太陽光発電パネル
企業のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが加速している。そんななか、住友ゴム工業は製造段階で排出される二酸化炭素(CO2)を実質ゼロに抑えたタイヤを実現。その設備と製造過程を4月18日と19日に報道陣や地元の有力者らへ公開した。太陽光発電と水素を活用したもので、白河工場で実績を積み上げて、この取り組みを国内外の工場に広げていき、2050年に企業活動全体でのカーボンニュートラルを実現する。(経済ジャーナリスト・山田清志)
白河工場正面
NEDOの助成事業として実証実験を開始
東北新幹線の新白河駅から東へクルマで約15分、すると左手に太陽光パネルで覆われた駐車場が見えてくる。その先に住友ゴム工業白河工場の正門がある。同工場は主力のタイヤ生産工場で、1974年8月に操業を開始した。敷地面積は約60万平方メートル、東京ドーム13個分で、1600人余りの従業員が働いている。
この工場は「環境で地域をリードする工場へ」を合い言葉に、緑化推進活動や生物多様性の保全、地域社会貢献活動に力を入れている。構内にはビオトーブがあり、夏にはホタル鑑賞会が開かれるという。2023年3月にはこれらの活動が評価され、「第11回緑の社会貢献賞」(公益財団法人都市緑化機構主催)を受賞した。
水素受入施設
「白河工場のタイヤ製造で使用するエネルギーには、電力と天然ガスの2種類がある。従来から電力においては、省エネルギーの推進、コージェネレーションの拡大、太陽光発電の導入、再生可能エネルギー由来のグリーン電力の調達を軸にCO2削減に取り組んできた。しかし、製造段階、すなわちスコープ1、2において、カーボンニュートラルを達成するには加硫工程でのエネルギー転換が問題となっていた」と山本悟社長は話し、こう付け加える。
「加硫工程では、熱と圧力を加えてタイヤを仕上げるが、そこで使用する蒸気を化石燃料である天然ガスを使用して発生させていた。そこで、代替となるエネルギーを検討してたどり着いたのが水素エネルギーだった」
水素ボイラー
次世代エネルギーとして注目されている水素は、化石燃料とは異なり、燃やしてもCO2を発生しない。将来の本格的な水素利用を睨んで、その知見をいち早く集積しようと考えた。そこで、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業として支援を受け、2021年8月から実証実験を始めた。
1月からカーボンニュートラルタイヤを量産
その事業項目は①水素ボイラーの安定的、効率的稼働の実現②燃料を水素に転換した場合の有効性評価③福島県内での水素地産地消モデルの構築④製造時のカーボンニュートラルタイヤの開発、他地域展開の4つ。
駐車場の屋根に設置した太陽光パネルによる発電で製造装置の電力をまかない、加硫工程で必要となる蒸気は水素の燃焼で生み出す。その水素は、郡山市のガス会社レゾナック・ガスプロダクツと、浪江町の福島水素エネルギー研究フィールドから調達する。水素エネルギーの地産地消を通じて脱炭素社会の実現に貢献しようというわけだ
そして23年1月、製造時のカーボンニュートラルを実現した高級車向けタイヤ「ファルケン アゼニス FK520」の量産を開始した。現時点で年間6万本程度の製造を予定しており、まずは欧州で販売していく。
住友ゴム工業の山本悟社長
「2050年のカーボンニュートラル達成に向けた重要な一歩。太陽光や水素を活用したCO2排出削減の取り組みをこれから国内外の工場で広げていく。さらに確立した水素エネルギーの地産地消スキームをモデルケースとして、その技術を世に広く提供していきたいと考えている」と山本社長は話し、産学官の連携を強化していくことの重要性を強調していた。