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2024年12月23日【オピニオン】

日産・ホンダ・三菱自、経営統合に係る協議検討の会見要旨

坂上 賢治

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ホンダ、1兆円を加えた計1.1兆円の自己株式取得を取締役会で決議

 

日産自動車( 日産:内田誠社長 )と本田技研工業( ホンダ:三部敏広社長 )は12月23日、東京コンベンションホール&Hybridスタジオ( 東京都中央区京橋 )に報道陣を募り、両社が経営統合( 共同持株会社設立 )に向けた協議・検討を本格的に開始することで合意に達したこと。またそれに関わる基本合意書を締結したことを明らかにした。( 坂上 賢治 )

 

 

加えて上記、日産とホンダの基本合意書の締結発表に合わせ、三菱自動車工業( 三菱自動車:加藤隆雄社長 )は、同様の検討・協議に参画しシナジーを享受するかを早急に判断( 2025年1月末 )することに合意。同日は3社は並んで各々の覚書( 日産・ホンダは経営統合に向けた協議開始。三菱自動車は経営統合に向けた協議に入るべきかを検討する )内容について合意した。

 

 

なお同会見のなかで、ホンダは予てより課題であった資本の適正化について、既に11月に発表していた1000億円の自己株式取得に加え、追加で1兆円を加えた計1.1兆円の自己株式取得( 発行済み株式総数の23.7% )を同日の取締役会で決議したことについても発表している。

 

総じて会見内容は、現段階では経営統合のための事前協議で合意しただけという内容のため、分かっていることは〝協議を行うことのみ〟で何も決まっていない。

 

従って歯切れは良くないものの、日産・ホンダ双方にとっては、来るべき2030年〜2040年先を考えると、未来を個社単独で勝ち残っていくことは、現時点の量産自動車メーカーとしての立ち位置を続ける限り、行く先はレッドオーシャンでしかない。

 

多くの報道では、国内2位の自動車メーカーであるとか、世界3位の自動車グループという触れ込みではあり、確かに飛躍の可能性はあるものの、現在、世界2位を行くフォルクスワーゲングループでさえ経営環境が厳しい折り、安穏とはしていられない。また相変わらずの低利益率ではあるもののホンダの安定感から比較すると、日産の状況は心許ない。

 

また今回は噂とは言え鴻海が浮上しているが、今回の日産・ホンダ・三菱自動車による経営統合の協議話には、自動車メーカーではないもうひとつのピースがあればという想いが付きまとう。会見内容から、あり得ない話であるようだが、日本主導で3社統合の大手自動車メーカーの傘下に、インド製造も包括できる製造企業というピースがあれば国際環境下で、どういうサプライチェーンが敷かれるのだろうか。

 

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以下は、同会見に於ける3社長が登壇しての会見要旨となる。

 

ホンダ・三部社長 本日、日産とホンダは、 経営統合に向けた協議を正式に開始することについて、両取締役会の決議を経て基本合意を締結いたしました。併せて三菱自動車は、この2社による経営統合の協議に加わるかの検討を開始。 2025年1月末を目処に判断するという基本合意も締結いたしました。

 

但し同基本合意は、まずは検討を開始すること。及びその枠組みについての取り決めで経営統合そのものを決定したものではありません。日産とホンダも、三菱自動車が判断する来年1月末を目処に、経営統合の可能性について方向性を打ち出すことを目指し、本日以降、議論を深めて参ります。

 

 

今日、自動車業界を取り巻く環境がグローバルで劇的に変化する中で、 そうした協業とは別枠で( 日産自動車とホンダは )議論を重ねてきた一方で、両者が統合することで、あらゆる領域で化学反応が生じるシナジー効果が想定以上に大きいことも再確認できました。

 

未来のモビリティは、ハードウェアによる差別化だけでは成り立たない

 

現在、顕在化しつつある世界の自動車産業の地殻変動を見渡した時、 これからのモビリティは、従来のハードウェアによる差別化だけでは意味がなく、知能化・電動化を中心に、その有り様が大きく変わっていくだろうとという認識を更に深めています。

 

両者間で議論を重ねるに連れて、より大局的視点で両者の認識が共有できるようになりました。 具体的には、過去の産業革命がモビリティの有り様を大きく変えてきたことに鑑みた際、 今日の課題は電動化が〝エネルギー〟、知能化は〝コミュニケーション〟に置き換えることができます。

 

 

それは未来のモビリティでは、このエネルギーとコミュニケーションの有り様により、新しい移動の価値を生み出していくことが重要だということ。

 

そして日産とホンダが、モビリティの変革をリードできる存在になるためには、特定分野の協業ではなく、もっと大胆に踏み込んだか変革が必要ではないかという認識を両者の間で共有するに至りました。その結果、両社の経営統合の検討を行うことが最も合理的ではないかと考えるに至り、その検討を正式に開始するという本日の基本合意に至った次第です。

 

両社の英知を持ち寄り、相互のブランドを相互に尊重し合うことを基本理念に

 

また今合意に至った背景と目的についても少しお話をいたします。まずは両社の経営統合の可能性を検討するにあたり、日産とホンダは、両者の英知を持ち寄り、築き上げてきたブランドを相互に尊重し合うことを基本理念としました。

 

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その中で、各々が有する人材・技術などの経営資源を融合させてシナジーを生み出すことにより、モビリティ社会を取り巻く電動化(エネルギー)や知能化(コミュニケーション)といった市場環境の変化に対応することで中長期的な企業価値の向上が期待できるようになります。

 

また、その実現に向けては経営統合という大きく踏み込んだ関係を前提とすることでしか、真の競争力強化を実現できるのではないかとという考えに至りました。

 

従って我々が真に目指すべき経営統合の姿とは、単に両社の四輪事業だけで手を結ぶのではなく、 二輪事業、パワープロダクツ事業、航空機事業を包括した幅広いモビリティ事業も融合させることで多くの顧客接点を持ち、加えて電動化、知能化に係る知見も撚り合わせることで、新たな価値創造へのチャレンジにも挑めるようになります。

 

例えばクルマの電動化の普及で大容量化・高出力化しているバッテリーは、家庭などの系統電力と繫がることで電力の調整機能としての価値を持つようになります。 また高度な計算処理能力を持つ車載ソフトウェアも、走行しない時には全く異なる用途に活用できる可能性があります。

 

 

売上高30兆円以上、営業利益3兆円を超えるリーディングカンパニーに

 

こうした新しい取り組みは、ある程度スケールがあって初めて価値が生み出せるものであり、経営統合は両者が力を合わせて取り組んでいくに相応しい挑戦の場になると考えています。そうして新たな価値創造に挑むリーディングカンパニーとなること。これこそが我々が目指すべき姿であり、経営統合を検討する目的となります。

 

またそうした経営統合によるシナジー効果の例として、1つ目は「車両プラットフォームの共通化によるスケールメリットの獲得」、 2つ目は「研究開発機能の統合による開発能力向上とコストシナジーの実現」、 3つ目は「生産体制、拠点の最適化」です。

 

4つ目は、「購買機能の統合によるサプライチェーン全体での競争力強化」、5つ目は、「業務効率化によるコストシナジーの実現」、6つ目は、「販売金融機能の統合に伴うスケールメリットの獲得」、 そして最後に、「知能化、電動化に向けた人材基盤の確立」などのシナジー効果にも期待が寄せられることでしょう。

 

 

これに加えて、経営統合後の人的基盤の確立と高度化を狙うことで、全体で売上高30兆円以上、営業利益3兆円を超えるリーディングカンパニーとなることが可能であると考えています。 但し、現状のままで経営統合するのでは以降の成長はないため、統合前の段階で互いに自立した強い事業体質を築き上げていくことが不可欠です。

 

当初はホンダが経営をリードし、各ブランドをしっかり輝かせていく

 

続いて、経営統合時の座組みについてもご説明いたします。今回の経営統合は日産とホンダが共同で持ち株会社を設立し、両社を 共同持ち株会社の完全子会社として存続させ、それぞれのブランドを等しく育成・発展させていく方向で検討をしていきます。

 

なお、共同持ち株会社の設立時では、取締役の過半数をホンダが指命すると共に、代表取締役または代表執行役社長もホンダが指名する取締役の中から選定する予定です。

 

 

但し経営統合後に事業運営を進めていく中に於いては、個々事業の目的に適した人選を進めていきます。当初はホンダが経営をリードしていくことになりますが、両社の理念やブランドは変わることなく引き続き残していき、 更に三菱自動車も加わることになれば、3社が各々自社ブランドをしっかり輝かせていけるよう取り組んでいきます。

 

今後のスケジュールについては、2025年6月の正式な契約締結を目標に協議を進めていき、最終締結に至った場合には、当局への申請と承認、各々の株主総会の決議などを経た上で、 2026年8月を目処に東証プライム市場の上場会社として共同持ち株会社を設立する予定です。

 

また移転に伴う株式比率は、合意書の公表日前の一定期間に於ける株式の終値の平均値なども参照しつつ、 デューデリジェンス( 資産査定 )の結果及び第三者算定機関による株式移転比率の算定結果などに基づき、 経営統合の最終契約締結時までに定めていく予定です。

 

 

仮に経営統合が実現した暁には、日産、ホンダの両社は共同持ち株会の完全子会社となり、その上で場廃止となる予定ですが、現在の株主の皆様は、引き続き東京証券取引所に於いて株式移転によって交付された共同持ち株会社の株式を取引することが可能となりますので、ご安心頂ければとと思います。

 

また三菱自動車については先の通り、日産、ホンダが進める経営統合、統合検討への参画、これに関与するか否かの判断を2025年1月末を目途に行います。

 

三菱自動車が、日産・ホンダの統合会社に参画する場合は、新たな基本合意書を締結することになりますが、その場合でも当初定めた日程を極力遵守し、スピード感を持って進めていきたいと考えています。 基本合意に関する内容及び今後のスケジュールについては、以上となります。

 

 

これまでの協業の枠を超えて経営統合に向けた協議を開始する

 

日産・内田社長 現在、私達を取り巻く事業環境は想定を上回るスピードで変化し続けています。 こうした時代に於いては、どんな大企業であっても、これまでの常識に捕らわれていては未来を切り開くことはできません。 この認識は、当社より大きな事業規模を持つホンダも同じ考えでした。

 

それが今年3月の協業検討の開始に繫がりました。またその想いは、双方間で様々な検討を進める中で更に強くなっていると感じています。その結果、私達はこれまでの協業の枠を超えて経営統合に向けた協議を開始するという一歩を踏み出す決断をいたしました。

 

仮に我々の経営統合が実現した場合、その売り上げ規模を単純に足し合わせると合計30兆円以上、4輪車の合計台数は750万台となり、グローバル環境下の自動車メーカーとしてトップクラス規模感となります。

 

今後、車両の電動化、知能化を進めるには巨額の投資が必要となります。また新たなプレイヤーが相次いで登場して世界の勢力図が塗り替わる中、スケールメリットは大きな武器となります。

 

 

しかしながら販売台数やシェアを伸ばすことを目的としてしまっては、この100年に1度と言われる変革期で勝ち残っていくことはできません。

 

グローバル全体の社会課題である環境問題への対応や、 自由で安全な移動をより多くの方に提供していくためには、モビリティ単体を進化させるだけではなく、バリューチェーン全体を捉えた価値の創出、ビジネスイノベーションの実現が不可欠であり、それなしではカーボンニュートラルや交通事故のない安全な社会の実現も叶わず、サステナブルな事業運営は継続できません。

 

私達は、各社の強みを組み合わせることで多様な課題に対応し、これまでにない新たな、そして大きな価値を生み出すことができると確信しています。また今回の経営統合を成功させるには、それぞれの事業が自立し、より強くなっていくことも不可欠です。それは依存し合う関係ではなく互いに成長することが掛け算となり、より大きな力に変わっていきます。

 

そのためにも日産もターンアラウンド計画の取り組みを、1日も早く形にしていくことが大きな責務であると認識しております。本件は、従業員一丸となって取り組みを進めており、具体的な活動も数多く始まっています。今後は、できるだけ早い時期に適宜ご説明させて頂き、その先の未来の実現に繋げていきたいと考えております。

 

 

一方、共に長い歴史と高い技術力を有する各社が経営統合を目指す上で、今後様々な検討課題が出てくることもあると思います。 しかし、同じ目標に向かって歩んでいく仲間として困難を1つずつ乗り越えていくことで、私たちは必ず強固なチームになれると信じています。

 

両者の強みを持ち寄り、 様々な科学反応を次々と起こしていくことで一社だけでは成し得ない、これまでにないクルマの楽しみ方や新たな価値を、お客様に提供することができるものと確信しております。

 

最後になりますが、ホンダも日産も世界中のステークホルダーの皆様に支えられています。そして何よりも世界中のホンダファン、 日産ファンが私達のクルマやブランドを愛して下さっています。 それだけに本日の発表について様々なご感想、ご意見を頂戴するであろうこと。また従業員の中には様々な想いが出てくるものと思います。

 

しかし今は、共に未来を切り開く 仲間として、互いの立場や違いを尊重し、透明性を持って議論を重ね、信頼関係を構築することで、 5年後、10年後に、今回の決断は正しかったねと、両者の従業員をはじめとする多くのステークホルダーの皆様に言って頂けることが私の1番の願いです。そのために今後も全力を尽くして参ります。引き続き皆様のご支援を頂きますよう宜しくお願いいたします。

 

 

日産とホンダとの協業は、三菱自の競争力の源泉となる極めて重要なもの

 

三菱自動車・加藤社長 まずは日産自動車とホンダが経営統合に向けた協議を開始する決定をされたことを当社としても歓迎すると共に、今回の方向性については前向きに捉えております。

 

共に協業検討を進める当社も、未来に向けて更なる関係強化が必要と認識をしており、両者が経営統合に向けて検討を進める中、3社の関係をどのような体制とすることが最も効果を高められるのか、 これを考えるために、今回の枠組みに参画・関与する可能性を検討することといたしました。

 

変革期にある自動車業界においては、電動化や知能化など様々な分野で高い技術力が求められています。そのために要する多額の投資や開発リソースを単独で確保するのは困難であり、 当社にとって日産自動車とホンダとの協業は、将来の競争力の源泉となる極めて重要なものと考えております。

 

また一方で当社の事業規模や得意とするマーケットは、日産自動車、ホンダとは少々異なります。両者がSDV(Software Defined Vehicle/ソフトウエア・ディファインド・ビークル)の最先端ソフトウェアの開発に注力され、その分野をリード頂く一方で、 当社は得意としているASEAN事業、小型ピックアップトラックを始めとするフレーム車両に関わる保有技術などを強みとして活かし、 2社のグローバルで事業をサポートできるものと考えております。

 

このような考えの元、3社のシナジーを進化・最大化していくためにどのような参画手段がベストかを検討し、25年1月末を目処に結論を出したいと考えております。引き続き、皆様のご支援を頂きますよう、宜しくお願いいたします。

 

 

3社でシナジー効果を最大化できるメリットは非常に大きい

 

ホンダ三部社長 先程、内田社長、加藤社長から、ご発言がありました通り、日産とホンダ、そしてこの枠組みに入るかどうかをご検討頂く三菱自動車。この3社でスケールメリットを出し、シナジー効果を最大化できるメリットは非常に大きいと考えています。 これを実現するべく、各々の事業体質強化を確実に進めていきます。

 

また先ほど、日産の内田社長からご説明頂いた通り、日産は、ターンアラウンド計画の取り組みを確実に行い、事業基盤の確立を進めていきます。一方でホンダは、将来の競争力強化への取り組みの着実な推進、 将来の成長を支える基盤のさらなる強化、そして過去から積み上がっていた資本の適正化を課題としていました。

 

現在、電動化、知能化への仕込みは着実に進めており、ハイブリッドや二輪を中心とした収益基盤の強化も実現できています。

 

また、資本の適正化への取り組みとしても、ここ数年間、株主還元を強化してきました。 そこで今回、更なる株主還元の強化と自己資本の適正化を目的に既に11月に発表していました1000億円に追加で1兆円を加えた計1.1兆円の自己株式取得を本日の取締役会にて決議をいたしました。

 

今後も、企業価値の最大化に向けて取り組みを進めて参ります。正直に申し上げて、ステークホルダーの皆様からホンダによる日産への支援ではないかという声が出るであろうことは想定をしていました。

 

加えて先ほど日産の内田社長からも、どちらが上、どちらが下ではないとお話しをされていましたが、今回の経営統合の検討は、ターンアラウンドの取り組みを進め事業基盤を確立した日産、 確実な基盤のもとで自己資本を適正化したホンダ、それぞれがこれを実現することで自立した2社が統合する。

 

そして更に三菱自動車も加わることで、3社の総力を持って電動化、知能化を進め、更に企業価値、企業価値を高めていくことが肝要です。

 

リーディングカンパニーとして常に新たな価値を提供し続ける

 

裏を返すと日産とホンダが自立した2社として成り立たなければ、この経営統合の検討は成就することはありません。それが私たちが目指す取り組みであり、意思であるということはお伝えしておきたいと思います。今回の追加還元も、こうしてホンダとして担うべき役割であり、意思であるとご理解頂ければ幸いです。

 

なお本日締結した合意はあくまでも経営統合に関わる検討を正式に開始するという段階であり、その実現に向けてはまだ検討や議論すべき点が存在します。

 

両社のお客様、株主の皆様、お取引先、従業員、様々なステークホルダーの皆様にとって、将来を見据えた時、これがベストの選択だとご納得頂けるよう検討をしていく必要があります。また率直に申し上げれば、先ほども申し上げた通り、成就しない可能性は全くのゼロではありません。

 

しかしながら冒頭にお話しした通り、この大きな変化が続く環境下で、お客様から選ばれるモビリティの新価値を創造するリーディングカンパニーとして新たな価値を提供し続けるためには、各社が自立した企業として強固な事業体質を築くことが重要です。

 

その能力を足し合わせた相乗効果を通じて、新たなイノベーションを生み出し成長していくことが求められるのです。私達は、そんな未来像を目指し、経営統合の実現を視野に来年1月を目処に方向性を見出せるよう議論を進めて参ります。

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質疑応答
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今回、経営統合の協議入りを来年6月ではなくて本日とした特別な理由は?敢えて発表を急ぐ理由があるたのであれば教えて下さい。

 

ホンダ・三部社長 経営統合の検討を開始する前段階で基本合意を取り交わした理由は、個々の事業内容の中身を深掘りして議論していく上で、経営統合を前提とした取り決めがあることで、更に突っ込んだ話ができると考えたからです。

 

日産・内田社長 個別の協業内容が核心に入っていく中で、どのように各々の競争力を高めていくのか、互いの強みどう伸ばしていけるかをより具体的に話し合うには、経営統合に抵触しがちな基本合意を前以て締結しておく必要があったということです。

 

三菱自動車・加藤社長 当社も日産・ホンダと様々な検討させて頂いておりますので、2社の検討が進んだ後で我々が聞くというより、検討の初期段階から情報を頂きながら対応したいということから、この段階で経営統合の基本合意の取り交わしを検討した方が良いという考え方です。

 

ホンダ三部社長 更に付け加えると経営統合の基本合意を結ぶことで、将来的に統合準備委員会も素早く設けることもできます。従って三菱自動車も1月末の段階で経営統合も有り得るということを前提とした協議に入って頂き、経営統合の可否を含めたご判断を仰ぎ、6月に向けて更に本格的な協議へと進めていく流れを想定しています。

 

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両者が自立してなければこの統合は実現がしないという発言がありました。 特に日産のケースでは着実な経営再建策とその効果が求められるということでしたが、何を以てすれば日産が自立できたと捉えるのでしょうか。

 

ホンダ・三部社長 日産のターンアラウンド計画では具体的な目標目標が掲げられています。しかし我々では、数値の達成如何だけを再建の判断基準にはしません。より重要なのは2030年前後を見据えた先で、ここに注視しています。

 

もちろんそこに至るまでの段階も注視すべきところがあるとは思いますが、おそらく一定の成果が出始めるのが2030年の手前頃になると思われ、更にそのシナジー効果を刈り取るのは2030年以降ということになからです。そうした意味で中長期的視点で効果のある施策を打っていけるかが判断材料になると考えています。

 

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ホンダと日産は北米などの主力市場で顧客層も重なっているようにお見受けします。 そうしたなかで生産や販売などの合理化も必要になってくると思いますが、統廃合や人員削減についてはどのようにお考えなのでしょうか。

 

ホンダ・三部社長 これまで我々は、自動車というハードウエアの研究開発して、生産して、それを売っていくというビジネスモデルに携わってきた訳ですが、100年に一度の変革期と言われる中で、自動車産業が日々大きく変化していることを充分に理解しています。

 

そうした意味で現在、主力市場が重なっているケースについては、個社毎に戦略を組み立てているからそうなっているので、 仮に経営統合後であれば車種展開なども含め、大きく変化していくことも考えられると思います。

 

課題は、今重なってるから効率悪いじゃないかということではなく、仮に経営統合が実現した2030年頃を照準に据えた場合、その辺の戦略の自由度は相応に大きくなるのではないかと考えています。

 

また経営統合の検討の中で捉えると、例えば北米でのビジネス施策などは、今後経営統合に向けて話が進む場合は、双方で施策を考えていく必要は出てくるだろうと思います。

 

ただ我々としてはシナジー効果というのは、必ずしも減産や削減の実施を行うことではなく、現段階では、むしろ販売台数を伸ばしていくような施策を考えていこうじゃないかという思考になっているように思います。

 

やり方は色々あると思いますし、今日はお話しませんけれども、我々としては、削って削って効率のいいとこだけ残し、両者のいいところだけを作っていくという考え方は実は持っていません。逆に今の市場を拡大していくというな手法を沢山話をしてるようなところがあって、決して合理化するために統合する訳ではないということは今日お伝えをしておきたいと思います。

 

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日産・内田社長 私からも同じ説明しかできませんが、例えばアメリカ含めて電動化の領域では様々な協業ができるということで、むしろ積極的に攻めています。

 

また、いわゆるアセットを含めた総合的な価値を上げられるようなシナジー効果も考えて折り、むしろ合理化ありきということではなく、最適化ありきが両者のブランドなり、それが両者の企業価値を上げていけるようになるようなシナジー施策は、推し進めているところです。

 

つまり我々が個々の仕向地に訴求できる強いところを使うことで、それが最終的にはお製品価値に繫がるようになると考えています。それこそが統合によるスケールメリットが活かせる部分かと思います。

 

もうひとつ見方を変えると、地域が重なると不利という考え方もあるとは思いますが、私は逆に地域が重なってる方が個社毎の異なる提案が受け入れられ、結果、様々なシナジーが生まれてくる可能性もあると考えています。それが各々のブランドを強くしていくことに繫がるケースもあるので、そうしたところを見極めていくことも非常に重要だと捉えています。

 

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日産とホンダの協議は今年の8月から続けられ、それが今回の経営統合に繫がりました。そうしたなか三菱自動車としては、日産とホンダの経営統合が策参画する前提条件なのでしょうか?三菱自動車が来年の1月末に経営統合の協議に参加する判断条件があれば教えて下さい。

 

三菱自動車・加藤社長 今回、当社が1月の末に回答申し上げるための検討要素は、日産とホンダが経営統合の協議を続けていく場合に、その流れに我々も入っていくかどうかを判断するということです。従って日産とホンダの経営統合に係る協議が進められているということが参画の前提条件です。

 

 

一方、日産とホンダの経営統合の協議が中断したり、停滞したケースは現段階で考えておりません。仮にそうしたケースとなった際は、その時点で改めて我々は新しい条件でどんな協業の形が取れるのかということを検討していくことになるかも知れませんが、少なくとも現時点では白紙であり、あくまで経営統合に係る協議が進むことかが、条件であるとご理解頂ければといただければと思います。

 

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少しホンダの株主という視点でお話を伺えればと思います。この統合の報道以降、日産の株価とホンダの株価に開きが出てきている中で、支援ではないという発言されこと。加えて資本の適正化で追加で1兆円超の自己株式取得を発表された。このメッセージの意味をお教え下さい。

 

ホンダ・三部社長 まず初めに現在の株価の低調要因は、今回の日産との統合に係るリーク記事によるものと捉えています。本来ならば、我々から本日の統合によるメリットを直にお伝えしたかったのですが、 結果的に今日が、経営統合協議を発表した初めての場になります。

 

そこでこの場で、はっきり申し上たいのは、決して日産の救済ではなく2030年時点のもモビリティ産業を俯瞰して判断しました。2030年頃を俯瞰した際、ホンダ単独では競争力が不足する。それが先の日産との協業であり、ひいては今回発表した自立した日産との経営統合を前提とした協議の開始となります。

 

それから、今日同時に発表した自己株式取得1兆円は、従来課題としていた過去から積み上がった自己資本の適正化ということで、手元資金、それから将来投資の必要額、この辺をバランスを見ながら株主還元策として実行したものです。

 

こうした取り組みは今後、統合の検討の推進によってインサイダー管理もあって機動的な自己株式取得が制限されるということも踏まえ、今回は一括での多額の取得としています。
金額としては1.1兆円ということで10億株ということになりますが、これは総発行数の20パーセントというまずは今できる最大の還元を実施したということになります。

 

ただ、それでも財務基盤の強さは十分あり、将来の仕組みを支えるハイブリッド施策、稼ぎ頭の二輪施策の仕込みも完了しておりますので、我々としては十分これでやっていけるという自信の表れと受け取って下さればと思います。

 

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今までのお話では、メリットやシナジーなどのご説明でしたが、一緒になろう(経営統合を前提とした協議)というのに、あまり相手のどこに惚れたのかとか、そういう話がなかったいう気がしています。

 

今回は両社で、経営統合を前提とされているので、相手と一緒に(経営を)やっていきたいと思った理由がある思うので、それぞれの会社の技術、製品、哲学、人でも良いのですが、何か相手先企業と一緒にやっていきたい。ここが相手に惚れた理由だよ、というようなところがあれば、そこをお聞か頂ければと思います。

 

ホンダ・三部社長 日産は伝統をお持ちですし、独自の企業文化もあり、過去に名車も沢山輩出している名門企業ですから、そういった意味では非常に尊敬に値する会社だと思っています。そうした意味で今回の経営統合では、日産ブランドも、ホンダブランドも、今後も独立して成り立っていく考えであり、ブランドのこの辺は全く崩すつもりはありません。

 

 

今回の経営統合では、むしろ規模感、技術領域、スケールメリットなど共通して活かせるもの役立てていきたいという考えです。その他にコスト低減や、技術領域を活かした投資削減にも繫がるもと考えています。そうした意味で、先ほど来、申し上げている単独でやりきれないこと、やりきるには非常に難しいという状況を打破したいという想いはあります。

 

より具体的には、共通のコアな部分を一緒にして効率を上げながらも、それぞれのブランドは、それぞれが独自の日産らしさ、ホンダらしさを失わないでいきたいという考え方です。さて翻って、どこに惚れたのかというとですね、どうですかね、 そういう検討に値する尊敬すべき企業であるということかと思います。

 

日産・内田社長 どこに惚れたか。価値観が共有できるというか、やはりまず将来の危機感が共有できる相手っていうことだと思います。そういった危機感をお持ちで、それを革新していかなければならないと考えている故の経営のスピード感。こういった点がホンダの魅力ではないでしょぅか。

 

自動車メーカーは世界に数多く存在しますが、変革する勇気を持っていないと、前進できないと思いますし、それらの課題に積極的挑戦してみて、突破していく点に関しては、ホンダの強みだと思います。

 

我々日産も様々な課題を突破していく力は備えていると思いますし、そういう背景から、歴史ある2社、 強いところを持ち合ってる2社が一緒に歩んでいけば、競合他社に対しても勝っていけるんじゃないかなという気持ちがあります。

 

5年後、10年後に本当に、あの時の判断が良かったよねと思える相手でないと多分、今のような体制にならないと思うので、やはりこれが1番重要かなと考えます。

 

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日産とルノーの関係について、ホンダと系統合に向けて話し合うことを決めたということを受けて、日産としてルノーとの関係を見直す可能性があるのかを教えて下さい。

 

日産・内田社長 パートナーのルノーとは引き続きプロジェクト毎に効果のあるものを今後も共有していきたいと思ってます。例えば我々の欧州マーケットに於けるルノーとアンペアの関係。これは我々のブランドをむしろ強くしていく方向であるので、継続的な論議をしていくことになります。

 

ホンダ・三部社長 我々ホンダは、ルノーとの接点はないため、それについてのコメントはできませんが、統合の枠組みを検討するという意味でGMとホンダの関係は、どうなるかと言いますと、今も並行して協業の可能性を個別に検討したり、話をしたりしています。

 

今回の経営統合の協議があるからといってGMとの関係を変えようという考えは全くありません。こうした他社との繋がりも、双方の強みの1つにになると思うので、様々な繋がりを今後も大事にしながらグローバル戦略を敷いていきたいと考えています。

 

⽇産⾃動⾞・Honda・三菱⾃動⾞ 共同会⾒

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。