東京大学・大学院工学系研究科の小菅敦丈講師、澄川玲維大学院生、濱田基嗣特任教授、黒田忠広教授らによる研究グループは、JST 戦略的創造研究推進事業の助成のもと、35種の音声コマンド認識AIを題材に既存のAIプロセッサーと比較し、3桁以上低電力化できる新方式の布線論理型AIプロセッサーを開発した。
音声コマンド認識AIは新たなマシンインターフェースとして急速に発展している。一方で、認識可能なコマンド数が増えAIモデルが複雑化するほど、消費電力が急増するという課題があった。
これは、深層ニューラルネットワークの処理量が飛躍的に増えてしまうため。識別可能なコマンド数が4種程度であれば0.1ミリワット未満での推論が可能な一方、コマンド数が35種にもなると390ミリワット程度の電力が必要となっていた。
そこで同研究では低電力化のため、人の大脳をまねた布線論理型の新規AIプロセッサーを開発した。
省ニューロン省シナプスなアルゴリズム技術と、省面積回路実装技術を新たに開発し、1チップで16層の深層ニューラルネットワークを布線論理型AIプロセッサーで実装することに成功。
これにより、消費電力の大きかったメモリーとの通信を完全になくし、152.8マイクロワットでの推論を実現した。
この新規AIプロセッサーは、35種の音声コマンドを識別可能なAIを、乾電池1本で2.2年にわたり連続動作させることが可能。今後は、スマートフォン、ドローン、自動車内エンタメ機器制御、AR/VR機器への応用が期待される。
なお同研究成果は、2023年6月9日(日本時間)に国際会議「2023 Symposium on VLSI Technology and Circuits」で発行される「Technical Digest」に掲載された。
加えて同研究成果は、主として、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られた。
JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)
研究領域:「情報担体とその集積のための材料・デバイス・システム」(研究総括:若林 整 東京工業大学 工学院 教授)
研究課題:「デバイス・システム協調による超低電圧布線論理型AIプロセッサ」
研究代表者:小菅 敦丈(東京大学 大学院工学系研究科 講師)
<プレスリリース資料>
本文 PDF(652KB)
<論文タイトル>
“A 183.4nJ/inference 152.8µW Single-Chip Fully Synthesizable Wired-Logic DNN Processor for Always-On 35 Voice Commands Recognition Application”