「BRAIN-AI」を鋭意研究する科学技術振興機構( JST )と大阪大学は12月8日、〝脳とAIが融合する未来〟に向けて、市民と研究者の双方を対象に意識調査を実施した。この結果、脳神経科学研究に対する社会からの期待と関心が明らかになったという。
上記「BRAIN-AI」とは、人工知能( AI )研究と脳経科学研究の研究の初期段階から脳神経科学者と人文・社会科学者が連携して、ELSI( Ethical、Legal and Social Issues ) / RRI( Responsible Research and Innovation )に関わる論点抽出と総合知を創出する取り組み を指している。
これは、JST ERATO「池谷脳AI融合プロジェクト( BRAIN-AI Hybrid )」と、JST 社会技術研究開発センター( RISTEX )、「人と情報のエコシステム」研究開発領域( HITE )が連携して実施する、脳とAIが融合する未来を、科学と人文知の双方から考察する越境型の連携活動だ。
近年、著しく進展する人工知能研究と脳神経科学研究を融合したこの「BRAIN-AI」に係る取り組みは、これまで制限されていた脳活動の限界を突破し、人間の能力の拡張をもたらす可能性を秘めている。
一方で、人間の脳の中という究極のプライバシー情報の取り扱いや、人間の能力増強に繫がるテクノロジーが将来もたらし得る格差拡大の可能性。
また人間の脳とコンピューターを繋げる「Brain-Computer Interface( BCI )」事によってなされた決定は、〝一体誰の意思によるものなのか〟、というアイデンティティーを巡る哲学的課題など、BRAIN-AIの取り組みには検討しなければならない複合的な課題が数多く残されている。
こうした状況を踏まえ、BRAIN-AI×HITE連携活動では、BRAIN-AIの研究に取り組む研究者と、HITE領域からELSIや哲学を専門とする研究者とのコラボレーションを進めている。
それは研究の初期段階から、その技術が人間や社会に与える影響を人文・社会科学の深い知見に基づいて考察する事により、BRAIN-AIの研究が人間にとって真の幸福(ウェルビーイング)をもたらし得るものとなる未来を目指すとしている。
そこで今回、同活動の一環として、一般市民と脳神経科学分野の研究者を対象に、脳科学や脳情報に対する意識調査を実施した。
この意識調査により、一般市民の中では脳神経科学について「あまり知らない/知らない」状況であるものの、脳神経科学研究への期待感と幅広い関心(技術の活用の可能性や、個人情報保護などのデータガバナンスなどについて)が存在する事が判明した。
一方で、脳を巡るELSI/RRIの検討の必要性については、脳神経科学分野の研究者の関心が先行している可能性が見い出された。
このような結果を受けて、今後は、市民参加型の論点抽出ワークショップなどを開催して、脳神経科学研究への一般市民の期待をより具体的に把握すると共に、社会の期待や懸念を踏まえた脳神経科学研究と社会との適切なコミュニケーションの在り方を探索していく構えだ。
<上記の活動内容を紹介する冊子および動画>
冊 子:https://www.jst.go.jp/ristex/hite/topics/img/hite_erato_2022.pdf
動 画:https://youtu.be/ra9zu1rbWjM
更に「BRAIN-AI×HITE」連携活動の詳細は以下のHPを参照されたい。
URL:https://www.jst.go.jp/erato/ikegaya/elsi.html
なお同成果は、以下の事業・研究領域間の連携活動によって得られた。
社会技術研究開発事業 研究開発領域:「人と情報のエコシステム」(HITE)
・領域総括:國領 二郎(慶應義塾大学 総合政策学部 教授)
・領域設置期間:2016年4月~2024年3月
戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO) 研究領域:「池谷脳AI融合プロジェクト」
・研究総括:池谷 裕二(東京大学 大学院薬学研究科 教授)
・研究期間:2018年10月~2024年3月