NEXT MOBILITY

MENU

2022年7月2日【オピニオン】

三洋貿易の新谷正伸社長に訊く、モビリティ産業の未来予想図

松下次男

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

自動車事業進展の切っ掛けは、国内の高級車市場拡大が契機に

 

 

 平澤 先ほど〝ローム・アンド・ハース〟というアクリル系エマルジョンの世界最大手の会社が話に出てきました。

 

今や同社は(ダウ・ケミカルに)買収されてしまいましたが、その会社が様々な分野の薬剤を取り扱っており、その一つに本革加工に係る薬剤がありました。

 

同社は、その薬剤をGST(ガーデン・ステート/Garden State Tanning)という会社に納めていました。このガーデン・ステート(GST)は、ニュージャージーにあった会社です。

 

 そこが米国内の自動車メーカーへシート用の本革を納めていたのですが、新たに日本にも進出したいとローム・アンド・ハース社を通じて、我々に打診してきたのが、当社が新たな市場を切り拓く契機となりました。

 

ローム・アンド・ハース社が「日本に進出するなら商社を使うべき」と当社を紹介して下さり、日米間で自動車関連の事業を始める事になったのです。それが1975年頃です。

 

 

――日本のモータリゼーションが急拡大する頃ですね。

 

 

 平澤 最初に本革のシート素材を受注したのはマツダさんのRX―7向けです。その後、更に急成長する切っ掛けとなった事案がやって来ました。

 

それがトヨタ自動車さんのレクサスブランドが米国に導入された事案となります。そのレクサス車向けに、我々が手掛ける本革シート素材が採用されたのです。この結果、我々に取っての自動車事業が大きく花開きました。それは1980年代の半ばから後半に掛けての時期です。

 

 

――高級車、上級グレード向けから自動車関連事業が始まったと言えますね。

 

 

 新谷社長 当時、日米貿易摩擦が巻き起こった事がある意味で、我々の追い風となりました。日本の自動車メーカーは貿易摩擦を解決するために、米国から何らかの製品を購入しなければなりませんでした。

 

そこで金額的にもある程度纏まったものは無いかと言う地政学的な背景が生まれた結果、GSTの革製品をトヨタさんが採用する事になったのです。

 

 

――その他の車種を含めて採用に至った経緯と実績は如何でしたか。

 

 

 平澤 トヨタさんについては、まずカムリに採用されたのが最も初期の採用例と言えると思います。更に1980年代後半に掛けてレクサス車向けで採用枠が大きく広がって行きました。その他にも当時は、様々な所で革素材が採用されました。

 

今は合皮やPVC(ポリ塩化ビニル)に、それらの多くが切り替わりました。しかし当時はシートだけではなく、ドアパネル、アームレスト、コンソール、インパネなどに革素材が大量に採用されていたのです。

 

次ページへ

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。