東京大学と科学技術振興機構(JST)は4月19日、熱を運ぶ粒子「フォノン」の流れを理解し放熱材料の性能向上に資する研究に一定の目処をつけた。同研究は今後、半導体デバイスの排熱問題の解決に期待されるもの。
その研究ポイントは、高性能半導体デバイスが身の回りのあらゆる製品に搭載されて需要が高まりつつあるが、一方で排熱に課題があるため、放熱材料として普及しつつあるグラファイトの性能向上が鍵となっている。
そこで同研究は理論的に、熱を運ぶフォノンの流体的な振る舞いによる熱輸送の効果を明確にし、実験的に同位体を除去した高純度グラファイトで熱伝導が増強されるを確認した。
理論的には、室温でもこの熱輸送の効果が有効であり、スマートフォンやパソコン、LED、パワー半導体などの発熱の大きな電子機器の熱管理に広く利用される事が期待される。
具体的な研究概要は、東京大学 生産技術研究所のシン コウ 特別研究員(日本学術振興会 特別研究員)、ヤンユ グオ 特別研究員(日本学術振興会 特別研究員)(研究当時)、野村 政宏 教授らが、グラファイトの同位体を除去する事で、100ケルビン(100ケルビンはマイナス173度)付近で強いフォノンポアズイユ流れが形成され、フォノンの相互作用によって生じる集団的な流れによって熱伝導が増強されることを確認した。
当該研究では、これまで明確ではなかったグラファイト中のフォノンポアズイユ流れの形成に関する理論的判断基準を明確にした。
そして、グラファイトでフォノンの流体的な性質を活用して熱伝導を増強するためには、同位体を除去して高純度化する事とポアズイユ流れを形成しやすい幅にする事が重要である事を明らかにした。
この成果は、放熱材料として普及が始まっているグラファイトのさらなる放熱性能の向上に繋がり、高性能半導体デバイスを始めとする排熱を課題として抱える電子機器などに広く波及効果が期待出来るとしている。
なお同研究は、物質・材料研究機構の谷口 尚 フェロー、渡辺 賢司 特命研究員、フランス国立科学研究センターのセバスチャン・ヴォルツ リサーチディレクター、東京大学 生産技術研究所の町田 友樹 教授らと共同で行われた。
研究成果は、2023年4月19日(現地時間)に、「Nature Communications」に掲載された。
また研究にあたっては、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 CREST「微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出(研究総括:谷口 研二)」の研究課題「フォノンエンジニアリングに立脚した熱電給電センシングシステム(グラントNo.JPMJCR19Q3)」、日本学術振興会 科学研究費助成事業(グラントNo.21H04635、21J12652)などの支援により実施された。
<プレスリリース資料>
本文PDF(329KB)
<論文タイトル>
“Observation of phonon Poiseuille flow in isotopically purified graphite ribbons”
DOI:10.1038/s41467-023-37380-5
< 研究 >
– 野村 政宏(ノムラ マサヒロ)東京大学 生産技術研究所 教授
< 広報 >
– 東京大学 生産技術研究所 広報室
– 科学技術振興機構 広報課