「埋もれた界面」を観測する新技術で、複合材料の高機能化に貢献
京都大学は5月17日、シリカがタイヤを高性能化する秘密を中性子と水素のスピンで解明した。一般的に様々な生成製品に使われる複合材料を組み合わせる際は、異種材料間でのナノレベルの結合が重要だ。例えば自動車用のタイヤでは、ゴム材料の性能を高めるためにシリカナノ粒子を添加されている。
というのは、このような有機・無機複合材料では有機・無機相界面に於ける両者の結びつきが力学特性に大きな影響を及ぼすからだ。従って自動車タイヤの製品化では、ゴム材料とシリカナノ粒子の結合を強くするためにカップリング剤としてシランカップリング剤(図1)が添加される。
図 1 シランカップリング剤の模式図
但し、このカップリング剤がゴム材料とシリカナノ粒子の異種材料間でどのように機能しているかを真に詳しく知るためには、異種材料の界面をよく観測する必要がある。しかし、電子顕微鏡やX線、中性子線を使用した従来の手法では、ゴムとシリカの界面でカップリング剤がどのように機能しているかを調べることはできなかった。
そこで、竹中幹人 化学研究所教授、熊田高之 日本原子力研究開発機構研究主幹、西辻祥太郎 山形大学准教授、阿久津和宏 総合科学研究機構副主任技師、鳥飼直也 三重大学教授。そして横浜ゴム株式会社理事の網野直也氏ら6名の共同研究グループは、開発したばかりの「スピンコントラスト変調中性子反射率法」を用いてこの機能の仕組みを分析した。
今回用いたスピンコントラスト変調中性子反射率法は、この性質を利用した多層膜試料の構造解析法となる。この構造解析は、(図 2)が示すように、水素核スピンの方向を揃えた薄膜試料に対して、スピンが平行もしくは反平行に揃えられた中性子を入射すると、各反射面における反射振幅は独立に変化する。
図 2 従来の中性子反射率法とスピンコントラスト変調中性子反射率法の比較
複数のスピン状態に於ける反射率データからそれぞれの反射面の反射振幅を決定し、その面の構造や各層の構造および組成を決定することができる。研究チームは、J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)の偏極中性子反射率計 (SHARAKU/BL17)に合わせて開発した水素核偏極装置を組み込むことで同実験を実現した。
同手法により、ゴム材料とシリカナノ粒子の界面にカップリング剤が単分子層を形成していることを観測できました。またカップリング剤層の構造や組成から、カップリング剤とゴム材料との相互浸透がゴムとシリカの結合の要となることを明らかにした。
図 3 ポリブタジエン/シランカップリング剤の同時・順次コート薄膜試料の SEM 画像(左),中性子反射率曲線(中央),測定から決定された薄膜の構造(右)
この6名による研究成果を応用することで、今後は耐摩耗性が大幅に改良されたタイヤが開発されることが期待できるという。また本手法を用いて様々な複合材料に於ける界面状態を決定することで、それぞれの分野の材料開発に貢献していくことにも貢献していきたい構えだ。
なお同研究成果は、2024年5月16日に、国際学術誌「The Journal of Physical Chemistry C」にオンライン掲載された。上記の詳しい研究内容については以下PDFリンクの通り。
シリカがタイヤを高性能化する秘密を中性子と水素のスピンで解明―「埋もれた界面」を観測する新技術で、複合材料の高機能化に貢献―