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2023年3月1日【エネルギー】

東大、炭素中立に向けた家庭用エネルギーシステムを提案

坂上 賢治

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提案する家庭エネルギーシステム(PACaaS)の概略図

 

先にEVへのタイヤ内給電を成功させた東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本博志教授、藤田稔之特任講師、永井栄寿特任助教、ダイキン工業・テクノロジーイノベーションセンター山際昭雄氏らによる「EV協調型サーマルシステム工学社会連携講座」は3月1日、家庭エネルギーシステム:PACaaS(Power & Air Conditioning as a Service)を提案。この同システムが実証試験で高効率な運転が可能である事を示した。

 

そもそも彼らがこの研究に取り組んだ理由は、我が国に於いて新エネルギー発電の約35%を太陽光発電(PV: Photovoltaic generator)が占める環境下にあった。

 

そうした日本のエネルギー事情を鑑み〝PV発電電力の自己消費率の向上〟〝需要電力のピークの緩和〟停電時の自立運転を実現されるため〝定置バッテリと組み合わせたエネルギーシステム構築〟が鍵になると考えた。

 

PACaaS実験機

 

また現状で、今後、一般家庭に広く設置されるであろう太陽光発電(PV: Photovoltaic generator)や電気自動車(EV: Electric Vehicle)用充電器、ヒートポンプ給湯器(HP:Heat Pump)などが今後も、それぞれ独立して稼働している現状下では、どうしても昼間の余剰電力などに伴う電力損失が生まれてしまう。

 

そこで同研究チームは、新しい家庭向けエネルギーシステムの中へ近年普及が見込まれるEV蓄電池の利用を想定。新システムを使うエネルギー変換効率の実験検証を行った。

 

直流電圧に対するエアコンへの入力電力

 

具体的には、PV、定置用バッテリ、系統連系インバータ、エアコンの4つの機器を直流に接続。これを一つのコントローラで制御する事によって、高効率な運転が可能になるPACaaS実験システムを作成。

 

次に、同システムを基に一般的なフィードバック制御を行った場合の特性評価を実施。更に実験システムが稼働している状態でPVによる最大電力制御を維持しながら安定的に動作する様子を確認した。

 

更に実験システムが直流電圧を制御する事で、エアコンの変換効率が1%程度向上する事を確認。商用電源を介さずとも、それぞれの機器が家庭内で高効率な運転が可能である事を実証した。

 

従来システムと比較したPACaaSの月毎の電力損失低減率

 

またエアコン運転などに伴う実負荷の消費電力データを用いて、年間のシミュレーションも行ってPACaaSの有効性も併せて確認した。

 

結果、今回提案したPACaaSは、災害時など電力供給が途絶された状況でもエアコンやヒートポンプなどの自立運転が可能になる事からゼロエミッション社会に大きく貢献するとしている。

 

今後、同研究グループは短周期の動作検証から更に一歩踏み出し、更なる年間単位のシミュレーション検証なども含めた幅広い観点で同PACaaSの開発・検討を重ねて、家庭向けエネルギーシステムの高効率化を推し進めていく構えだ。

 

関連研究室
藤本・清水・藤田研究室
 

新領域創成科学研究科広報室

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。