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2024年6月5日【IoT】

京セラのコージライトミラー、宇宙との光通信装置に採用

坂上 賢治

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京セラは6月5日、自社のコージライト製ミラーの「ファインコージライトミラー」が、国際宇宙ステーション( ISS )と可搬型光地上局間の光通信を行うための小型光通信実験装置に世界環境下で初採用された( 2024年、自社調べ )と発表した。

 

 

採用事案は、ソニーコンピュータサイエンス研究所( ソニーCSL )によって開発された光通信アンテナ( QSOL/Quantum-Small Optical Link )が対象。

 

このQSOLは、総務省からの委託を受け、国立研究開発法人情報通信研究機構( NICT )および、国立大学法人東京大学大学院工学系研究科、次世代宇宙システム技術研究組合、スカパーJSAT、ソニーCSLが共同で行った軌道上技術実証のために開発された、低軌道高秘匿光通信装置「SeCRETS( SeCuRe lasEr communicaTionS terminal for LEO )」の光通信アンテナ部分となる。

 

採用の蛾となったのは、ISSからの光通信によるデータを特定の地上局へ送信する際に、光を最適な角度に調整する部品として適していたため。そもそも宇宙空間から地上間での光通信は、大容量化したデータの高速通信を実現する技術として期待されているものの、その通信を実現する部品は、真空環境など過酷な環境下でも耐えうる高精度なものが求められる。

 

そうしたなかで以下要件に適うものとして同社のコージライトミラーが選ばれた

  • ・過酷な環境下でも温度変化による変形を最小限に抑える低熱膨張性
  • ・高機械強度、高剛性
  • ・優れた長期寸法安定性
  • ・耐放射線性

 

実験の詳細並びに概念図   ※SeCRETSは総務省「ICT重点技術の研究開発プロジェクト(JPMI00316)」の内「衛星通信に於ける量子暗号技術の研究開発(JPJ007462)」の一環で開発。

 

より具体的には現在、宇宙空間にある地球観測衛星と地上局との双方向のデータ通信には、電波や可視光を使った無線通信が使用されており、取得した画像データを用いて気象予報、災害対策やインフラの監視などを行っている。

 

そうした環境下で地球観測衛星に搭載されるセンサの高性能化が進み、取得できる観測データの増加や、取得した大量の観測データを迅速に地上局に送信することが求められるようになり、データ通信の高速化・大容量化は宇宙インフラに於いて課題となっていた。

 

それを解決する手段として、電波通信と比較し、100倍以上の速度で大容量のデータ送受信を実現できるレーザー光による光通信の実用化が期待されている。

 

ただ衛星からの光通信によるデータを特定の地上局に送信するには、光を最適な角度に調整する必要があり、その調整の一部には光学ミラーが使用されている。近年では、それに金属やガラスの光学ミラーが使用されているのだが、光の調整にはナノレベルでの精度が必要となるため、(1)宇宙という過酷な環境下でも温度変化による変形を最小限に抑える低熱膨張性を持つこと、(2)長期に亘り安定した寸法精度を有することなどがあり、を生かした光学ミラーが求められている。

 

そこで今回、京セラのファインコージライトミラーが持つ低熱膨張性と長期寸法安定性などの特長が認められQSOLへの採用に至った。

 

実験に於いて、SeCRETSは2023年8月2日にISSへ向けて打ち上げられ、「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォーム( 中型曝露実験アダプター / i-SEEP )に設置された。

 

その後、低軌道上のISSから地上の可搬型光地上局への10GHzクロックの光通信により秘密鍵共有を実施し、更にその鍵を用いたワンタイムパッド暗号によりISSと地上局とでの情報理論的に安全な通信の実証に成功した( ISSと地上間での秘密鍵共有と高秘匿通信に成功 “衛星量子暗号通信の実用化に期待” )。


今実証の構成図(国立研究開発法人情報通信研究機構、スカパーJSAT提供)

 


京セラのファインコージライトミラーが搭載されたQSOLを含む低軌道高秘匿光通信装置(SeCRETS/国立研究開発法人情報通信研究機構、ソニーコンピュータサイエンス研究所、次世代宇宙システム技術研究組合提供)

 

今回の実験の成功により、今後、衛星光通信にお於けるデータ通信の高速・大容量化を目指した宇宙インフラ構築に、同社製品が貢献できると京セラでは考えているという。

 

京セラのファインコージライトミラーの特長は以下の通り

同社のファインコージライトミラーは創業から培ったファインセラミックスの材料・焼成技術により、下記4点の優れた特長を有し、宇宙環境下でも安定した光通信を実現する。

 

  • (1)低熱膨張性
    温度変化による膨張や寸法変化が極めて小さく、ナノレベルの精度が求められる光学ミラーなどへの適用が可能。

 

  • (2)長期寸法安定性
    低熱膨張のガラスと比較して、コージライトは優れた寸法安定性の特性を有しており、長期間にわたり寸法変化を気にすることなく使用できる。

 

  • (3)高機械強度、高剛性
    低熱膨張のガラスと比較すると1.5倍~2倍の機械強度があり、剛性が高く、軽量化への対応が可能になる。

 

  • (4)耐放射線性
    放射線を照射した試験にて、コージライトの線膨張係数(CTE)が変化しないことが確認できており、宇宙向けのアプリケーションとして最適な材料と期待されている。

 

「SPIE Astronomical Telescopes + Instrumentations 2024」への出展
なお同社のファインコージライトミラーは、2024年6月18日(火)~20日(木)にパシフィコ横浜(横浜市)で開催される「SPIE Astronomical Telescopes + Instrumentations 2024 」で展示される。(ブースNo.314)

 

京セラのファインコージライトミラーの更なる詳細は以下URLを参照

https://www.kyocera.co.jp/prdct/fc/industries/products/011.html 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。