光量子コンピュータ実機
理研・東大・NTT・Fixstars Amplifyらの共同研究グループは、新方式の量子コンピュータ(量子力学の原理を利用したもの)の開発に成功した。これは世界に先駆けた汎用型光量子計算のためのプラットフォームとなる。
より具体的には、理化学研究所(理研)量子コンピュータ研究センター光量子計算研究チームの古澤明チームリーダー(量子コンピュータ研究センター副センター長、東京大学大学院工学系研究科教授)、光量子制御研究チームの米澤英宏チームリーダー、日本電信電話(NTT)、Fixstars Amplifyの平岡卓爾代表取締役社長CEOらの共同研究グループは、新方式の量子コンピュータを開発した。
量子コンピュータは、量子力学の原理を計算に利用することで、様々な問題が超高速で解けると期待され、世界中で激しい開発競争が行われている。実際、理研量子コンピュータ研究センターでも2023年自店で超伝導方式の量子コンピュータを公開していた。
そんな量子コンピュータは世界に革新をもたらす新技術と期待されている。量子力学の原理に立脚し、量子もつれ(量子の間に存在し得る非局所的な相関を指す)や量子重ね合わせ(量子が異なる状態を同時に取ることを指す)といった量子の世界の特徴を巧妙に扱うことで、全く新しい方式のコンピュータが実現できる。
そもそも量子コンピュータの概念は1980年代に提唱され、その後1990年代に量子コンピュータ特有のアルゴリズムが発見されたことで注目を集めた。2000年代以降、その実現に向けて世界中で基礎研究と応用研究が行われてきた。
近年、小規模な量子コンピュータが実現されクラウドベースで提供されるようになり、理研量子コンピュータ研究センターでも2023年に64量子ビットの超伝導型量子コンピュータを整備しクラウド公開した。
こうした量子コンピュータの実現方式には、超伝導、中性原子、イオン、シリコン、光など、多様な候補があり熾烈(しれつ)な競争が行われている。この中で、光方式の量子コンピュータは、以下のことから非常に有望な候補の一つと考えられている。
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- (1)計算のクロック周波数(動作周波数)を数百テラヘルツ(THz、1THzは1兆ヘルツ)という光の周波数まで原理的には高められる
- (2)他方式と違いほぼ室温動作が可能
- (3)光多重化技術[4]によりコンパクトなセットアップで大規模計算が可能
- (4)光通信と親和性が高く量子コンピュータネットワークの構築が容易と考えられる特に光通信で培われた超高速光技術が、光量子コンピュータにとって非常に有用なアセット(資源)であり大きなアドバンテージになる
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今回、先の共同研究グループは、光方式(光が情報の担い手となる)による新型量子コンピュータを開発した。光方式では、従来の量子コンピュータと比べて高速かつ大規模な量子計算が可能になると期待されており、これまで困難であった計算課題の解決など、量子コンピュータ研究を新たなステージに進めることができる。
今研究チームに於ける古澤チームリーダーは20年以上に亘り、光量子コンピュータ研究のトップランナーであり、その間に理研と東京大学で培った様々な技術が今回の光量子コンピュータに結実した。
基幹部である超広帯域量子光生成デバイスは、NTT先端集積デバイス研究所によって長く研究されている超高速通信用光デバイスを基に開発した量子光源が提供され、クラウドシステムは株式会社Fixstars Amplifyの協力により整備された。
そうして開発した光量子コンピュータは、インターネットを介したクラウドシステムから利用可能。当面は共同研究契約を通じた利用となるが、今後、国内の量子計算プラットフォームの利用拡大、量子コンピュータのユースケース(活用法)の創出、国内量子産業の発展と国際競争力の向上に寄与すると期待される。
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共同研究グループ
理化学研究所 量子コンピュータ研究センター
- 光量子計算研究チーム
- チームリーダー古澤 明(フルサワ・アキラ)(量子コンピュータ研究センター副センター長、東京大学大学院工学系研究科教授)
- 特別研究員 阪口 淳史(サカグチ・アツシ)
- 研究員 吉川 純一(ヨシカワ・ジュンイチ)
- 特別研究員 陳 奕如(チェン・イリュ)
- 光量子制御研究チーム
- チームリーダー 米澤 英宏(ヨネザワ・ヒデヒロ)
- 上級研究員 横山 翔竜(ヨコヤマ・ショウタ)
東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻
- 助教 アサバナント・ワリット(Asavanant Warit)(量子コンピュータ研究センター 光量子計算研究チーム 客員研究員)
- 助教(研究当時) 高瀬 寛(タカセ・カン)
- (量子コンピュータ研究センター 光量子計算研究チーム 客員研究員)
- 博士課程学生 長吉 博成(ナガヨシ・ヒロナリ)
日本電信電話株式会社 NTT先端集積デバイス研究所
- 上席特別研究員 橋本 俊和(ハシモト・トシカズ)
- 特別研究員 梅木 毅伺(ウメキ・タケシ)
- 准特別研究員 柏﨑 貴大(カシワザキ・タカヒロ)
- 研究主任 井上 飛鳥(イノウエ・アスカ)
株式会社Fixstars Amplify
- 代表取締役社長CEO 平岡 卓爾(ヒラオカ・タクジ)
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研究支援
同研究は科学技術振興機構(JST)ムーンショット型研究開発事業ムーンショット目標6「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現(プログラムディレクター:北川勝浩)」の研究開発プロジェクト「誤り耐性型大規模汎用光量子コンピュータの研究開発(プロジェクトマネージャー:古澤明)」の助成を受けて行われた。
なお同取り組みの関連技術について、2024年11月25~29日に開催されるNTT R&D FORUM 2024 ―IOWN INTEGRALで展示予定。
「NTT R&D FORUM 2024 ―IOWN INTEGRAL」 公式サイト https://www.rd.ntt/forum/2024/
<機関窓口>
理化学研究所 広報室 報道担当
東京大学大学院工学系研究科 広報室
科学技術振興機構 広報課
日本電信電話株式会社 先端技術総合研究所 広報担当
株式会社フィックスターズ 広報担当