鹿島は、「鹿島スマート生産ビジョン」の実現に向け実証を進める(仮称)鹿島伏見ビル新築工事で、柱の全周溶接と梁の上向溶接に、汎用可搬型溶接ロボットを本格的に適用した。
グループ会社の鹿島クレスが、溶接ロボット10台と直傭オペレータ8名により、柱10箇所、梁585箇所の溶接作業を実施した。
[開発の背景]
鉄骨造建物の骨組みとなる柱や梁の接合には、溶接を用いることが一般的。大地震にも耐えうる高い品質を維持するために溶接技能者には高度な技量が求められる一方、将来予想される人手不足と高齢化により、溶接技能者の確保と作業の効率化・省力化は喫緊の課題となっている。
鹿島が策定した「鹿島スマート生産ビジョン」では、「作業の半分はロボットと」をコアコンセプトの一つに位置づけ、繰り返しの作業や人では苦渋を伴う作業、自動化により効率や品質にメリットが得られる作業などを対象に、自動化・ロボット化を推進。
現場溶接の分野では、溶接作業そのものが繰り返し作業であること、形状・肉厚の大きい柱の横向溶接や梁下フランジの上向溶接は人にとって負担の大きい作業であることから、コアコンセプトに基づき、溶接ロボットを用いた作業を目指している。
[新築工事現場におけるロボット溶接作業]
同工事の現場溶接では、柱・柱接合部の全周溶接と、柱・梁仕口部の下フランジ溶接の全箇所を溶接ロボットにより施工。
従来、下フランジの人による溶接は上方からの下向溶接だった梁のウェブなどの支障物があるため、作業に時間が掛かっていたが、今回溶接ロボットを活用することで、人ではほぼ不可能だった下方からの上向溶接で作業が行え、以下様々なメリットがあった。
・ウェブやボルトなどの支障物がなく直線的な溶接が可能となり、またスカラップ(交差部を溶接するためにあえて設ける欠損)も不要となるため、溶接の品質や性能が大幅に向上。
・従来下フランジを上方から溶接するため、邪魔になる上階の床施工を後回しにしていたが、下方からの上向き溶接ではその必要がなく、鉄骨建方工程の短縮が実現。
・溶接工程が、床施工や次節の鉄骨建方といった他の工程に左右されなくなるため、溶接作業量の平準化が図れる。
・下フランジの溶接を下階の床施工後に行うことができるため、従来の吊り足場ではなく高所作業車を用いた作業が可能となるため、作業員の安全性が飛躍的に向上。
[総合的なロボット溶接施工システムの構築]
溶接ロボットを活用した高品質な溶接を実現するためには、柱の全周溶接における四隅(曲線部)の溶接処理や、梁の上向溶接における溶接金属の垂れといった課題の克服とともに、鉄骨製品の製作精度や、許容範囲の建方誤差にも適切に対処する必要があると云う。
こうした課題に対して、鹿島では、技術開発だけでなく、溶接ロボットのオペレータの育成・訓練も含めた、トータルな施工システムを構築することで対応。また、今回の現場本格適用に際しては、溶接ロボットによる作業を含む全ての溶接作業を鹿島クレスが担当した。
鹿島クレスでは2016年4月に溶接事業部を発足、溶接ロボット運用の要となるオペレータの訓練と育成を進めている。
[今後の展開]
今後、溶接技能者の確保が難しくなることが予想される中、鹿島グループの連携によって確実な人材の確保と、溶接ロボット技術や施工ノウハウの共有による高品質な溶接を可能とし、また、得られた知見の蓄積により、さらなる技術の進化へとつなげる。
鹿島は、これからも鹿島グループで、建築生産プロセスの変革を目指す「鹿島スマート生産ビジョン」の実現に向け、鉄骨溶接ロボットの展開を積極的に推進していくとしている。