NEXT MOBILITY

MENU

2019年6月5日【テクノロジー】

東芝、無線基地局向け高効率パワーアンプ開発

NEXT MOBILITY編集部

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

東芝は、無線基地局向けに、消費電力を従来から64%削減した世界最高レベルの電力効率の高効率パワーアンプを開発した。

東芝・ロゴ

無線基地局向けパワーアンプは、無線基地局から携帯電話などの端末に送信される無線信号を増幅する装置で、消費電力が大きく、無線基地局全体の消費電力の増加の主な要因となっている。

 

パワーアンプで使用されるトランジスタは、送信する情報によって出力電力が常時変化する送信信号の瞬時出力電力が低くなると電力効率(注1)が大幅に低下。

 

今後設置が進む5G基地局では、通信方式の高度化に伴い、より広い瞬時出力電力を持つため、低い出力電力における電力効率改善が従来以上に大きな課題となると云う。

 

今回、東芝が開発したパワーアンプでは、2種類の異なる高効率パワーアンプの構成を独自の技術により、効率が最大化するよう組み合わせ、高次高調波の負荷(注2)を最適化。より効率を高め、ピーク電力の10分の1という低い平均電力でも70%の電力効率を達成した。

 

また、低い出力電力でも高い電力効率で動作することで、消費電力を従来から64%削減することができる(注3)と云う。

 

基地局クラスの出力電力で、5Gでも使用されるピークの高い変調信号(注4)を用いて電力効率70%を達成したのは、世界初(注5)。

 

なお東芝は、この関連技術を、米国ボストンで開催されるIEEE国際学会「IMS 2019」で6月5日(現地時間)に発表する。

 

 

 

これまでにも、ドハティアンプ(注6)、アウトフェージングアンプ(注7)などの複数のトランジスタを組み合わせ、低い瞬時出力電力でも高い電力効率が実現可能なアーキテクチャが開発、実用化されてきたが、これらアーキテクチャを採用した場合でも、ピーク電力の10分の1の平均電力で動作させた場合に達成できる電力効率は、およそ60%に留まっていた。

 

そんな中、東芝は、今後設置が進む5G基地局において、ピーク電力に比べて低い出力電力でのパワーアンプの効率改善が従来以上に大きな課題となると判断、ピーク電力の10分の1という低い平均電力における電力効率を改善するパワーアンプの開発に取り組んできた。

 

開発した高効率パワーアンプでは、アウトフェージングアンプで使用される2つのトランジスタを、それぞれ2個のトランジスタで構成されるドハティアンプに置き換え、4個のトランジスタで構成。このパワーアンプに対し、高次高調波の負荷を最適化することで、広い瞬時電力範囲に亘り非常に高い効率を実現している。

 

また、効率を最大化するよう事前学習した分離処理により伝送信号を2つの信号に分離し、パワーアンプに入力、増幅し、合成することで元の伝送信号の形を再生成し、伝送信号を増幅した信号が合成信号として出力。

 

このパワーアンプにより、高いピークを持つ変調信号をピーク電力の10分の1の平均電力で増幅した場合でも、70%の電力効率が得られることを確認した。

 

東芝は、今回開発した高効率化技術により、無線機の消費電力の大部分を占めるパワーアンプを5G基地局でも高効率化し、今後設置が進む5G基地局における低消費電力化に貢献するとしている。

 

 

注1:外部電源からの電力と入力信号電力の合計電力に対する、出力信号電力の割合のこと。この割合が高いほど電力効率が高い。

注2:電波を送信する周波数に対し、2倍以上の周波数に発生する不要波成分を「高次高調波」と呼ぶ。この不要波成分は出力電力に寄与しないため、低損失に反射させるような回路を接続する必要があり、これを「負荷」と呼んでいる。

注3:古典的パワーアンプの電力効率を25%と想定すると、1Wの出力に必要な電力4Wに対し、電力効率70%の新型アンプでは1.4Wとなり、約64%の消費電力の削減になる。

注4:一度に送信する情報が多くなればなるほど変調信号の振幅変化が大きくなり、平均電力に対して瞬間的に発生するピーク電力が大きくなる。

注5:ピーク電力の10分の1の平均電力において。東芝調べ(2019年6月5日時点)。

注6:電力増幅を高効率に行うアンプの一つで、キャリアアンプ、ピークアンプ等で構成される。高出力時には2個のアンプが同時に動作するが、低出力時にはピークアンプの動作が休止し、キャリアアンプだけが動作することで消費電力を低減する。

注7:変調信号を等電力の2つの信号に分解して2つのトランジスタで増幅し、合成することで元の変調信号の増幅信号を得る方法。2つの信号は変調信号の電力に応じた位相差を持つ。瞬時電力が一定となるため、トランジスタを常時飽和状態で使用することができ、電力効率を改善できる。

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。