東芝は、無線基地局向けに、消費電力を従来から64%削減した世界最高レベルの電力効率の高効率パワーアンプを開発した。
無線基地局向けパワーアンプは、無線基地局から携帯電話などの端末に送信される無線信号を増幅する装置で、消費電力が大きく、無線基地局全体の消費電力の増加の主な要因となっている。
パワーアンプで使用されるトランジスタは、送信する情報によって出力電力が常時変化する送信信号の瞬時出力電力が低くなると電力効率(注1)が大幅に低下。
今後設置が進む5G基地局では、通信方式の高度化に伴い、より広い瞬時出力電力を持つため、低い出力電力における電力効率改善が従来以上に大きな課題となると云う。
今回、東芝が開発したパワーアンプでは、2種類の異なる高効率パワーアンプの構成を独自の技術により、効率が最大化するよう組み合わせ、高次高調波の負荷(注2)を最適化。より効率を高め、ピーク電力の10分の1という低い平均電力でも70%の電力効率を達成した。
また、低い出力電力でも高い電力効率で動作することで、消費電力を従来から64%削減することができる(注3)と云う。
基地局クラスの出力電力で、5Gでも使用されるピークの高い変調信号(注4)を用いて電力効率70%を達成したのは、世界初(注5)。
なお東芝は、この関連技術を、米国ボストンで開催されるIEEE国際学会「IMS 2019」で6月5日(現地時間)に発表する。
これまでにも、ドハティアンプ(注6)、アウトフェージングアンプ(注7)などの複数のトランジスタを組み合わせ、低い瞬時出力電力でも高い電力効率が実現可能なアーキテクチャが開発、実用化されてきたが、これらアーキテクチャを採用した場合でも、ピーク電力の10分の1の平均電力で動作させた場合に達成できる電力効率は、およそ60%に留まっていた。
そんな中、東芝は、今後設置が進む5G基地局において、ピーク電力に比べて低い出力電力でのパワーアンプの効率改善が従来以上に大きな課題となると判断、ピーク電力の10分の1という低い平均電力における電力効率を改善するパワーアンプの開発に取り組んできた。
開発した高効率パワーアンプでは、アウトフェージングアンプで使用される2つのトランジスタを、それぞれ2個のトランジスタで構成されるドハティアンプに置き換え、4個のトランジスタで構成。このパワーアンプに対し、高次高調波の負荷を最適化することで、広い瞬時電力範囲に亘り非常に高い効率を実現している。
また、効率を最大化するよう事前学習した分離処理により伝送信号を2つの信号に分離し、パワーアンプに入力、増幅し、合成することで元の伝送信号の形を再生成し、伝送信号を増幅した信号が合成信号として出力。
このパワーアンプにより、高いピークを持つ変調信号をピーク電力の10分の1の平均電力で増幅した場合でも、70%の電力効率が得られることを確認した。
東芝は、今回開発した高効率化技術により、無線機の消費電力の大部分を占めるパワーアンプを5G基地局でも高効率化し、今後設置が進む5G基地局における低消費電力化に貢献するとしている。
注1:外部電源からの電力と入力信号電力の合計電力に対する、出力信号電力の割合のこと。この割合が高いほど電力効率が高い。
注2:電波を送信する周波数に対し、2倍以上の周波数に発生する不要波成分を「高次高調波」と呼ぶ。この不要波成分は出力電力に寄与しないため、低損失に反射させるような回路を接続する必要があり、これを「負荷」と呼んでいる。
注3:古典的パワーアンプの電力効率を25%と想定すると、1Wの出力に必要な電力4Wに対し、電力効率70%の新型アンプでは1.4Wとなり、約64%の消費電力の削減になる。
注4:一度に送信する情報が多くなればなるほど変調信号の振幅変化が大きくなり、平均電力に対して瞬間的に発生するピーク電力が大きくなる。
注5:ピーク電力の10分の1の平均電力において。東芝調べ(2019年6月5日時点)。
注6:電力増幅を高効率に行うアンプの一つで、キャリアアンプ、ピークアンプ等で構成される。高出力時には2個のアンプが同時に動作するが、低出力時にはピークアンプの動作が休止し、キャリアアンプだけが動作することで消費電力を低減する。
注7:変調信号を等電力の2つの信号に分解して2つのトランジスタで増幅し、合成することで元の変調信号の増幅信号を得る方法。2つの信号は変調信号の電力に応じた位相差を持つ。瞬時電力が一定となるため、トランジスタを常時飽和状態で使用することができ、電力効率を改善できる。