対等出資での新提携で日産の技術力は自由度を増し、スピード化期待
――ルノーもフランス、というより欧州に於ける立ち位置や業績面の打開が求められて事業構造改革に踏み切ったという事もあるのでしょう。
これを受けて日産サイドはルノーEV新会社「アンペア」への出資を決める一方で、ルノーとの資本関係を15パーセントずつ出資する対等関係を認めさせました。今後、日産はどうなるのででしょうか。
志賀 ▶ 私は2019年に日産取締役を退任してから経営とコンタクトしていないし距離を置いているのですが、〝感じ〟としては、従来の資本関係で日産は結構窮屈だった事も事実です。
例えば「e-POWER」( エンジンで発電しモーターで駆動する日産独自のパワートレイン )などは早く日本市場に出したかった。しかしアライアンスではルノーのハイブリッドが承認されていて日産の技術がなかなか使えない状況もあった。
いわば、日産の技術力が縛られていたものもある。そうした、縛られてギクシャクしてやりづらかったものが解放されるとなれば、自由度が増していいものを出していける事になる。
もちろん、20数年間やってきたアライアンスの経験の中では良いものも沢山あるし、この変革の時代だからこそスピードを上げて、日産の技術力を活かし共にやって欲しいとの期待感を持っています。
三菱自動車は、3社連合新提携をうまく活用していけば
――三菱自動車についても伺いたい。私は三菱自も長らく取材してその変遷もしっかり見てきましたが、1970年に三菱重工業から独立して以降 、三菱グループにおける〝親の役〟は同社でした。
しかし、2018年に三菱商事が三菱重工から株を買い取り保有比率を20パーセントに引き上げてから、ここへきて三菱商事が後見人の立場に代わってきた。
2019年には日産が三菱自を傘下に収め、一時は三菱商事がルノー保有の日産株を半分買い取る構想も水面下であったとm聞きます。それぞれの歴史の変化の中で、3社連合に於いて三菱自はどうするのでしょうか。
志賀 ▶ 三菱自動車さんは、この3社連合の新たな関係をうまく利用していけばいいと思いますよ。何と言っても東南アジアは、三菱自の〝牙城〟です。これは間違いない。
私もかつて日産で東南アジアを経験( ジャカルタ事務所長を歴任 )していますから。ここは、日産は弱いしルノーも殆ど手掛けていませんが、市場の成長性は高い。そうは言っても販売地域は東南アジアだけではないので、欧州はルノーを、米国は日産を活用すればいい。
三菱自動車の3社連合のポジションは、CASE投資が必要なところでいいところ取りをすればいいと思います。
この日仏アライアンスが次のレベルでの変革に期待
――いずれにしても今回のルノー・日産・三菱自の3社連合は、新たな関係で再出発ということですが、いろいろな課題を抱えています。
かつては「ルノー・日産統合論」から「日産・ホンダ合併案」、「三菱商事のルノー保有株半分買取り案」などが水面下で揺れ動きましたが、今回実に23年振りに対等な形の日仏新連合になったという事で、どうなるかが注目されます。
志賀 ▶ 自動車産業の大変革の中で、この日仏アライアンスが新たなスタートに立ったという事ですし、敵は新興メーカーやソニー・ホンダのような新しいフォーメーション、〝アップルカー〟などになる。
日産もその意味ではこれからですよ。株価の低迷などまだまだ課題は山積してますし、次のレベルの変革に期待しています。
PROFILE
志賀 俊之(しが としゆき)
INCJ(旧産業革新投資機構)代表取締役会長/CEO
1953年(昭和28年)9月16日生まれ、69歳。1976年(昭和51年)大阪府立大学経済学部卒、同年日産自動車入社。アジア大洋州営業部ジャカルタ事務所長、企画室長を歴任し、1999年(平成11年)に日産がルノーと資本提携しCOOとなったカルロス・ゴーンの下、アライアンス推進室長として日産リバイバルプラン(NRP)の立案、実行を進めた。2000年(平成12年)日産常務執行役員、2005年(平成17年)日産COO(最高執行責任者)・代表取締役就任。2010年(平成22年)日本自動車工業会会長、2013年(平成25年)日産代表取締役副会長。2015年(平成27年)産業革新機構会長に就任。現在、INCJ代表取締役会長の他、ダイナミックマップ基盤社外取締役なども務める。