米国半導体企業のマーベルテクノロジーと、その日本法人であるマーベルジャパンは12月12日、都内で事業戦略説明会を開催した。マーベルは企業向けネットワーク、データセンター、携帯電話基地局、車載向けの半導体の4つに力を入れている。特に日本では車載が有望と見ており、日本が遅れているゾーンアーキテクチャーで攻勢をかけ、同社の車載イーサネット製品の拡大を目指す。(経済ジャーナリスト・山田清志)
4つのマーケットにフォーカスして製品を提供
マーベルテクノロジーは1995年にカリフォルニア大学バークレー校で出会った中国系インドネシア人移民の夫婦によって設立されたファブレス半導体企業だ。特に1つのチップでさまざまなシステムを実現する半導体製品、SoC技術に強く、多岐にわたる製品ラインナップを持つ。2022年の売上高は59億ドル(約8600億円)で、6800人以上の従業員を抱えている。
「マーベルは非常にエンジニアリングに力を入れている会社で、6800人以上いる従業員のうち、ほとんどがエンジニアだ。特許保持数は1万件を超え、世界を代表するテクノリジー会社と言っていいだろう。われわれは世界中のデータを誰よりも速く、また最高の信頼性に基づいて転送、蓄積、処理、保護するための半導体製品を開発し提供している。そして、その半導体を企業向けネットワーク、データセンター、携帯電話基地局、車載の4つのマーケットにフォーカスし、業界をリードするインフラストラクチャー向け製品群を有している」とマーベルテクノロジーシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのウイル・チュウ氏は説明する。
マーベルテクノロジーシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのウイル・チュウ氏
その製品群は、ストレージ製品ではHDD、SSD、ファイバーチャネルコントローラー、ネットワーキング製品ではイーサネットスイッチ、PHYs、電子工学製品ではPAM4、DSPs、リニアTIAs、ドライバー、コヒーレントDSPs、車載イーサネットではスイッチ、マルチギガビットPHYs、ブリッジ、プロセッサ製品では4G/5Gベースバンド、DPUs、セキュリティ製品ではクラウド向けプロセッサやハードウェアセキュリティモジュールといった具合だ。
チュウ氏によると、チャットGPTに代表される生成AIの登場によって、GPUが大きく伸び、10年後には今の1000倍の規模になるという。「生成AIをベースにしたデータセンターでは、インフラストラクチャーが根本的に違い、マーベルにとっては巨大なチャンスである」とチュウ氏は話し、こう付け加える。
「生成AIをサポートするようなデータセンターは、1プラットフォームあたり数千という単位のカスタムAIアクセラレータをはじめ、数万というオプティカルDSP、数十万というストレージデバイス、数百というスイッチ、数千というCXLメモリエキスパンダーが必要で、そのすべてでマーベルが技術的なリーダーとなっているからだ」
車載インフラのキーとなるのはイーサネット
そのようなマーベルが日本で力を入れようとしているのが車載関連で、一番期待できるセグメントとのことだ。マーベルジャパン カントリーマネージャー兼セールス副社長のマイク・バドリック氏によると、自動車業界は100年に一度という大変革期を迎え、自動運転、コネクティッドカー、ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)によって大きく変わり、そのキーとなるインフラがイーサネットだという。
マーベルジャパン カントリーマネージャー兼セールス副社長のマイク・バドリック氏
そして、もう一つがゾーンアーキテクチャーで、この分野については欧米の自動車メーカーが進んでいて、日本の自動車メーカーが遅れている。それは考え方の違いもあって、日本の自動車メーカーはドメインアーキテクチャーが中心になっているからだ。ただ、ドメインアーキテクチャーはゾーンアーキテクチャーに比べて、非常に分散されていて複雑なネットワークになっているので、ワイヤーハーネスも非常に複雑となり、重く、コストも高くなってしまうのだ。
そのため、欧米の自動車メーカーはよりスケーラブルなイーサネットを中心に構成されたゾーンアーキテクチャーへ急速に移行している。この移行によって、自動車メーカーは、セーフティシステムの高度化、インフォテイメントシステムの強化、燃費の向上、よりよい運転体験のためのソフトウェア・ディファインド・サービスの導入など、自動車の車載コンピューティング能力を飛躍的に向上させることが可能になるそうだ。
「ゾーンアーキテクチャーを採用する欧米の自動車メーカーの割合は、2025年に約40%、29年には約86%にまで増える。日本の自動車メーカーも、そのトレンドに従って増えていくと見ている。マーベルはその車載イーサネットで世界一を誇り、これまでに1億5000万個以上のイーサネット製品を出荷している」とバトリック氏は説明し、現在、45以上の自動車メーカーがマーベルの製品を採用し、4000万台以上のクルマにマーバルのイーサネット製品が搭載されているという。
日本の自動車メーカー5社が採用
ちなみに世界一のシェアを誇る車載製品は、セキュアスイッチ、ギガビットイーサネットPHY、10ギガビットイーサネットPHY、イーサネットカメラブリッジ、最高帯域幅(90G)セントラルスイッチとなっている。日本の自動車メーカーも5社がマーベルの製品を採用する決定をしたそうだ。
マーベルでは、将来的にゾーンアーキテクチャーに基づく自動車は3つから最大6つのゾーンを持つと見ている。ゾーンスイッチとセントラルスイッチを組み合わせて使用することで、自動車メーカーはネットワーク・パフォーマンスを最適化し、新しい機能やサービスを追加し、帯域幅需要の増大に対応するための基盤を得ることができるようになる。また、イーサネットベースのゾーンアーキテクチャーは、必要なネットワーク・ケーブルのようを減らし、重量と製造の複雑さを軽減できるという。
ゾーンアーキテクチャーが遅れている日本では、それだけマーベル製品が拡大する余地があり、バトリック氏が期待するのも頷ける。現在、日本では東京本社、大阪支社、平塚研究所の3拠点があり、80人の従業員が働き、うち75%がエンジニアだ。マーベルは、次世代のソフトウェア・ディファインド・ビークルを開発する最も要求の厳しい顧客のニーズに応えるため、業界初となる車載イーサネット製品を今後も提供し続けていく方針だ。