人身・物損ともに増加
静岡県警高速道路交通警察隊は、今年3月から始まった新東名の最高速度120km/h試行区間での交通事故発生状況と取り締まり状況を速報値で公表した。(執筆・撮影、中島みなみ/中島南事務所)
最高速度120km/h試行は新東名(静岡県内)と東北道(岩手県内)の2か所で、試行が続く。新東名は東北道より1か月早い3月1日から120km/hの試行を開始した。今回の公表は8月31日までの6か月間の状況を、前年の110km/h試行での発生状況と比較するものだ。試行区間はどちらも森掛川IC~新静岡ICまでの上下線約50km(49.65km/50.08km)だ。
今年半年間の交通事故は全体で163件。昨年同期より人身・物損共に増えている。
※今年/去年(増減)
人身事故=20件/16件(+4)
物損事故=143件/124件(+19)
人身20件のうち重傷は2件、そのほかは軽傷。死亡事故はなかった。重傷事故は、大型貨物車の事故渋滞への追突(6月)と、普通車の単独事故による追越車線に追突(8月)だった。軽傷事故の内容も、36件が追突事故だった。「いずれの事故も速度差が原因となるものはなく、前を見ていない、安全を確認していないが主な原因」という交通部の見方だ。
今年の事故増加傾向は引き上げ区間だけに限らず、最高速度100km/hの県内新東名の試行区間外でも人身・物損共に増えている。試行区間で人身・物損事故の増加が特に目立ったのは5月で、人身6件(前年同期比+5件)、物損44件(同+28件)だった。今年の大型連休期間中の交通量は前年同期より約22%ほど交通量が増えている。そこに比例して事故増加につながった可能性もある。
平均速度は変化なし
120km/hと110km/hの比較で、注目されるのは最高速度の引き上げに比例して、平均速度も上がるのではないかという点だ。
3車線区間(藤枝岡部IC~新静岡IC)で中日本高速が設置したトラフィック・カウンターの情報によると、期間中の全車両の平均速度は次のようになった。※去年↓今年
上り線
第一車線=91.1km/h ↓ 91.6km/h
第二車線=102.9km/h ↓ 102.9km/h
追越車線=116.8km/h ↓ 117.4km/h
下り線
第一車線=87.1km/h ↓ 87.5km/h
第二車線=101.5km/h ↓ 101.6km/h
追越車線=117.7km/h ↓ 118.5km/h
目立った速度変化はないように見えるが、県警では大型連休中の4月23日と5月21日に、航空隊のヘリコプターと連携した空陸の取締りを実施するなど、取締り強化も行っている。120km/hの6か月間の違反別取締り状況でも、速度超過は613件、全体の27.2%を占めた。取締り状況なども考慮した実勢速度につながるデータ収集が、少なくとも2月末日まで続く。
違反別で最も多かったのは、追越車線を通行し続ける通行帯違反で839件(37.2%)。速度超過はこれに次ぐ2番目の多さだった。速度規制とは無関係だが、3番目に多かったのはシートベルトの未装着で471件(20.9%)。シートベルトは運転席や助手席だけでなく、全席で装着しなければならない。
速度差についてのアンケート調査も
最高速度が120km/hに引き上げられても、大型トラックやトレーラーなどの最高速度は80km/hのままだ。これについても県警は約20項目の質問を用意して、高速隊による大型車ドライバーへの対面による聞き取りを実施している。新東名の対象区間を走行した運転者や、東名を走行している運転者に対して実施。この結果も分析中だ。
速報値やアンケートが、120km/h引き上げにどのように影響するのか。静岡県警はコメントを控えた。
120km/hの引き上げは、静岡県内の新東名(新静岡IC~森掛川IC)のほか、岩手県内の東北道(花巻南IC~盛岡南IC)上下線約30kmでも実施中だ。最短でも1年間の施行を継続する意味は、四季を通した交通状況を把握するとされている。引き上げ試行は、110km/hと120km/hで同じ区間で実施。110km/h試行では東北道が1か月遅かったが、120km/h試行は新東名と東北道で同時にスタートした。節目は新年度、高速道路の最高速度引き上げは、試行の冠を返上し、普遍的なものになるだろうか。