ボッシュはドイツ・シュトゥットガルト現地時間の10月8日、クライメートニュートラルな道路輸送の実現に向け、商用車のすべての車両クラスにおいて、内燃機関やバッテリーEV、燃料電池など、さまざまな種類の効率的なパワートレインを開発していくと発表した。
道路輸送における気候変動対策には、幅広い積極的な技術開発が必要となるが、商用車の場合は、CO2排出量が運転特性、積載量、走行距離によって大きく異なるため、パワートレインへの要求はかなり多岐にわたる。たとえば小型商用車は市街地の配達ルートのような短い距離を走行し、大型トラックは、物資や商品を長距離輸送する傾向がある。
■小型商用車向け電動パワートレイン「eシティ・トラック(eCity Truck)」
物資やサービスに対する需要が着実に増加していることを考えると、今日配送車両や小売業者およびその他中小企業が存在しない市街地を想像するのは困難である。そのため、騒音に配慮した走行ができる、住民と環境にできる限り負荷をかけない先進的なパワートレインは社会からの要請といってよい。
ボッシュの電動パワートレインソリューション「eシティ・トラック」は、ゼロローカルエミッション(地域内における排気ガスゼロ)の低騒音走行を実現する。
「eシティ・トラック」には、電気モーター、パワーエレクトロニクス、トランスミッションをコンパクトに一体化したeAxleで構成されるコンパクトモジュールと、トランスミッションを含まない電気駆動モジュールの、2つのバージョンを用意。
いずれのソリューションも簡単に組み込むことができ、重量が最大7.5トンまでの小型商用車に対応する。バッテリーの設計次第で、最大200kmの走行が可能であり、1日あたりの配送ルートの多くが80km未満であることを考慮すると、1回の充電で十分に走行可能と考えられる。
ボッシュのパワートレイン ソリューション事業部長Uwe Gackstatter氏は「ボッシュは、モジュラー式のeシティ・トラックにより、経済的でコンパクト、そして効率的な電動化パワートレインを実現します」と延べている。
■7.5~26トンの地域配送トラックの経済的な電動化「eレギオ・トラック(eRegio Truck)」
ボッシュでは、郊外における商用車の電動化も推進しており、中型トラックと大型トラックに加え、市内バス、長距離バス、その他特殊用途向けに電動パワートレインソリューション「eレギオ・トラック」を提供している。
半径約250km圏内の地域交通を可能な限り経済的かつ効率的にするうえで重要な役割を果たすとともに、低騒音とゼロローカルエミッションも同時に実現。同システムソリューションは、電気モーター、インバーター、および車両制御ユニットで構成されている。
コンパクトな電気モーターは、トポロジーに応じて別体の電気ユニットとしてトランスミッションと組み合わせる、またはアクティブコンポーネントとしてリジッドアクスルに組み込むことも可能だ。
■長距離ルートと重量物運搬向けのパワートレインソリューション「eディスタンス・トラック(eDistance Truck)」
長距離輸送ルートを走る車両は、その長い走行距離と運搬する重量ゆえに、CO2排出量の削減の可能性がとりわけ大きくなってしまう。
ボッシュでは、あらゆるニーズに合わせ、動力源がディーゼル、天然ガス、バッテリー、あるいは燃料電池でも、最適なパワートレインソリューションを提供していく考えだ。現在、内燃機関における水素利用の技術課題を調査中だが、今日使われているエンジン技術と既存の車両アーキテクチャは、すでにこの取り組みを発展させるための確固たる土台となっている。
重量物運搬向けの電動パワートレインソリューション「eディスタンス・トラック」は、燃料電池とハイブリッド駆動を含む。燃料電池システムは、長い走行距離と短い充填時間を兼ね備えるという点で有利。
再生可能エネルギーから生成される水素を使用すれば、燃料電池の運用はクライメートニュートラルとなる。ボッシュは設計の中核となるスタックやサブモジュール内の個々のコンポーネント、または商用車向け総合システムも取り揃えている。
「eディスタンス・トラック」は簡単に既存の車両プラットフォームに組み込むことができるのが特徴。ボッシュは現在、スタートアップ企業であるPowercell社と協働してスタックを開発し、 市場に出す準備中だ。
計画では、まず2022年に燃料電池スタックの大量生産を開始し、2023年には完全な燃料電池システムとなるボッシュの燃料電池パワーモジュールを発売予定だ。すでにボッシュは、EUが出資するH2Haulプロジェクトの一環として、協働により燃料電池トラックの小規模フリートを製造し、公道に送り出している。
【天然ガスパワートレイン向けコンポーネント】
天然ガススタンドのインフラが十分に整備されている地域では、ボッシュの天然ガス駆動システムは、長距離ルート向けの従来の燃料に代わる実現可能な代替案だ。天然ガスは液体燃料と比べてCO2と粒子状物質(PM)の排出量が少なく、現地の燃料価格によっては費用面でも多くの国において利点をもたらす。ボッシュは、さまざまな車両タイプ向けに、実証済みの天然ガス技術の包括的な製品ポートフォリオを揃えている。
【ディーゼル技術】
ディーゼルエンジンは、商用車の主要なパワートレインであり、近い将来においても優先的に選択されるだろう。その利点には、高い効率性とそれに伴う経済的メリット、ならびに強力なエンジン性能が含まれる。ボッシュはディーゼル製品として、燃料噴射と燃料供給、エンジンおよびマネジメント、そして排出ガス後処理用のコンポーネントを取り揃えている。
ボッシュと中国のエンジンメーカーWeichai Power(濰柴動力)は、協働を通じて大型商用車向けディーゼルエンジンの熱効率を最大で50%まで高めることに成功した。
これまでのトラックの最大値が46%であったことを考えると、まさに画期的と言えるだろう。「これは、ボッシュがオンハイウェイ/オフハイウェイ用途のディーゼル駆動システムを体系的に改善していることを実証しています」と、先に登場したGackstatter氏は述べている。
新しいエンジンの特徴のひとつが、最大噴射圧2,500 barのボッシュのモジュラーシステムCRSN(商用車向けコモンレールシステム)。効率的な燃料供給と燃料噴射を確保するこのシステムは、拡張性が高く、最大8気筒までのエンジンに対応できるように設計されており、耐用年数は要件によって、最大160万km、オフハイウェイ用途では15,000時間におよぶ。
加えて、ボッシュのダブルインジェクション付きSCR(選択型還元触媒)システムに用いられる尿素噴射による排出ガス後処理は、ディーゼル車の排出ガスをさらに削減し、より経済的な資源利用に貢献するもの。
このシステムでは、エンジンの近くに配置された触媒コンバーター内、および離れて配置されたもうひとつの触媒コンバーター内に尿素が噴射される。システムは、高負荷/低負荷サイクルやコールド スタートといった走行条件に柔軟に対応し、窒素酸化物(NOx)の排出量を効果的かつ効率的に削減することができる。しかも、低燃費にも配慮して設計されている。
■駆動システムでのモノのインターネット化(IoT)による開発時間短縮とトラブルシューティングの迅速化
ボッシュは、駆動システムをネットワーク化し、車両ライフサイクル全体を通じてクラウドベースのサービスを提供する。IoTアプリケーションの一例として、大規模開発におけるインターネットベースの検証が挙げられる。
このプロセスにより、コネクテッドカーからパワートレインのデータが転送される。リモート解析により、異なるアプリケーションを同時にモニターして評価することが可能となり、駆動システム内の欠陥を早期に検出することができる。量産車向けの追加IoTアプリケーションは、特別に開発されたアルゴリズムを用いて各コンポーネントの差し迫った障害を取り除くことができ、ダウンタイムを効果的に防止する。
■ボッシュ:corporate.bosch.co.jp