NEXT MOBILITY

MENU

2024年11月19日【IoT】

オンセミとスバル、次世代アイサイト統合ECUでの協業開始

松下次男

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

オンセミのハッサーン・エルコーリーCEO、スバルの柴田英司CDCO(最高デジタルカー責任者)、オンセミジャパンの林孝浩代表取締役(本社バイスプレジデント)

 

次世代アイサイトは2028年を目処に投入する新BEVに搭載

 

米大手半導体メーカー、オンセミ(アリゾナ州)のハッサーン・エルコーリー社長兼CEO(最高経営責任者)は11月19日、東京都内で記者会見を開き、スバルと次世代アイサイト用イメージセンサの開発で協業すると発表した。(佃モビリティ総研・松下次男)

 

次世代アイサイトはAI(人工知能)推論を融合し、認識処理を大きく向上したシステムとなる。記者会見に加わったスバルの柴田英司執行役員CDCO(最高デジタルカー責任者)は次世代アイサイトについて2028年をめどに投入する開発中の「新しいバッテリー電気自動車(BEV)に搭載する」計画を明らかにした。

 

また、次世代アイサイトは米AMDとの協業で独自開発する統合ECU(電子コントロールユニット)と一体型で開発を進める。

 

 

オンセミとスバルが協業で開発するイメージセンサは、次世代アイサイト向けステレオカメラの心臓部となるフロントセンシング用イメージセンサ。スバルはオンセミと第3世代アイサイト(2014年投入)用イメージセンサの開発から協業を続けている。

 

次世代アイサイトに採用するのはHyperluxイメージセンサ「AR0823AT」で、画素数は8・3MP(メガピクセル)。2020年に投入した現行型アイサイトは2・3MPでああり、画素数は3倍以上だ。

 

柴田執行役員は同イメージセンサの採用理由について「AIに最適な画像が得られる」ためと説明し、AIを活用することにより「物体識別が格段に高まる」という。

 

AI推論を採用したアイサイトをオンセミと協業開発するのは次期型が初

 

具体的には、夜間や遠距離での歩行者が検出できるほか、反射がある道路での車両検出、建物と他の障害物の違いなどがはっきりと認識できるようになる。スバルは初期アイサイトからカメラ映像で周囲を立体視する技術を採用する数少ないメーカーだが、AI推論を採用することでその精度をより高める。スバルがAI推論を採用したアイサイトをオンセミと協業で開発するのは次期型が初めて。

 

次期アイサイトは「動き」の予知など、更なる機能拡大も進めていく考えだ。柴田執行役員はこれにより「様々な事故ケースへの対応手段を具体化し、順次織り込む」ことで、目標の2030年の死亡交通事故ゼロへ近づけたいと強調した。
オンセミのエンコーリー社長はスバルとの協業について「パートナーと一体になってその要求に対応するのが我々の使命であり、取り組みをより深化させたい」と述べた。

 

あわせて事業展望では「インテリジェントなパワーおよびセンシング技術を創造することで、人々の生活を良くし、生産性を向上する」ことをミッションにし、自動車や産業分野などに事業活動をフォーカスする方針を示した。

 

 

とくに自動車分野ではSiC(炭化ケイ素)半導体やイメージセンサなどオンセミの「約500種の製品が量産車両に搭載されている」と紹介し、売上の年平均成長率11%の主要なファクターとなっている。

 

日本市場については「新たなる成長分野をサポートすることにコミット」していると述べ、HV(ハイブリッド車)やBEV向けへ最適化製品を提供していく方針を示した。さらにパワーやインテリジェントが要求されるADAS(先進運転支援システム)分野も有力分野とした。

 

グローバルではEV向けに成長が期待されるSiC半導体の製造について欧州でも生産拡張する方針を表明した。従来、同地域は製造空白地だったため。また、こうした事業展開で「中核となるのが世界中のパートナーシップとの連携強化だ」と話す。

 

エルコーリー社長と柴田執行役員らとの質疑応答の要旨は次のとおり

 

――次世代アイサイトの特徴は。
柴田「次世代アイサイトは基本的に、ダイナミックレンジを広げることを目指している。そこでオンセミのセンサはベストに近いダイナミックレンジをもっており、それを我々のステレオカメラに特化した形で採用するのが第一。さらに二つ、三つの特色も加わりますが、ここでは見解を控えさせてください」
「それと我々はカメラを使って全画面を高精度に立体化する数少ないメーカーであり、こうした取り組みを行っているメーカーは知っている限り我々と米テスラぐらい。このため、センサーメーカーにもこうした精度を出してほしいと求めており、それが継続しているということです」

 

――次世代アイサイトが目指しているものは。
柴田「真っ先に取り組むものは、死亡交通事故ゼロに向けて、新しく衝突回避できる項目の実現です。そのために新たなセンシングやAIの商品化を進めて、我々が目指すプラットフォームを作ることが第一のテーマです。こうした取り組みのうえで、知能機能を向上し、ユーザーに便利と感じてもらえるシステムを目指しています。こうした機能の向上は今後、順次、発表する予定です」

 

 

――次世代アイサイトに対するオンセミの約割は。
エルコーリー「我々の製品を使ってスバルが最高の性能を引き出してくれるとともに、我々がドライバーとなった時に、望んでいるソリューションを導き出してくれる、最高にウイン・ウインの関係であります。だからこそ、何世代に渡ってアイサイトに関わる連携が続いていると思っています」

 

――オンセミとAIに関する協業は初めてですか。また、AIを使うことにより動きの予知なども認識できるのでしょうか。
柴田「AI推論と使ったアイサイトでオンセミと協業するのは初めてです。発表文には掲載していないですが、そうした物体認識もAI技術を使って開発しています。AIを使うことにより、今までより走行機能がより正確に認識できるようになっています。このように様々な目的にAIを活用しています」

 

――次期アイサイトの投入時期について、発表文では202年代後半とありますが、もう少し詳しく話してもらえるのでしょうか。
柴田「すでに発表済みの自前で開発している新しいBEVに、統合ECUとともに搭載する予定です」

 

――死亡交通事故ゼロに向けて、アイサイトと完全自動運転の役割をどう考えているのでしょうか。
柴田「自動運転技術の開発も我々は並行して進めています。しかし、自動運転というのは部品構成が複雑で、かつコストも高い。一方で、事故を減らすには時代にあわせた技術を順次、使っていくことであり、加えてコストを抑えていく必要があります。それを全車に搭載していくのは我々の義務だと思っています。最新の技術を使って、事故の減少に役立てること。おそらく、その先に自動運転があると思いますが、その機能が全員に行き渡るかはまだ確証が得られていません。もちろん要素技術はいろんなところにつながります。アイサイトは一部の高級車でなく、全車種への展開を目指します」

 

――他メーカーのイメージセンサの採用も検討されたのでしょうか。
柴田「もちろん、この10年間、いろんなところのお話をお聞きしましたが、オンセミの提案がずば抜けていたこと、製品に関しても同様で、決め打ちではありません。その都度、魅力的な提案をいただき、それが協業という形で続いているということです。AMDとの協業も同様です」

 

――SiCパワー半導体市場の見通しは。EV市場に減速感が出ており、どのようなきっかけがあれば成長できると思いますか。
エルコーリー「当初、EVの成長とともに、SiCの伸びを期待していたが、フラットな伸びにとどまっています。しかしながら、二つのトレンドで成長は続くでしょう。一つは、EVの台数そのものが増えるでしょう。全体のクルマの生産台数の中で、EVの比率が高まるとともに、EV1台の中で使われるSiCの割合も増えるでしょう。より高速の充電器が出てくれば、SiCの比率はさらに高まります」

 

――米次期大統領選挙でトランプ氏が当選しました。実際に就任しますと、環境政策や関税などの見直しが行われる可能性がありますが、オンセミの事業への影響は。
エルコーリー「明確に申しますが、我々が掲げるネットゼロへの取り組みへのコミットメントは政治的な背景を意識したものではなく、正しい政策として取り組んでいるものです。また、我々はグローバルカンパニーであり、多くの国で事業を展開し、工場を持っています。このため、それぞれの地域や国において責任ある行動をしなければならず、プロダクトの効率化、EVにみられるようにCO2(二酸化炭素)排出量削減への取り組みを提供していくことが重要だと思っています」

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。