試作した鉄系高温超伝導磁石/鉄系高温超伝導磁石(直径30 mm、厚さ6 mm)。左側の(1)はAI が設計したプロセス、右側の(2)は研究者が設計したプロセスで合成しました。2つの磁石を重ねて磁力を測定した。
研究者とAIがタッグを組み、材料合成プロセスを探索
( 東京農工大学・九州大学・科学技術振興機構/JST発表 )東京農工大学の山本明保 准教授、德田進之介 氏(博士後期課程修了)、石井秋光 氏(博士後期課程修了)、山中晃徳 教授、九州大学の嶋田雄介 准教授、ロンドン大学 キングス・カレッジのマーク・エインズリー講師らは、人工知能(AI)の手法の1つである機械学習を合成プロセスに活用することで、世界最高の磁力を持つ鉄系高温超伝導体の永久磁石を開発、テスラクラスの強力磁場を安定保持することに初めて成功した。
そのポイントは以下の通り
- 作りやすく、使いやすい超伝導磁石が期待されていた
- 研究者の知見とAIを融合した設計手法により、効率的に合成プロセスを探索
- 世界記録の2倍超の磁力を持ち、磁場安定性にも優れた小型超伝導永久磁石を実現
高温超伝導体では、磁力の元となる超伝導電流が結晶粒界(超伝導体の結晶と結晶の間のつなぎ目)で抑制される課題があった。
同研究では、無数の結晶と結晶粒界から構成される多結晶材料の複雑なミクロ構造を超伝導電流が流れやすいように制御するため、研究者の経験とアイデアに基づくアプローチと機械学習を用いたAIによるアプローチとを融合した合成プロセスの設計手法を構築した。
<参考図>研究者と AIが同じ実験データを共有しながら、独立してプロセス設計する枠組み
この新しいプロセス設計手法により、世界記録の2倍以上強力な磁力を持つ小型の鉄系高温超伝導永久磁石の開発に成功し、医療用MRIレベルの優れた磁場安定性を持つことを実証した。
鉄系高温超伝導永久磁石は、一般的によく用いられており安価な多結晶型材料(セラミックス材料)の合成プロセスを応用できることから作りやすく、また希少な冷却剤を必要とせず小型冷凍機で運転できるため、多様な超伝導機器・システムへの応用に貢献すると期待される。
なお研究成果は、2024年6月7日(金)(現地英国時間)にSpringer Nature科学誌「NPG Asia Materials」のオンライン版で公開される。
最後に同研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST(「実験と理論・計算・データ科学を融合した材料開発の革新」領域、「超伝導インフォマティクスに基づく多結晶型超伝導材料・磁石の開発」課題(研究代表者:山本 明保、JPMJCR18J4))の一環として、日本学術振興会 科学研究費補助金の助成、文部科学省 ナノテクノロジープラットフォーム事業、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 共同利用研究の支援を一部受けて行われたと付している。
<プレスリリース資料>
本文PDF(383KB)
<論文タイトル>
“Super-strength permanent magnets with iron-based superconductors by data- & researcher-driven process design”
DOI:10.1038/s41427-024-00549-5