東レ(本社:東京都中央区、代表取締役社長:日覺昭廣)は8月29日、今後大量発生が見込まれる車載用の使用済みリチウムイオン電池からリチウムを回収可能な新規ナノろ過(NF)膜を創出した。( 坂上 賢治 )
これまで技術的にリチウムイオン電池からのリチウム抽出は難しく、大部分を廃棄しているのが現状であるが、東レでは、既に実液を用いた回収評価を開始している事から早期実用化を目指して研究・技術開発を加速していく構え。
今日に於いてリチウム資源は、電気自動車の普及に伴い需要の急増が見込まれている。しかし現在のリチウムの主要な供給源である塩湖法(塩湖からかん水を汲み上げ、半年~1年半掛けて天日による濃縮精製工程を経てリチウムを生産する)は、リチウム産出量の多い塩湖が限られている。
また鉱石法(鉱石を採掘後、選鉱、焙焼、浸出、精製工程を経てリチウムを生産する)は、生産工程が長く、高温での熱処理が必要になる事からCO2排出量が多く、大幅なコスト高に繫がる事から、既に高価格である事がネックのリチウムイオン電池の価格が、より高騰するリスクがある。
対して今回、東レが開発したNF膜は元々、溶解している多価イオンや有機物を選択的に分離する特徴を有しており、現時点に於いても地下水や河川水から硬度成分や農薬を除去する用途の他、食品・バイオ用途での脱塩・精製などに用いられてきた。
しかし従来タイプのNF膜では、強酸に対する耐久性が不足しているため、適用範囲が中性領域に限られる事に加え、多価イオンに対する選択分離性が十分ではない事から効率的な分離が出来ない等の課題があった。
それゆえ、これまでは使用済みリチウムイオン電池から強酸を用いて有価金属を浸出・回収する試みに対しNF膜を適用する事が出来なかった。
そこで東レは、既存のNF膜へDX技術を活用させていく事によって、酸による膜の性能劣化メカニズムと、選択分離に最適な膜の細孔構造を解析した上で、有機合成化学/高分子化学/ナノテクノロジーを駆使。
そうした取り組みほ経て、強固な耐酸性構造と1nm以下の精密な細孔構造を兼ね備えた架橋高分子膜の創出に成功した。この結果、従来品比約5倍の耐酸性と、約1.5倍のイオン選択分離性を実現させるに至った。
この新たなNF膜の完成を踏まえ、これを有価金属の浸出・回収へ適用させる事で、有価金属を効率的に回収する事が出来るようになり、現段階ではその大部分を廃棄して来たリチウムを、高純度かつ高収率で回収する事を可能とした。加えてリチウム1kg製造時のCO2排出量は鉱石法の最大約1/3に削減出来るようになった。
東レは今後、同技術を携え、自動車メーカー・電池メーカー・電池材料メーカー・リサイクル業者等と連携。リチウムのリサイクル方法を確立する事で、電気自動車普及に伴うリチウムの供給懸念の解消を目指し、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきたいと結んでいる。