― LEADERS VOICE Web Version / INCJ(旧産業革新投資機構)代表取締役会長/CEO 志賀 俊之 ―
カーボンニュートラル( CN / 炭素中立 )の実現を目指す…。今日、CASE( コネクテッド/自動運転/シェアリング/電動化 )革命を常套語に据えた〝100年に一度の大変革期〟の只中にあって、そのキーワードのひとつである電動化は、大きなうねりとなって自動車産業へ押し寄せた。
その中身はBEV( バッテリーEV )化への抗しがたい激流であり、それに対して日本国内メーカーがEVシフトへと駒を進める歩みの遅さが、世界の産業界や経済界から度々指摘され続けている。
実際、日本の自動車産業全体のEV化へ向けた取り組みの遅れは、世界の新車販売実績で明らかになった。
具体的には2022年のBEVの世界販売は、約726万台で21年に比べ7割増へと大きく伸張した一方で、日本市場の方は、軽自動車EVの市場拡大が一時期注目されたものの、EVの販売規模は全体で約5万台。乗用車に占めるEVの割合は僅か2.1パーセントに留まっている。
そうした中にあって日本の自動車産業を牽引するトヨタは、エンジニア畑の佐藤恒治氏を社長とする新体制へ移行。先の4月7日の方針説明会でBEV戦略の強化を明確にした。それは冒頭の宣言こそ以前と変わらないトヨタ流の全方位戦略としつつも「EVファースト」を前面に掲げたものだ。
他方、佐藤トヨタ新体制の方針発表に先立つ3月末には、EU委員会が35年以降に於いても合成燃料e-fuel( イーフューエル/EU基準では、電気分解で抽出した水素と、大気中または発電所・工場等から排出された炭素を組み合わせて生成される合成燃料を指す )を使用するエンジン車を容認する事を発表。
欧州市場に於いても、限定された中ではあるものの方針転換を示す動きも出ている。そもそもトヨタが一貫して掲げてきた「脱炭素=EV一辺倒ではない」事は確かだ。ただそれでも世界の趨勢はEVシフトが急速に進んでいる。
そうした折り、志賀俊之 元日産COO( INCJ会長CEO )は「日本車全体のEV施策の遅れは、日本が世界から取り残される事になる」と危惧し、真剣に警鐘を鳴らす。
かつて日産自動車の最高執行責任者としての同社を支えた経営体験を経て、現在は官民ファンドで、日本国内のスタートアップ企業を支援する立場の志賀氏に独自の目線から国内外の自動車産業を俯瞰し貰い、未来に向けて進むべき道についてのヒントを聞いた。( 聞き手:佃モビリティ総研・佃 義夫、 写真:ジェイツ・コンプレックス・浪江 佳代、 文責:NEXT MOBILITY編集部 )