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2024年12月6日【エネルギー】

ステランティスと米ゼータ、リチウム硫黄EV蓄電池の開発へ

坂上 賢治

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新たなEV向けバッテリーのセル開発と製品化を視野に提携

 

ステランティス( STELLANTIS,N.V. / 本社:北ホラント州アムステルダム )とゼータ・エナジー( Zeta Energy Corp. /本社:テキサス州ヒューストン )は12月5日、新たなEV向けバッテリーのセル開発と製品化を視野に提携、2社による共同開発契約を結んだことを明らかにした。( 坂上 賢治 )

 

上記ゼータ・エナジーは、低コストで持続可能な充電式バッテリーの開発・商品化・製造に注力してきたベンチャー企業で、独自の硫化炭素カソードと3D金属リチウムアノードをベースにしたリチウム硫黄バッテリー( 詳細は後述 )の開発と商品化を目的に去る2014年に設立された。

 

同社の保有技術は、米国エネルギー省のARPA-EおよびVTOプログラム、世界材料フォーラムなどで数々の権威ある賞を受賞。現段階で60件を超える特許と出願を含む広範な特許ポートフォリオを保有している。

 

今回のステランティスとの提携では、バッテリー構成素材にコバルトやニッケルなどのレアメタル(稀少金属)を使用せず硫黄を使用する。より具体的には、正極に硫黄を、負極にリチウム金属を、それぞれ使用するスタイルの蓄電池を指している。このようなゼータ・エナジー独自の素材の組み合わせによるリチウム硫黄EVバッテリーの開発・製造ノウハウを、今回は両社で共有する。

 

そして将来、リチウム硫黄バッテリーの製品化を果たした暁には、それが現在のリチウムイオンバッテリー(LiB)に比肩する性能を持たせられるというだけでなく、1kWhあたりのモジュールサイズと製造価格がリチウムイオン電池の半分以下のコストで実現できると謳っている。

 

提携の理由はLiBに比べ大幅に低コストかつ安全な製品ができるため

 

その意味するところは当該バッテリーの正極材などの構成部材が、産業廃棄物とメタンなどを組み合わせることで製造できる点が強みだ。またそうした環境から抽出される硫黄であることから、現在主流のリチウムイオン電池に比べても大幅な低コストで安全に製品化できる点がある。

 

つまり硫黄はレアメタルとは異なり、世の中に広く豊富に存在していて安価であること。これがリチウム硫黄バッテリーの価格が大幅に安くなる主な理由だ。先にも述べたがリチウム硫黄バッテリー製造時の材料費はリチウムイオンバッテリーの約半分で済む。

 

加えて現在主流のリチウムイオン電池に比べ、急速充電速度が最大50%程度向上させられる可能性も見えてきているだけでなく、バッテリーパックサイズ自体も半分に、航続距離も倍増させられ、CO2排出量も大幅に削減される。

 

その理由はリチウム硫黄電池の構成素材が、既存産業からの廃棄物を筆頭にメタン、未精製硫黄などを抽出・利用していけること。その一方で、先の通りLiBで使われるコバルト、グラファイト、マンガン、ニッケルなどのレアメタルを必要としない特徴があるからだ。

 

製品化でコバルト、グラファイト、マンガン、ニッケルなどを必要としない

 

ちなみに、これらのレアメタルは偏在性が高く材料の安定調達にも課題がある。一般にレアメタルの生産国は、リチウムがオーストラリア、チリ、中国。ニッケルがインドネシア、フィリピン、ロシア。コバルトがコンゴ民主共和国、ロシア、オーストラリアなどだが、幾つかの算出国は政情が不安定だったり、出荷操作により素材価格の高騰も日常茶飯事だ。対して硫黄は調達上の制限が低く、その結果おのずと生産費用とサプライチェーンのリスクの両方が軽減される訳だ。

 

加えて新型バッテリーの製造にあたっても環境を選ぶ必要がない。従来のバッテリー製造拠点で充分対応可能だ。従って欧州や米国などの拠点を問わないから、国内の既存のサプライ チェーンも効率的に活用できるという美点もある。

 

このような見地から、両社で取り組むことになった新製品の開発製造協力について、ステランティスでエンジニアリング・テクノロジーの最高責任者の任にあるネッド・キュリック氏は、「ゼータ・エナジーとの協力は、クリーンで安全、そして手頃な価格の自動車の提供を目指す当社の電動化戦略の前進に向けた新たな一歩です。

 

この画期的なリチウム硫黄を活かしたバッテリーの開発・製造技術は、2038年までにカーボンニュートラルを目指す当社の経営指針にも叶うものであり、私達がお客様へそのようなEV製品の提供することによって、より長い航続距離の実現、小型軽量化に伴うパフォーマンスの向上を実現てだきるめだけでなく、当該EVをより、手頃な価格で提供できるようになるでしょう」と述べた。

 

製品化の暁には75機種を超える傘下のBEVに順次搭載されていく

 

対してゼータ・エナジーでCEOを務めるトム・ピレット氏は、「このプロジェクトでステランティスと協力できることを大変嬉しく思います。実は当社に限らず、車載用EVバッテリー製品で使用する化学物質の選択肢については、これまで様々なものが試されてきました。いかし、その中のひとつを真に現実のものにするためには、多くの労力を費やす必要があります。

 

今回、当社が保有するリチウム硫黄バッテリー技術と、ステランティスが企業として備えているイノベーションに賭ける真摯な取り組み姿勢、グローバルな製造環境、サプライ流通に係るエコシステムの知見などが組み合わされることにより、我々は、次世代BEVで絶対性能の向上と共に、車両製造コストを抜本的に改善させることができるようになるでしょう」と語った。

 

最後に今回の2社による協力下( 予てよりステランティスが掲げるDare Forward 2030戦略計画の重要な柱となる )では、先の通りで革新的なバッテリー セルとパック技術の研究が内包されており、生産前の開発と将来の生産計画の両方が含まれている。

 

ゆえに想定されるプロジェクトが順調に完了した暁には、当該バッテリーがステランティス傘下の75機種を超えるBEVに順次搭載( 2030年までを想定 )されていくだろうと結ばれている。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。