ジェイテクトは6月1日、同社の研究開発本部材料研究部所属の髙原加奈子氏が、摩擦や潤滑分野の学会である一般社団法人日本トライボロジー学会から「奨励賞」を授与されたことを発表した。
これは、従来では両立が難しかった耐白層はく離性と防錆性を兼ね備えたグリースの開発が評価されたもので、これらの成果は軸受の寿命向上に貢献します。
ちなみに上記に係る〝白層はく離〟は、転がり軸受で予測寿命より極めて短い期間での破損を引き起こす金属の白色組織変化を伴うはく離現象のことを指す。
より具体的には、水素中で金属が摩擦することで金属表面に形成される反応膜(添加剤由来)のはく離や、表面の摩耗により新生面が露出した際、水素が鋼中に侵入して白層が形成されることを示している。
また日本トライボロジー学会奨励賞の〝トライボロジー〟とは、潤滑・摩擦・摩耗・焼付きや軸受設計などの「相対運動をしながら互いに影響を及ぼしあう2つの表面の間に起こる全ての現象を対象とした科学と技術」分野を指す。
日本トライボロジー学会は、機械メーカーや大学の研究者らを会員に構成された学会で、「奨励賞」は、優れた研究成果をあげた若手会員(36歳未満)を称える賞となっている。
今回、受賞者となったジェイテクト社員
氏名:髙原 加奈子(たかはら かなこ)
入社年:2013年
出身地:岡山県岡山市
所属部署:研究開発本部材料研究部
受賞理由は以下の通り
2015年から継続的に実施してきた「グリース技術による玉軸受の耐白層はく離性向上に関する研究」が評価された。白層はく離は、「極圧剤」による金属表面への反応膜の形成により抑制されることが知られている。
一方で、同時に表面への吸着性の高い防錆剤を用いた場合、その効果が低減することが以前から知られていた。また従来当社で採用していた極圧剤は、優れた白層はく離抑制効果を有する材料だったが、環境負荷への懸念があった。
今回の研究では、環境負荷懸念の低い極圧剤をベースとし、異なる分子構造の組合せを最適化することにより、防錆剤の共存下でも極圧剤による表面反応膜の形成が阻害されることのないグリース設計に成功した。
この技術を活用しジェイテクトが開発したグリースは、環境負荷懸念物質を用いることなく、従来では困難とされていた「耐白層はく離性」と「防錆性」との両立で高い性能を有しているという。
受賞者のコメントは以下の通り
耐白層はく離性と高い防錆性とを同時にグリース技術で担保することは想像していた以上に難しく、分析や解析によるメカニズム解明を通じて相反する特性の両立に成功しました。
本研究に関してご指導頂きました社内外の関係者の皆様に感謝申し上げます。取組みの中で得られた知見をより拡げていき、お客様に喜ばれる技術の研究開発に取り組んでいきます。
髙原氏が同受賞を受けてジェイテクトでは、「今回の研究成果を活用して開発したグリースは、特に水素の影響を受ける環境で力を発揮するため、FCEV(燃料電池自動車)の関連部品などに於いて高い効果を発揮することが見込まれます。
これからもジェイテクトでは、材料の知見を深め、その成果をより良い商品づくりに結び付けてまいります。
また軸受分野に留まらず、多様な産業領域でNo.1&Only Oneの技術と製品を生み出し続け、〝地球のため、世の中のため、お客様のため〟に貢献し、社会課題の解決を進めていきます」と話している。