自動車事業進展の切っ掛けは、国内の高級車市場拡大が契機に
平澤 先ほど〝ローム・アンド・ハース〟というアクリル系エマルジョンの世界最大手の会社が話に出てきました。
今や同社は(ダウ・ケミカルに)買収されてしまいましたが、その会社が様々な分野の薬剤を取り扱っており、その一つに本革加工に係る薬剤がありました。
同社は、その薬剤をGST(ガーデン・ステート/Garden State Tanning)という会社に納めていました。このガーデン・ステート(GST)は、ニュージャージーにあった会社です。
そこが米国内の自動車メーカーへシート用の本革を納めていたのですが、新たに日本にも進出したいとローム・アンド・ハース社を通じて、我々に打診してきたのが、当社が新たな市場を切り拓く契機となりました。
ローム・アンド・ハース社が「日本に進出するなら商社を使うべき」と当社を紹介して下さり、日米間で自動車関連の事業を始める事になったのです。それが1975年頃です。
――日本のモータリゼーションが急拡大する頃ですね。
平澤 最初に本革のシート素材を受注したのはマツダさんのRX―7向けです。その後、更に急成長する切っ掛けとなった事案がやって来ました。
それがトヨタ自動車さんのレクサスブランドが米国に導入された事案となります。そのレクサス車向けに、我々が手掛ける本革シート素材が採用されたのです。この結果、我々に取っての自動車事業が大きく花開きました。それは1980年代の半ばから後半に掛けての時期です。
――高級車、上級グレード向けから自動車関連事業が始まったと言えますね。
新谷社長 当時、日米貿易摩擦が巻き起こった事がある意味で、我々の追い風となりました。日本の自動車メーカーは貿易摩擦を解決するために、米国から何らかの製品を購入しなければなりませんでした。
そこで金額的にもある程度纏まったものは無いかと言う地政学的な背景が生まれた結果、GSTの革製品をトヨタさんが採用する事になったのです。
――その他の車種を含めて採用に至った経緯と実績は如何でしたか。
平澤 トヨタさんについては、まずカムリに採用されたのが最も初期の採用例と言えると思います。更に1980年代後半に掛けてレクサス車向けで採用枠が大きく広がって行きました。その他にも当時は、様々な所で革素材が採用されました。
今は合皮やPVC(ポリ塩化ビニル)に、それらの多くが切り替わりました。しかし当時はシートだけではなく、ドアパネル、アームレスト、コンソール、インパネなどに革素材が大量に採用されていたのです。