物質・材料研究機構(NIMS)、理化学研究所(RIKEN)を中心とする研究チームは、2月14日、石油採掘用のパイプラインなどで鉄の腐食を進行させる細菌が、鉄から電子を直接引き抜く酵素群を持っていることを明らかにした。
現在、腐食対策には、抗生物質を使った網羅的な殺菌が行われているが、この発見で今後、発見された酵素を標的とする薬剤を開発するなど、効率的で環境負荷の少ない防食方法への展開が期待できるとしている。
従来、腐食の原因は、鉄が硫酸還元菌のつくる硫化水素に電子を奪われ、硫化鉄になるためと考えられていた。
しかし、硫化鉄が鉄表面を覆って、鉄が硫化水素と触れなくなった後も腐食が進行する理由が謎だった。
そんな中、電気を通す硫化鉄の性質を利用して、鉄から電子を引き抜く硫酸還元菌の存在が報告され、鉄腐食が進行する原因として注目されていた。
しかし、電子を引き抜くために必要な膜酵素は同定されておらず、詳細なメカニズムは不明だったと云う。
今回、研究チームは、鉄を電子源として増殖する硫酸還元菌の細胞膜を詳細に分析、これまで知られていた電子を引き抜く膜酵素とはアミノ酸配列が大きく異なる酵素群を発見(上図※) 。
この酵素が多く発現しているときのみ、電極から電子が引き抜かれていることを確認した。
研究チームは、この結果について、鉄腐食を加速させる細菌が、鉄から電子を直接引き抜いていることを示す直接的な証拠だとしている。
さらに、新たに発見された酵素群について、細菌のたんぱく質データベースで照会、深海堆積物に棲息する細菌にも広く見られることを明らかにした。
今後、研究チームは、今回特定した膜酵素を標的とする薬剤設計など、鉄腐食菌を選択的かつ効率的に殺菌できるより環境負荷の少ない安価な防食技術の開発を目指すとしている。
また、この結果は、生態系に謎が多い深海堆積物に棲息する細菌が、広く無機物から電子を直接引き抜いて生きている可能性を示す初めての成果でもあり、これら未知の細菌の培養や応用への展開も期待できるとコメントしている。
この研究は、物質・材料研究機構 環境・エネルギー材料研究拠点の岡本章玄主任研究員、東京大学工学系研究科のDeng Xiao JSPS特別研究員、元同所属の橋本和仁教授 (現NIMS理事長) 、理化学研究所 環境資源科学研究センターの堂前直ユニットリーダーらによって、JSPS科研費 特別推進研究 (24000010)、若手研究A (17H04969)等の一環として行われた。
なお、研究成果は、Science Advances誌にて現地時間2018年2月16日午後2時 (日本時間17日午前4時) に掲載された。
※図 : 電子源欠乏条件における外膜シトクロム酵素の分布を示す透過型電子顕微鏡像。細胞の表面や細胞膜の延長であるナノワイヤー上に局在する外膜シトクロム酵素が染色されている。
[掲載論文]
題目 : Multiheme Cytochromes Provide a Pathway for Survival in Energy-limited Environments
著者 : Xiao Deng、堂前直、Kenneth Nealson、橋本和仁、岡本章玄
雑誌 : Science Advances
掲載日時 : 現地時間2018年2月16日午後2時 (日本時間17日午前4時)