独・コンチネンタルは3月23日、サーバーベースの車両アーキテクチャー開発で半導体メーカーのインフィネオン・テクノロジーズ社( Infineon Technologies AG )と協業すると発表した。( 坂上 賢治 )
この協業により、車体に100個以上のコントロールユニットを個別搭載せず、数個の高性能コンピューター( HPC )を備えたゾーンコントロールユニット( ZCU )の実現を目指す。
今回コンチネンタルが本格採用を目指しているのは、インフィネオン・テクノロジーズ社のAURIX TC4マイクロコントローラー。同コントローラーの搭載により車載ソフトウェアは常時待機状態が維持出来る。
結果、パーキングアシストや空調、加熱、サスペンションなどの機能が瞬時に利用可能となるのだ。
新アーキテクチャーはソフトウェア・デファインド・ビークル開発の道を開く
この取り組みに関してコンチネンタル・オートモーティブのジル・マビーレCTO( 最高技術責任者 / Gilles Mabire )は「新しいアーキテクチャーソリューションにより、これからの時代要求に合った車両が実現します。
昨今、車両機能の多様化が進む中、コンピューティング能力の高さが求められ、必要されるソフトウェアアプリケーションも益々複雑しています。そうしたなか新しいアーキテクチャーは、ソフトウェア・デファインド・ビークル開発の道を開く事になるでしょう。
特に今回のインフィネオンとの連携は、いち早くソフトウェア・デファインド・ビークルを実現するためには欠かせないステップです。
同プラットフォーム戦略により、既に実績のあるアプリケーションソフトウェアを新しい車両モデルでも使用出来るようになるため、検証作業に掛かる時間を大幅に削減でき、新しい機能実装を生産ラインへ組み込む迄の時間も大幅に短縮出来ます。
基本車載システム刷新で、効率的かつ迅速で安全な利活用が実現する
なかでもAURIXマイクロコントローラーファミリーの第3世代にあたるTC4xは、性能、メモリ、ハウジングに関して、旧世代のAURIX TC2x、AURIX TC3xと同等の拡張性を備えています。
とりわけ特徴的なのはTC4xが、ZCU( ゾーンコントロールユニット )とHPC( 高性能コンピューター )の使用に徹底的に最適化された設計になっている点です。従ってレーダーやシャーシ、セーフティ、パワートレイン / エレクトリフィケーション向けの用途も想定出来ます。
そんな新しいマイクロコントローラーシリーズの核となるのが、インフィネオンのRRAM( 抵抗変化型メモリ )技術です。
この技術は既にチップカード( キャッシュレス決済やセキュア認証など )で活用されていますが、オートモーティブセクターで利用されるのは、これが初めてですが、AURIX TC4xの活用により、基本車載システムの仕様がより効率的かつ安全になります。
AURIX TC4xは次世代のE/Eアーキテクチャーに欠かせない構成要素
より具体的な利点を挙げると、例えば車両の起動と同時にパーキングアシストや空調、加熱、サスペンションなどの機能が瞬時に利用可能になる部分があります。
このAURIX TC4xアーキテクチャーにより、基本的なソフトウェアプログラムが、先の通りほぼ常時待機状態となる他、OTA( オーバー・ジ・エア )によるソフトウェアコンポーネントの無線アップデートの速度とセキュリティ面も大幅に向上します」と語った。
一方で、インフィネオンでオートモーティブ部門責任者を務めるピーター・シーファー( Peter Schiefer )氏は「今回のコンチネンタルとの連携により、RRAM( 抵抗変化型メモリ )技術を自動車に対してより迅速に組み込む事が可能になります。
当社は、オートモーティブ業界のイノベーションの牽引役となっているコンチネンタルのような企業と連携し、モビリティの新時代を築いていきます。
また我々のマイクロコントローラーファミリーに属するAURIX TC4xは、次世代のE/Eアーキテクチャーに欠かせない構成要素であり続けます。それによって未来の次世代車両が持つ効率性、安全性、快適さは大きく進化する事になるでしょう」と話した。
既にVWのEV「ID.3」と「ID.4」向けにHPCの開発・供給へ
そんなコンチネンタルにとって、ソフトウェア・デファインド・ビークル実現に向けた最も大きな足掛かりとなるのが、より強力なZCU( ゾーンコントロールユニット )の採用にあり、既に同社は、フォルクスワーゲンの電気自動車「ID.3」と「ID.4」向けの車載HPC( 高性能コンピューター )を開発・供給した実績を持っている。
同実績について、コンチネンタルでアーキテクチャー&ネットワーキングを担当するジャン=フランソワ・タラビア( Jean-Francois Tarabbia )事業部長は「新しいプラットフォーム環境は、パフォーマンスとインターフェースに関して拡張性があり、モジュール方式になっているため、自動車メーカー毎の車両アーキテクチャーに対して柔軟な設計が出来るようになっています。
また、サードパーティーのハードウェアやソフトウェアも併せて組み込んで、革新的なソリューションを迅速かつ低コストで導入する事も出来ています。
例えば、次世代のE/Eアーキテクチャーでは、ZCUが車両の各箇所に於いて適切に接続されているため、車載の電子・電気機器全てを一括りにバンドル化する事も出来ます。
これにより、ソフトウェアコンポーネントを一気にまとめてバンドル化出来るため、サイバーセキュリティやアップデートのし易さに係る難易度も大きく改善されます。とりわけ特徴的なのが、サイバーセキュリティの基本コンセプトが、ポスト量子暗号プロセスに対応している点です。
ワイヤーハーネスを大幅に簡素化し、軽量化、燃費向上を実現
多くの車載システムの場合は、量子コンピューターによる攻撃を受けると使用中の暗号システムが簡単に突破される恐れなどがありますが、我々のシステムの場合、攻撃への防御が既に強化充足されている状態となります。
車両の各ドメインから送られてくるデータは、各ZCUに集められた後、その上位制御システムであるHPCに送られて処理されます( 安定性の高いイーサネットで接続 )。裏を返せば、ZCUはサーバーレベルからの命令を実行する中継点になっているとも言えます。
AURIX TC4xはこれらの機能により、次世代のソフトウェア・デファインド・ビークルと新しいE/Eアーキテクチャーを実現します。少数の強力なZCUとHPCで構成されるコンチネンタルの新しい車両アーキテクチャーは、ワイヤーハーネスを大幅に簡素化し、軽量化、燃費向上を実現します。
車載電子装置を組織化してタスクを明確に分け、ハードウェアとソフトウェアも分離、更にはインターフェースに必要な標準化を行う事で、車載ソフトウェアの爆発的な増加と複雑化にも対処し易くなるのです」と結んでいる。