– MOBILITY INSIGHT –
本記事は平素、雑誌版に上稿頂いている識者によるNEXT MOBILITYの連載コラムです
気候変動問題とそれに伴うエネルギー議論、EV普及の議論が錯綜しているように見える。英スコットランド・グラスゴーで開かれた先のCOP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)では、ガソリン車などの内燃機関の新車販売停止宣言が話題になったが、パリ協定実現に向けた道筋づくりには課題が残った。
翻って、わが国をみてもエネルギーミックス議論は遅々として進まない。国民に信を問う衆議院選挙もあったが、各党のエネルギー政策は総花的だ。
「脱原発と再生可能エネルギー推進」を掲げた野党の公約、実行性あるものと言えるだろうか。エネルギーコストはわが国製造業の競争力に直結する。政府・与党でも議論は分かれる。
世界が等しく加わらなかったCOP26での採択、その実効性をどう求めるか
世界を見渡せば、2050年カーボンニュートラル宣言を行う先進諸国が相次ぐ。わが国もその一か国であり、COP26ではこれらの首脳から意欲的な目標が出された。だが、パリ協定で制定した「世界の平均気温上昇を産業革命前から2度未満に抑える」ための具体策となると、乏しいとの意見も聞かれる。さらに努力目標の「1.5度へ抑える」ためには一段とハードルが高まる。このための一歩踏み込んだ表明も少なかった。先進国と途上国の対立も根深い。こうした中で、クルマや石炭火力などターゲットにした活動も目立った。
特に自動車についてはCOP26の議長国の英国が早々に電動化政策を打ち出していたこともあり、内燃車などの新車販売を主要市場で2035年、世界で2040年迄に停止する宣言を同会場で表明。英国やカナダ、欧州諸国などの24か国がこれに参加し、米GMやフォード、独メルセデス・ベンツなどの自動車メーカー6社が賛同した。一方で、日米中は加わっておらず、日本車メーカーも不参加。メーカー首脳の一人は「打診もなかった」と述べ、どちらかといえば仲間づくりの色彩が濃い。
さらに全体会議では「気温上昇を1.5度に抑える努力」や「必要に応じて2022年までに2030年の各国目標を見直す」などを明記した成果文書が採択されたが、実効性をどう求めるか。エジプト、アラブ首長国連邦へと続く、次回以降のCOPへと持ち越された。
自動車のCO2削減では、本格的なEV普及への幕開けに期待が集まる
このように曖昧な表現で結論づけざるを得なかった背景に、気候変動、エネルギー政策に対して地域や国によって事情が大きく異なることが挙げられよう。例えば、脱化石燃料、再生可能エネルギー推進を掲げても、全ての地域・国が対応できるとは限らない。風力発電には適した気象条件、太陽光発電では砂漠等の広大な敷地が不可欠だ。
実際に、日本では利用できる地域が限定され、現状、最も多い太陽光発電をみてもCO2を吸収する森林を伐採し、その跡地に太陽光パネルを設置する動きなども目立つ。これだと何のためのCO2削減かが問われると共に、山間部を切り開くことによる土砂災害などのリスクも高まる。
また、欧州のような広域送電網も発達しておらず、不安定な発電量対策も課題だ。発電コストもまだ割高。このほかにも地熱やバイオマスなどがあり、これらを使った地産地消の分散型発電も始まっているが、いずれも主力電源には厳しい。半面で、わが国は次世代火力発電技術なども進んでおり、当面は多様なエネルギー活用が望まれよう。
こうした中、自動車のCO2削減への取り組みでは電動化、とりわけ最近はEVへの傾斜が目立つ。欧米の主要メーカーをはじめ、日本車メーカーでも専用プラットフォームを活用した新型EVの発表が相次ぐ。これらが来年にかけて一斉に市場投入されることになり、本格的なEV普及への幕開けにつながることが期待される。
だが、課題も少なくない。まず中核装置のバッテリー価格が高く、これが車両価格を押し上げる。現行バッテリーは製造時、CO2排出量も多い。技術的にもう一段のブレークスルーが求められており、ウェル・ツー・ホイールでのCO2排出量削減も問われよう。どの地域で製造するかで競争力にも差が出かねない。
最終的には、消費者の選択に委ねられるだろう。
松下次男
1975年日刊自動車新聞社入社。編集局 記者として国会担当を皮切りに、自動車 部品産業、自動車販売などを幅広く取 材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス情報誌のMOBI21編集長、出版局長を経て、2010年論説 委員。2011年から特別編集委員としてオピニオンを担当。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転など の次世代自動車技術などを取材。2016年に独立し、引き続き自動車産業政策を中心に取材、執筆活動を続ける。