パナソニック オートモーティブシステムズ(PAS)とArmは11月7日、ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)のための自動車アーキテクチャの標準化を目指す戦略的パートナーシップの概要を明らかにした。
両社は、現在および将来の自動車のニーズに対応できる柔軟なソフトウェアスタックを構築するという共通のビジョンを持ち、業界全体に亘りソフトウェア開発の標準化を推進する取り組みであるSOAFEEへの積極的な参加を通じて共にビジョンの実現に取り組んでいく。
この新しいパートナーシップにより、PASとArmは仮想デバイスフレームワークVirtIOを採用・拡張し、自動車ソフトウェア開発をハードウェアから分離し、自動車業界の開発サイクルを加速させる。
昨今の自動車業界では、電子制御ユニット(ECU)の統合が進み、コックピット・ドメインコントローラ(CDC)やハイパフォーマンスコンピューター(HPC)などの強力なECUに集約されている。
これにより、最適なハイパーバイザーや最先端のチップセットを柔軟に選択できることの重要性が増している。しかし、ベンダー特有の独自インターフェースによって、多くの自動車メーカーやTier1サプライヤーは、他のベンダーソリューションに移行する際にコストと納期が増加するという課題に直面している。
PASとArmは、これらの課題に対処するために、ハードウェア中心の開発モデルからソフトウェアファーストな開発モデルへの変革が必要であると認識。自動車メーカーとTier1サプライヤーのソフトウェアスタックと、それらのソフトウェアを動作させるプラットフォーム基盤であるハイパーバイザーおよびチップセットとの間のインターフェースを標準化することで、ソフトウェア開発のニーズやユースケースに合った、最新の技術を採用しやすくなる。
<新たなパートナーシップに含まれる主要な取り組み>
1.VirtIOベースのUnified HMIを利用したゾーンアーキテクチャの標準化
PASとArmは、CDC/HPCのようなセントラルECUに接続されたデバイスの仮想化だけに留まらず、周辺に存在するゾーンECUに接続されたデバイスの仮想化にもVirtIOを活用している。
両社は、PASによりオープンソース化されたディスプレイ仮想化技術であるUnified HMIを使用した、Arm上に構築されたディスプレイゾーンアーキテクチャについての画期的なコンセプト実証を行った。
このアーキテクチャにより、アプリケーション自体を変更することなくセントラルECUから複数のゾーンECUへGPU負荷を分散できるため、セントラルECUに集中する発熱の低減やゾーンECUの最適物理配置によるハーネス重量を削減することができる。
更に、ゾーンECUのMali™-G78AE GPUが有する柔軟なパーティショニング機能を活用して異なるワークロード毎に専用のハードウェアリソースを割り当てることで、ワークロード毎に予め保証されたグラフィックス性能を実現する。
PASとArmは協力してこれらに関するSOAFEE Blueprint(ユースケースドキュメント)とリファレンス実装の提供を進めることで、自動車業界における新たなゾーンアーキテクチャの標準化を目指す。
2.クラウドから車両にわたる環境同一性(環境パリティ)の確保
PASのvSkipGen™は、Arm® Neoverse™ベースのクラウドサーバー上で動作する。この取り組みにより、Arm CPUアーキテクチャとVirtIOデバイス仮想化フレームワークの同一性を確保していくことで、クラウド上の仮想ハードウェアと自動車に搭載される物理的なハードウェアの間で完全な環境パリティを確保していく。
PASとArmは、VirtIOを仮想ハードウェアに実装し、自動車における仮想システムと物理システムのギャップをさらに埋めるために協力する。
3.VirtIO標準化の拡大
現在、PASとArmはAndroid Automotive™やAutomotive Grade Linux™などのコックピットのユースケースに焦点を当てており、VirtIO標準をより多くの自動車ユースケースに拡大することを目指している。
これには、リアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)向けのインターフェースの標準化が含まれ、先進運転支援システム(ADAS)ソフトウェアをハードウェア依存から分離することができる。
PASの代表取締役副社長執行役員でチーフ・テクノロジー・オフィサー(CTO)の水山正重氏は、「Armとのパートナーシップは、VirtIOの標準化を推進し、この業界リファレンス標準を次のレベルに引き上げることを目指しています。
私たちの組織の専門知識と業界のリーダーシップを組み合わせることで、このコラボレーションがソフトウェアの可能性を引き出し、SDVに向けた自動車技術の未来を築くための重要な基盤となると確信しています」と述べた。
対してArmのシニア・バイスプレジデント兼オートモーティブ事業部門ジェネラルマネージャーであるディプティ・ヴァチャーニ氏(Dipti Vachani)は、「SDVは今日の自動車メーカーにとって最もエキサイティングな機会の一つですが、このビジョンを実現するには、物理的なチップが利用可能になる前にソフトウェア開発者が作業を開始できるような革新的なアプローチが必要です。
PASとのパートナーシップは、両社のSOAFEE(Scalable Open Architecture For Embedded Edge/自動車業界とソフトウェア業界を結びつけ、AI対応のソフトウェア・ディファインド・ビークルを実現するための取り組み)への積極的な参加がきっかけとなり、標準化を通じて業界内の分断を減らし、パートナーの自動車開発サイクルを加速するという共通の目標に基づいています」と語った。