三菱重工業(以下「三菱重工」)は8月25日、豪州現地法人であるMHI豪州(MHI Australia, Pty. Ltd.)および三菱重工グループのプライメタルズテクノロジーズ(Primetals Technologies, Limited.)を通じ、豪州の共同研究センターHILT-CRC (Heavy Industry Low-Carbon Transition Cooperative Research Centre)にパートナーとして参画すると発表した。
非営利団体であるHILT-CRCは、豪州の重工業部門を脱炭素化する技術と手法を開発し、同国の鉱物資源とクリーンエネルギー資源を活用することで、認定低炭素製品の輸出市場が成長する機会をつかむことを目指している。プロジェクトへの資金提供は、参画するパートナー企業・組織による現金・現物提供1億7,500万豪ドル、豪州連邦政府による補助金が3,900万豪ドルに上る。両社は今後10年にわたり、鉄鋼生産に関する長年の知見およびリソースを提供するとともに、プライメタルズテクノロジーズが欧州で試験運用中のHYFOR (Hydrogen-based Fine Ore Reduction:水素ベースの粉鉱石還元) 技術をはじめとした、水素による鉄鉱石の直接還元技術に関する研究開発に注力する。
製鉄セクターが世界における温室効果ガス排出量の7~10%を占めている中で、世界最大の鉄鉱石鉱床を有し鉄鉱石の主要輸出国である豪州は、加速が必要な産業の脱炭素化において重要な役割を担っている。製鉄産業が脱炭素化する上で、従来の石炭およびコークスベースの製鉄プロセスから水素ベースの製造方法への転換は不可欠。こうした技術を大規模に導入することで、同国は低炭素で直接還元された鉄鋼の主要輸出国となる可能性を秘めている。これにより、パリ協定で定められた温室効果ガス削減へ向けた豪州の長期目標の履行が促進されるとともに、低炭素型の鉄鋼サプライチェーン強化により、世界の鉄鋼業界による2050年カーボンニュートラルの達成に貢献する。
MHI豪州は、三菱重工グループの先進技術や豪州政府や大学との協力を通じて、エネルギーや脱炭素の観点を中心に、豪州の持続可能な開発の取り組みに深く携わっている。例えば、豪州・ニューサウスウェールズ州政府と西シドニー地域の総合開発計画におけるエネルギーマネジメント提案などで提携。また、2023年前半に運転開始を見込んでいる、Hydrogen Utility(H2U)社による南オーストラリア州でのグリーン水素・アンモニア事業の検討に参画している。
プライメタルズテクノロジーズは、鉄鉱石の選鉱、ペレタイジング、焼結、鉄鉱石還元などの幅広い技術を提供している。同社は、現在の主流であり水素100%での運転が可能な天然ガスベースの鉄鉱石直接還元技術「MIDREX DRI」プラントの配備に全世界の1/3で関わっている。水素を原料とした同社の鉱石還元技術であるHYFORは、1990年代後半にプライメタルズテクノロジーズの前身会社VAIにより開発され、BHP Port Hedlandが豪州で最初に導入した、FINMETプロセスに関する広範な経験に基づいている。
今回のHILT-CRCパートナー参画に際し、MHI豪州 社長である中林 茂は次のように述べている。「二酸化炭素排出量のかなりの割合を占める産業セクターの脱炭素化は喫緊の課題です。当社グループは、先進技術を通して、鉄鉱資源や製鉄が重要な産業である豪州の二酸化炭素排出量の削減を支援していきます。当社グループは、2025年までの水素およびアンモニアの100%専焼ガスタービンの実現に向け着実に取り組んでいます。今回のHILT-CRCパートナーへの参画により、プライメタルズテクノロジーズのHYFOR技術をはじめとした革新的な低炭素ソリューションを通して、さらに豪州の重工業セクターの脱炭素化を支えていく所存です」。
また、プライメタルズテクノロジーズのUpstream技術担当 兼 EcoビジネスヘッドであるAlexander Fleischanderlは「豪州は鉄鉱石の埋蔵量が多く、グリーンエネルギーの大きな可能性を秘めており、活発な学術・ビジネス環境を有しています。これにより、同国はクリーンな金属材料の供給国として、ネットゼロ2050を追求するユニークな立場に立つことになります。HILT-CRCは、エネルギー、水素、鉱業、セメント産業の幅広いパートナーとともに、イノベーションのための素晴らしいエコシステムを形成するでしょう」と述べている。
MHI豪州およびプライメタルズテクノロジーズは、HILT-CRCパートナーへの参画を通じ、豪州における製鉄セクターの脱炭素化を支援していくとともに、三菱重工グループが掲げるエナジートランジション(低環境負荷エネルギーへの転換)の実現に取り組むとしている。