ZFは6月29日、恒例の自社技術イベントの〝ZFグローバル・テクノロジーデイ(ドイツ南部・フリードリヒスハーフェンで開催)〟を開き、ここで新たに電動コンセプトとなる「EVbeat」を発表した。
このEVbeatには、同社製品でも最小・最軽量(74kg)かつ高効率(トルク密度70Nm/kg)の電動ドライブシステムを搭載。熱管理システムも刷新され(氷点付近に於ける航続距離が約30パーセント延長される)、またユニットに組み込まれるソフトウエアはクラウドネットワークに接続された。
ZF取締役会メンバーでEVシステムの開発を率いるステファン・フォン・シュックマン氏は「EVの未来を加速させることは当社戦略の中核です。このEVbeatコンセプトは、ポルシェ・タイカンをベースにドライブユニット全域を極限までコンパクト化させることに取り組みました」と述べた。
一方、同社のEVドライブラインの開発責任を担うオットマー・シャラー博士は「我々のEV用ドライブトレーンは、現時点に於いてトルク密度の高さで頂点に立っています。
また我々はユニットの持続可能性にも細心の注意を払いました。電気モーターは重希土類を使用せず、熱管理機構ではフッ素ベースの冷却剤を使用しません。
結果、コンポーネント全域に於ける構成部品数が削減され、駆動部分と熱管理機能に係るシステム全体の重量が約30パーセント削減。これにより生産工程と車載時の双方で持続可能性の向上に貢献しています」と説明した。
EVbeatに含まれるeアクスル〝EVSys800〟は、モジュール式の800ボルトのドライブユニットで、炭化ケイ素で校正されたパワーエレクトロニクス機構、軽量高出力の電気モーターに減速ギアボックスを組み合わせた。
この結果、コンセプト車両は、リアアクスル部の最大トルク値で5,200ニュートンメートルを実現。 70ニュートンメートル/キログラム。電気モーターの連続電力とピーク電力はそれぞれ 206キロワットと275 キロワット。これによりピーク電力時に約75パーセントの連続電力を可能とした。
コンパクト化を実現した背景は、電気モーターに組み込まれた「編組巻線」技術(特許出願済)によりドライブユニット自体の幅が50ミリメートル削減されたことにあり、ドライブアクスルへの同軸取り付けが可能になった。
この編組巻線は、既存のウェーブ巻線を発展させたもので、巻線ヘッドだけでも従来型より50パーセント小型化。これにより設置スペースも10パーセント削減でき、約10パーセントの銅の使用が削減された。
これらによりEVSys800のユニット単体の総重量は、既存のZF製800ボルトのドライブシステムの74 kg対して約40kgにまで軽量化(約30パーセント)。
冷却面も技術刷新された。具体的には、新たな巻線技術を備えた電気モーターを冷却するため、動作中に最も熱を持つ銅ロッドの周囲にオイルを直接流す仕様とした結果、重量と設置スペースが削減され、ユニット自体のパフォーマンスが向上した。
併せてインバーターも根本的に再設計。設置スペース、重量、持続可能性の点で電磁両立性、パワーモジュール、コンデンサの各分野での大幅な改善が達成されたという。
この電動モーターに組み合わせる同軸減速ギアボックスは、2つの遊星歯車を介して電気モーターの駆動力を伝達していく。これらは車両性能に必要な最終駆動比を生成するだけでなく、電動モーターとハーモナイズされた差動機能も備える。
従来の入力シャフトと出力シャフトが同軸上にないオフセット構造と比較すると、新たな同軸ソリューションは、先のモーターユニットの「編組巻き」技術と組み合わせたことで、効率、騒音、振動を犠牲にすることなく重量と設置スペース(ドライブ長)を削減。ほぼすべての車載スペースに設置できるようになるとした。
システムのコンパクトについて先のオットマー・シャラー博士は「同システムを使用すると、効率、パフォーマンス、コストといった顧客が求める未来のEVに求められる主要件を完全に満たすことができます。なおこの最新テクノロジーを備えた新ドライブラインは2026 年から市場に投入される予定です」と話している。