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2025年2月18日【MaaS】

宇佐市、共同配送とドローン物流を組み合わせた複合実証実験

坂上 賢治

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九州初の「共同配送 × ドローン物流」 、地域の困りごとを長期実証で解消へ

 

大分県宇佐市の特定地域で1月から3月に掛けて、複数荷主の商品を積み合わせて配送する〝共同配送〟と〝ドローン物流〟を組み合わせた「新スマート物流SkyHub®︎( スカイハブ )」に則った実証実験が行われている。

 

ちなみに上記の「新スマート物流SkyHub®︎」とは、エアロネクストとセイノーHDが共同で開発した新しいドローン物流の仕組みを指す。これは既存の陸上輸送とドローン物流を繋ぎ込み、地上と空のインフラを組み合わせて、より効率的に貨物が届く仕組みとして仕立てたものだという。

 

 

なお今回、同実証に参画したのは、大分県、宇佐市、NEXT DELIVERY中津急行ノーベルセイノーHDネオマルス電通九州の8者。また当該実証は、大分県から公募された「令和6年度ドローン物流地域実装体制構築事業委託業務」として採択された。

 

使用する貨物ドローンは「より速く より遠く より安全」な日本発の物流専用機

 

具体的な実証の組立では、まずは当該地域の物流を担う中津急行とエアロネクスト傘下のNEXT DELIVERY( ドローンインフラの保守管理・企画提案を担う )が主体となり、予め対象エリアで平時の届け先のなかから配達困難地域で、かつ災害時に孤立可能性を有する地域を特定。

 

(向かって左から3番目から左順に)同プロジェクトに参加したNEXTDELIVER取締役 青木孝人氏、大分県商工観光労働部長 利光秀方氏、宇佐市長 是永修治氏、中津急行常務取締役 藤井秀男氏 ほか本事業連携事業者代表各位

 

そうした地域への輸送貨物を対象に、実証期間を2025年1月20日から3月14日までの約2か月間と決め、複合レジャー施設の家族旅行村「安心院( 大分県宇佐市 )」に、各物流事業者が対象の荷物を集積した上で、それを当地で配送地域別に仕分けて陸上輸送向けとドローン輸送向けに積み合わせ、ドローン輸送にあたっては、エアロネクストが開発した物流専用ドローン「AirTruck( エアトラック )」を使って1日2便のドローン配送を実施する。

 

安心院に集積された荷物を陸上輸送とドローン配送に分けていく

 

この物流専用ドローンAirTruckとは、次世代ドローンのスタートアップ企業エアロネクストが、ACSL( 先端ロボット技術会社 )と共同開発した日本発の量産型・物流専用ドローン。エアロネクスト独自の機体構造設計技術により安定飛行を実現。長距離物流で必要な空力特性を備えた「より速く より遠く より安定した」物流専用機であるという。

 

同AirTruckは、日本では各地の実証地域や実証実験で飛行しトップクラスの飛行実績を持ち、海外ではモンゴルで標高1300m、外気温-15℃という環境下の飛行実績( 2023年11月 )もある。最大飛行距は20km、ペイロード(最大可搬重量)は5kgとなっている。

 

 

配送困難地域の住民は、受け取りに出掛けなくて済むドローン配送の利便性に期待

 

さて、そもそも大分県では、離島、中山間地域、災害の多い地域、観光資源を有する場所など、多様な地域が混在しているため、ドローンによる積み合わせ物流に適した地域と考えられてきた。

 

 

しかし旧来のドローン物流は、機体費用を筆頭にドローンオペレーター等の人件費などの運用コストが嵩んで収益を確保するのが難しく、採算性上の課題が浮上していた。そこで国ではドローン物流の実装が進まない現状を鑑み、昨年2023年12月にレベル3.5飛行制度など、ドローンの配送の事業化を促進するための規制緩和を実施してきた。

 

今回はそうした国の施策や方針を踏まえつつ、ドローン物流を過疎地域に於いても実装するべく、地域の事業者が担い手となって採算性を確保しつつ、災害時と平時の配送を両立できる持続的なビジネスモデルの構築を目指す。

 

例えば採算性の確保という面では、これまで個別に配送していた複数の物流企業がトラックやコンテナなどを共同化させ、予め荷物をまとめて積み合せる陸路の「共同配送」を、ドローン輸送と組み合わせて実施することで物流コストを削減させ、配送効率を向上させていくことも実証事案のひとつとしている。

 

 

先の1月30日の報道関係者を募った公開実証では、家族旅行村「安心院」から深見地区の個人宅までの片道約5.8㎞・約13分をドローンで配送した。荷物をドローンで受け取った地域住民は、「高齢者ですから車を運転するのが心配。こうしてドローンで届けて頂くと出掛けなくて済むから助かる。ドローンなんて想像できない世界だから楽しみ」とコメントした。

 

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現行段階でのドローン実証による効果は以下の通り

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– 既存の陸上物流とドローン物流との接続点としてドローンデポを家族旅行村「安心院」に設置したことで共同配送やドローン配送のオペレーションを含めた有効性を確認できた。

 

– 飛行ルート上の電波状況については途切れることなく、機体カメラによる歩行者等の視認もしっかりと確認でき、運航上の問題は生じていないことから、実装を見据えた運航が可能であることが確認できた。

 

– 天候等の影響が少なかったことから、2025年2月7日時点でドローンの飛行回数は10回にのぼっており、利用者への十分なサービス提供を行うと共にドローン配送への認知度向上に繫がっている。

 

– 中津急行を主体とした地域特性を生かしたドローン物流の実施体制を構築・検証することができている。

 

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以上を踏まえ参画8者では、「今後も地域住民への理解促進及び地域課題の解決へ向けドローンをはじめとする次世代高度技術を活用し、ドローン配送と陸上輸送を併用した新スマート物流の社会実装に向けた検討を進めてまいります」と述べている。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。