東芝は、リチウムイオン二次電池の絶縁体として一般的に使用されるセパレータを用いない、新構造のリチウムイオン二次電池を開発した。
この新構造のリチウムイオン二次電池では、電極材料の表面に樹脂製の極薄ナノファイバー膜で覆ったSkin-Coated Electrode(SCdE)を用い、電極間の距離を極限まで近づけることで、入出力と容量を同時に高め、電池中の絶縁体に関連するコストを約半分まで抑制することが可能だと云う。
東芝は、同社のリチウムイオン二次電池SCiBにこの新構造を適用し、入出力性能、容量が1.2倍になることを確認。新型リチウムイオン二次電池の詳細を、東京で開催される国際ナノファイバーシンポジウム2018で、6月7日に発表する。
SCdEの製造には、ナノファイバー膜形成技術のひとつ、エレクトロスピニング技術(ES技術)を応用。
ES技術は、原料の高分子溶液に高電圧を加えて紡糸する技術で、常温での紡糸が可能でかつ高耐熱性、高腐食耐性といった特徴を持ち、幅広い材料からナノファイバー不織布を形成する技術で、数十nm~数μmの範囲での繊維径制御が可能、耐熱性や絶縁性といった材料由来の特性を保持しながら、電解液中のイオンが通りやすい構造にすることができるとのことだ。
今回開発されたリチウムイオン二次電池では、このES技術により、絶縁性、耐熱性に優れる樹脂製の極薄ナノファイバー膜を、電極の表面に両面から同時にコーティングしてSCdEを形成することで、正極と負極を絶縁するために必要なセパレータを用いない構造を実現。両面から同時にコーティングすることで、SCiB(セパレータを用いた場合)と同等の安全性が得られると云う。
この技術では、電極表面にコーティングされた極薄ナノファイバー膜が電極と一体となるため、セパレータを薄膜化することで生じる製造過程での取り扱いにくさなども解消され、従来のセパレータでは困難な薄さの実現が可能。SCdEを用いた新構造のリチウムイオン二次電池では、高価な薄膜セパレータを用いても実現が困難な電池性能を、低コストで実現できるとしている。
東芝はまた、極薄ナノファイバー膜を構造に組み込んだSCdEを用いて、同社のSCiBの高出力セルの10Ahセルと同サイズで、従来の1,800Wから2,200Wへ出力性能の向上を達成。
同社独自の電極塗工技術と合わせることで、更なる入出力性能の向上が見込まれ、内部抵抗値を従来品に比べて約40%低減したセルの実現が可能になるとしている。
加えて、この入出力性能の向上により、SCiBと同様に寒冷地での使用が可能になるほか、鉛電池の代替の可能性も見込めるとしている。
東芝では、試作した電池を用いて、充放電を8,000回繰り返しても95%以上の電池容量が維持されることを実証し、高入出力・高容量化とSCiBの特長である長寿命を合わせて実現。このSCdEを用いた新構造を、車載用、定置向けのリチウムイオン二次電池にも展開し、2019年度の実用化を目指すとしている。
なお、同成果は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業の成果を一部使用している。