完全自動運転EV(電気自動車)の開発・販売を目指すTuring(チューリング、千葉県柏市、山本一成代表取締役CEO)は3月1日、東京都内で事業戦略発表会を開き、2030年にハンドルの無い完全自動運転EVの量産化を目指すと表明した。(佃モビリティ総研・松下次男)
チューリングは世界で初めて名人を倒した人工知能(AI)将棋の「ポナンザ」を開発したことで知られる山本代表とカーネギーメロン大学で自動運転を研究した青木俊介取締役CTO(最高技術責任者)が2021年に共同で創業したスタートアップ。
チューリングの山本 一成代表取締役
ミッションに「テスラ越え(We Overtake Tesla)」を掲げ、量産自動車メーカーを目指している。
山本代表は量産化までのロードマップについて、2023年に試作車を、2025年にはオリジナルの自動運転EVを100台、そして2030年に「完全自動運転」を実現したEV1万台の量産を目指すとした。
試作車は東京モーターショーから名称変更した「ジャパンモビリティショー2023」に出展する予定だ。車両開発のステップはまずレベル2の車両を自社開発したあと、一気に「レブル5」の車両を目指すという。
レベル5の車両開発について山本代表は、センサーで認識できるのは97%、「残りの3%はAIで行う」とし、それが同社の強みと強調。山本代表は「AIネイティブで自動運転を先導する」と表現する。センサーはカメラ方式を主体にする考え。
チューリングの青木俊介取締役CTO
事業展開では、山本代表は2つの方向性を示し、一つが機械学習などAIを活用した開発チーム。もう一つが車両開発の分野で、それぞれ社内に事業チームを設けて、開発を目指す。
これについてAIの開発チームはもともとエキスパートが集まっている集団であり、得意領域だが、課題なのが手薄な車両開発の領域。
そこで同社は試作車両などの受託開発を手掛ける東京アールアンドデー(東京R&D、東京都千代田区、岡村了太社長)と戦略的パートナーシップを結んだ。
東京R&Dは国内OEMのほとんどと車両開発のサポートを手がけてきたほか、一部海外メーカーとも車両開発領域で関係をもつ。
岡村社長は自動車産業が劇的に変化する中、近年、ソフトウェアの重要性を感じていたとし、「ソフトウェアに強いチューリングと車両開発が得意な両社はお互いに補完できる」と強調。完全自動運転EVの「ハードルは高いが、挑戦のしがいがある」と話す。
東京アールアンドデーの岡村 了太代表取締役
車両開発チームを先導する青木CTOは、開発プロセスについて「シンプルに下から作り上げていく」と述べるとともに、車両を量産できる能力づくりから取り組む方針を示した。
加えて、事業展開に当たって不可欠としているのがサプライチェーン。現状、現行EVを分解してどのような部品が使われているかを調査しているが、その狙いについて「どのサプライヤーの製品が使われているか」を分析し、アプローチに役立てるためとした。
これを踏まえ、「今年中に試作車を走らせ、新たな自動車メーカーの立ち上げ」を目指す。
次のステップでは、2025年をめどに自社オリジナルの自動運転EV100台製造する計画を打ち出す。ただし、この車両は2030年を目標にしているレベル5の完全自動運転EVとは「完全に異なる車両」との見方を示した。
課題となるゼロから立ち上げる事業の採算性については「テスラも車両生産1万台の時点では赤字だった。それを乗り越えて、急成長した」と述べ、テスラをベンチマークにスピード感を持たて取り組むことを掲げる。車両1万台生産の次の目標は年産100万台とし、そこへの到達は「テスラを超えたい」と話す。
ただし、目標クリアーのハードルも高い。これに対し、山本代表は日本にはトヨタやホンダなどの大企業が誕生したが、「ここ2、30年、急成長した企業が日本に存在しない。このためにも大きな目標を掲げて、挑戦したい」と述べた。
チューリングはすでにシードラウンドで10億円の資金を調達しており、さらに自社での車両生産体制構築を見据えて2023年中にシリーズAの資金調達を実施する計画だ。