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2023年12月28日【ESG】

ヤマハ発動機、車両組立のスマートファクトリー化を確立へ

坂上 賢治

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二輪車組立工場に於ける、新たなイノベーション「AGVバイパス方式」を確立したヤマハ発動機の生産課・組立技術部メンバー達

 

ヤマハ発動機は12月26日、車両組立の生産工程に於いて、135台の自動搬送車(AGV)を活用した「AGVバイパス方式」と呼ぶ全く新たな生産ラインの実用化を確立したことを明らかにした。

 

その新たな生産ラインの姿は、静岡県磐田市の本社オートバイ組立工場に於いて既に実現している。同拠点では、組立対象の二輪車を作業台を載せた自動搬送車(AGV)を複数連結することで旧来の生産ラインを代替。個々のAGVは、時には列を成して、時には列から外れて工場内を自動で走り続ける。

 

その様子を説明する生産工程の開発技術者の小林篤史氏は、「新たな生産システムでは、仕様の異なる複数モデルを同時・同一の生産ラインへ流す場合、各工程で組み付ける部品点数や作業時間が、それぞれ異なる場合であっても柔軟に対応できるようになっています。

 

例えば前に並んでいる車両が独自仕様であるため、他車とは異なる独特のまとまった作業時間を必要とする時や、逆に特定の作業工程自体が不要な車両であった場合、そのAGVは一旦、生産ラインの列を外れて、あらかじめ定められたプログラムの指示を受けつつ次の工程に自ら移動していきます。

 

このような生産ライン上の渋滞路を外れて、個々の車両組立のための最短の目的地へと直行する様子を称して我々は、この新たな組立ライン全体を〝バイパス方式〟と呼んでいます。

 

車両を載せたAGVは、人やモノの情報を携えて組立工場内を移動。作業者の身長や作業部位によって、リフターの高さや向きを最適化する

 

ちなみに、そんな新生産ライン〝バイパス方式〟が誇るべき優位性は、その見た目のシンプルさだけではありません。というのは、車両を載せたAGVは、それぞれの製品、それぞれの工程、それぞれの作業者が担うべき情報をも携えつつ移動するからです。

 

個々のAGVは、自らが向かう先々の工程に於いて利用するべきツールや、設備に対して組立情報の指示を出しつつ、個々のAGVを担当するべき個々の作業者の身長や作業部位を予め計算し、リフトの高さもそれぞれの作業者に合わせて最適化してくれるのです。

 

また突然舞い込んでくる1台の生産要請にも応えられるという対応力と柔軟性を併せ持っており、これらに係る個々のAGVのふるまいは、我々が長年、究極の多品種少量生産体制を目指してきた膨大な課題を解消させて、車両生産ライン自体の革命を実現するものなのです。

 

つまりAGVバイパス方式は、生産の効率化だけでなく、働き方改革や、省エネ等にも効果を発揮します。この新たな生産ラインは、将来のEV車両に応える生産を実現できるだけではなく、未来のモノづくりの多様化にも柔軟に対応できる旧来の生産ラインを超えた仕組みとなるでしょう。

 

これからは、この〝バイパス方式〟の導入によって組立工場の風景が、人がいきいきと働くスマートファクトリーへと大きく変わろうとしているのです」と述べた。

 

モノと働く人の情報を携えて工場内を移動。連結したラインから外れ、バイパスを通って次の工程に移動。製品はAGVから一度も降ろされることなく、完成検査場まで届けられる

 

また同じ組立技術部所属の技術者である曽貝健司氏は、「その様子は、次々と出荷場に現れる完成車だけを目にしていた場合は、もしかしたら単純な流れ作業のように映るかもしれません。

 

しかし、その規模感や変動する各種要件など極めて複雑な背景をご理解頂ければ、この流れるような生産現場がいかに高度な計算によって成立しているかを実感して頂けると思います。

 

そもそも意外に思われる方も多いと思われますが、オートバイは実は季節商品です。従って、需要変動に合わせて沢山の種類を少しずつ生産する〝多品種少量生産〟に応え続けなければならないという難しさが常に伴います。

 

同じものを常に同じ量つくるなら設備や仕組みをもっとシンプルにすることも可能ですが、実際の車両組立では、そうはいきません。

 

需要変動によってあるラインでは昼夜問わずフル稼働する一方、隣のラインは休眠中という非効率な状況が生まれてしまいます。また、生産ラインに携わる作業者にとっても変化が大きく、働きやすい職場ではありません。

 

例えば生産現場で扱うオートバイ部品の点数は、1日あたり約9,000種・計60万点にものぼります。一見、ダイナミックな印象を受ける組立工場ですが、実は繊細な計算の積み上げによって成り立っているのです。

 

そうしたなか5年ほど前には、8本もあった常設の車体組立ラインは、AGVバイパス方式の導入等によって現在までに4本へと半減しました。生産のDXの進捗によって、工場の姿は急速に様変わりしています。

 

これは、従来のコンベア方式に代わる画期的な生産システムです。長年に亘る課題を解消する革新的な設備として、今、大きな期待を集めている存在なのです」と結んでいる。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。