新型コロナウイルスの模式図。新たな検査法では、スパイクと呼ばれるタンパク質を測定することでウイルスの検出特異性を確かなものにした。
早稲田大学(本部:東京都新宿区、総長:田中愛治)教育・総合科学学術院・伊藤悦朗教授の研究グル ープは8月19日、従来のPCR検査の手法を大幅に簡略化し、かつウイルス検出感度も高い「超高感度抗原検査法」の開発に成功した。(坂上 賢治)
新型コロナウイルス感染症では、PCR検査が一般のクリニックではなかなか行えないため、その手法に代わる迅速で簡単に検査可能な「抗原検査」の普及が待ち望まれてきた。しかし、これまでの抗原検査は検出感度の不足と検出ウイルスを上手く区別できないなどの問題があった。
そこで伊藤悦朗教授の研究グル ープは、多くの実験室に備わっているマイクロプレートリーダーを使用し、特定の波長の光の吸収変化を測定するだけのPCR検査よりも大幅に安価で簡易な検査手法を開発した。今後は実際の患者検体での測定を早急に実施し、約30分程度でのウイルス検出を目指す。
そもそも同研究グループは、これまでにタウンズ(本社:静岡県伊豆の国市、代表取締役社長:野中雅貴)と共に、極微量タンパク質の超高感度定量測定法の開発に取り組んできた。
この方法は、サンドイッチ法を用いて特異性の高い2種類の抗体で標的タンパク質を挟みこんで検出する「ELISA法」と、酵素の働きによって基質をサイクリングさせることで増幅させて極微量の物質の濃度を測定する「酵素サイクリング法」とを組み合わせたユニークなもの。
2019年には、この超高感度定量測定法を応用することで尿中ではほとんど検出不可能であるアデ
ィポネクチンと呼ばれるタンパク質の検出に成功。慢性腎臓病の進行に伴って尿中のアディポネ
クチン濃度が上昇することを見いだし、糖尿病の治療に新たな指針を与えることができている。
一方これまで新型コロナウイルス感染症の検査方法としては、遺伝子の特定を目的とする「PCR検査」、インフルエンザなどの罹患を調べる際に用いられる「抗原検査」、罹患経験の有無を調べる「抗体検査」と大きく分けて3つの方法が存在する。
このなかで従来の抗原検査は、(1)検出感度が不足していること、ウイルスが検出できた場合でも、(2)そのウイルスが新型か従来型であるかの区別がしづらいことが難点で、検出感度の不足や、検出したコロナウイルスを新型か従前のものかを区別できない場合もあることからPCR検査に比べてあまり普及していない。
対してPCR検査は臨床検査技師による実施が必要であることから、中核病院や保健所などでの実施が必要となること。結果が出るまで2日程度要すること、技術的な問題で偽陰性が出やすいことなどの理由から町医者などの一般クリニックではなかなか実施できないのが現状だ。
そこで同研究グループは、新型コロナウイルスのタンパク質を超高感度で検出することに成功。抗原検査が抱える問題点を大幅に改善し、安価で簡易かつ感度の高い新たな検査法を編み出した。新たな検査法には、同研究グループがこれまで取り組んできた極微量タンパク質の超高感度定量測定法を適用させられるマイクロプレートリーダーを活用し、特定の波長の光の吸収変化を測定するだけでウイルスを検出することができるようにした。
使用する試薬もPCR検査と比べはるかに安価となり、より高い感度で新型コロナウイルスを検出でききるという。今後、研究グループは実際の患者検体での測定を早急に実施し、新しい検査方法が広く社会実装されることを目指す。なお同研究成果は、2020年8月14日(日本時間)に国際科学雑誌「Diagnostics」に掲載されている。
【論文情報】
雑誌名:Diagnostics
論文名:Proposal of De Novo Antigen Test for COVID-19: Ultrasensitive Detection of Spike Proteins of SARS-CoV-2
掲載 URL:https://www.mdpi.com/2075-4418/10/8/594
【研究助成】
研究費名:科学技術振興機構(JST) 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)
研究課題名:高病原性鳥インフルエンザウイルスの迅速高感度検出システムの開発(JPMJTR184B)
研究代表者名(所属機関名):
研究責任者 伊藤悦朗(早稲田大学)、プロジェクトリーダー(企業責任者) 太田俊也(株式会社タウンズ)