタがお役に立っていくということになる。

 

 

トヨタの強みを生かした戦略で、自動車ビジネスの民主化は加速される。

 

——ライドシェア(相乗り)は、日本での規制に対し海外では広がっている。日本の若い世代も、海外に行くとウーバーなどを利用する機会が多いと聞く。
 友山 トヨタもウーバーと提携しているが、世界規模に於けるクルマ利用で、どのライドシェアサービスが拡大していくかはまだ未知数だ。

いずれにしてもライドシェアやカーシェアリングで、保有から利用への流れは進むだろう。これによりクルマへの関わりや利用方法が変わる。例えばライドシェアは米国やアジアで大きく伸びている。我々もコネクティッド戦略の一環として、この動きはしっかりと捉えていかねばならない。

 

——トヨタのコネクティッド戦略におけるシェアリングビジネスとは。
 友山 カーシェアにしても、ライドシェアにしても、「お客様が乗りたくなるクルマを作り提供する」。この基本は変わらない。

ただライドシェア市場でトヨタ車やレクサス車が、より多く利用されることを目指すためにもコネクティッドは重要だ。この結果、現在よりクルマの稼働率を上げられれば、クルマの代替えサイクルがより一層短くなり、ディーラーの整備ビジネスも、より多くの要望を求められることになるわけだから。

 

——トヨタとして捉えるコネクティッド戦略の課題は。

友山 今後、自動車ビジネスはどんどん民主化していく。これは様々な意味での民主化と言うことであり、そこには「電動化」や「情報化」、「知能化」などの技術革新の動きに加え、多様な企業など、時代を塗り替えようとする人的リソースも加わってくる。

 

具体的な動きでは、自動運転やバリューチェーンの変化。ライドシェアといった自動車利用に関わる新たな動きに対してもそうだ。そうしたなか特にグローバルIT企業の存在は、伝統的な自動車産業にとっては脅威になるとの見方もある。

しかし我々は、これらをリスクとは捉えない。こうした時代の流れを我々は積極的にチャンスに換えていくべきあり、そのためにトヨタが今後、何を強みに、どのような事を成し遂げようとしているかが、ひとつの鍵となるだろう。

 

例えばその切り口として、我々は旧態の産業資本で云う「マニュファクチャラー」ではないということだ。

我々のトヨタのビジネスは、マニュファクチャラーとしての事業だけで語れるものではなく、「人から人へ」と製品の流通ネットワークを広げていくディストリビューターでもあるということを忘れてはならない。

 

つまりトヨタは、自らの手でものづくりを行って独自の製品を生みだし、さらにその製品の販売網を広域で持ち併せ、自らで全域をコントロールしているというところが大きな意味を持つ。

この他には代え難い、強みを活かすことができれば、グローバルIT企業とも手を組むことができるし、むしろ先進国など一部の国際環境に於いて成熟産業となった同市場を、改めて成長産業に切り替えていくことすらできると考えている。

 

白物家電にはならない、サイバーセキュリティには細心の対策を(後半へ続く)
(同コンテンツは、12月4日に書店販売を開始した隔月刊誌「NEXT MOBILITY」からの記事転載となります。連載2回目となる後半は、11日に公開しました

1 2
CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。