米ゼロ・エミッション・インダストリーズ ( ZEI / Zero Emission Industries )は10月3日( 米カリフォルニア州サウスサンフランシスコ発 )、カリフォルニア州エネルギー委員会( CEC )のガス研究開発プログラムのサポートを受けて世界初の水素動力を搭載した新しい海の電動モビリティとして、高性能スピードボート「FCV Vanguard( FCVヴァンガード )」を開発・披露した。
この新たなスピードボートについて、ZEIでCSO(Chief Strategy Officer)を務めるジョン・モトロー氏は、「この最先端の燃料電池システムは、ガスエンジンやディーゼルエンジンを代替するパワーユニットとして設計されており、そもそもは、1995年に開発した27フィートのオフショア型スピードボートのために初導入したものが原点となっています。
今回は、従来のガソリン燃焼のビッグブロックV8エンジンを375ps(馬力)、465lb·ft(ポンドフィート)のトルクを発生する水素燃料電池システムに置き換えることで最高レベルのパフォーマンスを発揮すると共に、圧倒的なスピードが求められる高速ボートでも優れたサステナビリティー性が生み出せることを実証しました。
高性能スピードボート「FCV Vanguard( FCVヴァンガード )」に搭載された燃料電池システムは、4つの燃料電池スタック、コンパクトなリチウムイオンバッテリー、冷却システム、パワー エレクトロニクスユニット、高性能電動モーターによって構成されており、その全てを自社のオペレーティングソフトウェアによって制御しています。
そんな当社のFCシステムは、ガソリン エンジン並みの高性能と、内燃機関と比べても違和感の無い素早いエネルギーの充填速度、ディーゼルエンジンに匹敵する分厚いトルク感と高い熱効率、電気モーターならではの静かでクリーンな環境性能など、旧来のパワートレインが個々に持っていた長所を小さなパッケージに集約させています。また汎用性も高く、今回のような高速ボートだけでなく大型船舶まで、幅広い用途に応えられる上に排出される二酸化炭素はゼロとなります。
そもそも当社は、かつてサンフランシスコで世界初の商用旅客フェリーへ水素燃料電池のみで動く動力システムを設計・搭載した実績があります。それらの取り組みは。今回のFCV Vanguardで実現させている自社テクノロジーの源流となるものです。
搭載した水素貯蔵タンクは、内燃エンジンに並ぶ程の航続距離を稼ぐことができ、重い蓄電池を搭載するBEVよりもエネルギー効率も高くなります。それは高速艇に求められる厳しい要求性能を満たすものであり、水上に於いても優れたゼロエミッションモビリティを提供できることを証明しています」と述べた。
またZEIでCEOを務めるジョー・プラット博士は、「水素の導入は世界規模で進んでいます。昨年、水素協議会とマッキンゼー・アンド・カンパニーが発行した報告書には、(1)全世界で1,000件の水素プロジェクト提案が発表され、そのうち795件が2030年までに全面的または部分的な導入が計画されています。
また(2)2030年までに水素プロジェクトへ3,200億ドルの直接投資が発表済みであること、(3)現在導入されている水素供給涼佑は僅か年間100万トン未満に過ぎないのに対して、来るべき2030年には全世界で3,800万トン/年のクリーン水素の供給が発表されていると記されています。
このような背景から当社は、エンドユーザーが水素技術を導入する際に直面する課題を克服するソリューションの開発・導入を進めています。一方で燃料電池に対する投資家の関心は世界中で高まっており、特に、より大型で重い電力用途の領域でBEVパワーの限界が明らかになるにつれて、燃料電池への関心が高まっています。
化石燃料を使う既にパワーユニットの時代は終わりつつあります。私たちは輸送に関わる企業のみならず、モビリティを好むユーザーの多くがクリーンな動力源を求めている社会要求を事業推進の動力に置き換え、限りなくサステナビリティーなモビリティビジネスを打ち出しています。
それには既存の船舶を廃棄して完全に新しいモビリティを製造するよりも、既存の船舶を改造する方が遙かに環境に優しく、手早い製造か可能で、経済面でも優れています。ここではそれを陸上のモビリティを例に数字に置き換えて考えてみましょう。米国では路上で大凡1,350万台の商用トラックが走っていますが、年間で販売される新型車の台数は僅か50万台に過ぎません。
つまり多くの車両は、新車で購入されて以降、何十年も使用されている訳です。こうした傾向は海運業界にも同じで、環境負荷を素早く下げていくためには、モビリティを新たに交換するみことに代わる持続可能で費用対効果の高い手段が必要です。それは個々のモビリティのパワーユニットを環境性能の高いものに改造することです」と語った。
最後にZEIをサポートするカリフォルニア州エネルギー委員会(CEC)でエネルギー研究開発部門に籍を置くディレクター、ジョナ・スタインバック氏は、「カリフォルニア州エネルギー委員会は、クリーンエネルギーへの移行を加速し、州の気候目標の達成に取り組んでいます。ゼロ・エミッション・インダストリーズが海上輸送で脱炭素化を支援する革新的なソリューションの開発を進めていることを、私たちは応援しています」と結んでいる。
「FCV Vanguard」の主要な仕様は以下の通り
● ピーク出力(10秒間):390KW(522HP)
● 連続出力: 280 kW (375 HP)
● トルク: 630 Nm (465 lb-ft)
● 寸法:1950×990×850mm
● システム重量: 700 kg (1,540 ポンド)
● 公称システム効率: >50%
● 燃料タイプ: 気体水素
● 熱管理: 液体冷却(水対水)
● 起動時間: 瞬時