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2019年5月5日【トピックス】

トヨタ、世界耐久選手権で2度目のチームタイトルを獲得

坂上 賢治

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 2018-2019年のFIA世界耐久選手権(WEC)、第7戦「スパ・フランコルシャン6時間」の決勝レースが、欧州時間の5月4日(土曜日)に行われ、6番手スタートから追い上げたトヨタガズーレーシング(TOYOTA GAZOO Racing)チームから出走した『TS050 HYBRID8号車』が同レースを制した。(坂上 賢治)

 

 

このトヨタの8号車をドライブしたのは、セバスチャンブエミ選手・中嶋一貴選手・フェルナンドアロンソ選手の3名。

決勝で、この3人がステアリングを握る同車は、2番手スタートから133周を消化し、ピットストップ9回、ベストラップ1分58秒056を記録してチェッカーフラッグを潜った。

 

これにより8号車は、今季開幕戦のスパから数えて通算4勝目を挙げ、現段階で追いすがる2位に対して、31ポイント差でドライバーズポイント首位の座を守った。

 

 

 一方、7号車のステアリングを握るマイクコンウェイ選手・小林可夢偉選手・ホセマリアロペス選手は、ポールポジションからスタート。1分57秒394の最速ラップを刻んでレース前半戦を支配したのだが、その後トラブルに見舞われて11分をロス。ピットストップ8回・全周回数129周の6位でチェッカーを受けている。

 

この2台の活躍によってトヨタ陣営は、次の最終戦ル・マン24時間レースを待たず、2014年以来2度目となるチームタイトルを獲得した。

 

 ちなみにこの日のレースは、気温5度・路面温度9度という厳しい気象環境の中でスタート。なんと激しい雪にも見舞われるなど、WEC史上初といえる悪天候下で開幕した。

 

 

当初ポールポジションとして先陣を切った7号車が大きなリードを築く中、開始30分早々にセーフティカーがコースインする状況に陥った。

 

 そこから25分を過ぎた頃、コース全域に青空が戻ってレースは再開。先頭を走るトヨタの7号車は、2位を走るレベリオンチームの3号車を従えて独走。

 

 

その間、後続から追い上げてきた8号車は、ピットストップによるタイムロスを喫するなどレース運びがなかなか安定しない。ただ19周目には、その遅れをようやく取り戻し一時首位に浮上する。

 

しかしその8号車は、次のスティントを走るための交換用タイヤが用意されていないというピットワーク上の段取りの悪さに加え、WEC規定により5秒間の給油のみを実施しなければならなくなり不本意なタイムロスを課せられる。

 

 

 対して7号車は、最初のスティントで燃料をセーブして給油タイミングを上手く調節することに成功。これにより同車は、ベストのタイミングでのスリックタイヤへの換装に成功した。

 

この間、SMPレーシングやレベリオンなどのライバル勢は着実なタイヤ換装や給油のスケジュールを消化し、トヨタ陣営に追従していく。

 

それに対して、足りない燃料をさらに充填するべく無駄なピットインを行う等、トヨタの8号車は歯車が噛み合わずに10位へとポジションを落とすことに。

 

 

しかしスリックタイヤに交換した2時間後、8号車は自らの加速力を活かしてレベリオン3号車をパスすることに成功し、先行するトヨタ7号車に次ぐポジションにまで順位を回復させた。

 

 その後、レースの折り返しタイミングを迎えた3時間経過頃、先行してきたトヨタの7号車は、2位に50秒の差をつけ、首位を走りながらもセンサートラブルに見舞われてピットイン。

 

修理を行った後、程なくコースへ復帰したものの、大きく順位を落とししまい首位から4周遅れの19位まで後退した。

 

 

後退したトヨタの7号車と入れ替わるように首位を引き継いだトヨタ8号車だが、レースも残り2時間となった段階で激しい嵐が押し寄せ、再び25分間に亘ってセーフティカーが入る。

 

 そして最後の1時間、トヨタの7号車は猛追を見せ6番手まで浮上するも、8号車が先行する状況を覆すことができず、悪天候の影響下で赤旗が降られることになって、残り時間数分の段階でレース終了となった。

 

 

この結果、8号車は後続から追走するレベリオンチームの3号車、3番手を走るSMPレーシングチームの11号車に1周差を付けてゴールラインを跨ぐ。トヨタ7号車は、先行する8号車に4周遅れの6位でチェッカーを受けた。

 

 

 次回は6月15日から16日にかけて行われるシーズン最終戦のル・マン24時間。スバ消化でトヨタの8号車は、2番手に付けるトヨタ7号車に対して31ポイントリードとなり、ほぼ王手を賭けた状態。

 

最終戦の最大獲得ポイントは39のため、総合タイトル獲得を目指すトヨタ陣営間の決着は6月に持ち越しとなった。

 

 

村田久武TOYOTA GAZOO Racing WECチーム代表: 
 今日決めることが出来たFIA世界耐久選手権(WEC)ワールドチャンピオンをチームの皆と祝いたいと思います。これは、昨年からチームの全員がたゆまない努力を積み重ねてきた結果です。今日のレースはチャレンジングなものでした。

 

非常に速かったにもかかわらず、センサーの問題で優勝のチャンスを逃がした7号車のドライバー達には大変申し訳ないことをしました。

 

一方、8号車のドライバー達は不運があったにもかかわらず、最後まで素晴らしい走りで優勝を勝ち取ってくれました。今日のレースは非常に難しいものでしたが、悪天候にも関わらず駆けつけてくれたファンの皆様、TMG(Toyota Motorsports GmbH)の社員たちも楽しんでもらえたのではないでしょうか。

いよいよ次はル・マンです。昨年の優勝後から1年かけて準備をしてきた集大成をお見せしたいと思います。

 

 

小林可夢偉(7号車): 
 勝てる車でしたし、技術的な問題が起こるまでは全てが上手くいっていましたので、大変もどかしいレースとなりました。

 

レースでは起こりうることですが、今シーズンはここまで何の問題も起きていませんでしたので残念です。我々は挽回するために最善を尽くし、良いパフォーマンスを示しましたが、これだけの時間を失ってしまった後では、表彰台に上がるチャンスは実質失われていました。

8号車の皆さん、優勝おめでとうございます。そしてチームのワールドチャンピオン獲得も、本当におめでとうございます。

 

マイク・コンウェイ(7号車): 
 10分程の間に4つの季節が訪れたような不安定な天候のレースでした。その後、技術的な問題により数ラップを失ってしまいました。それまで我々は十分なリードを保てており、本当に速く、全員が良い仕事をしていました。

 

ホセと可夢偉の2人は、可能な限りポジションを回復すべく激しく追い上げましたが、セーフティカーの導入により、完全には遅れを取り戻せませんでした。与えられた状況の中で、我々に出来るベストを尽くしたと思います。

 

 

ホセ・マリア・ロペス(7号車): 
 我々は出来ることを全てやり尽くしましたので、がっかりはしていません。最速な車であることを示すことができましたし、そのことをとても誇りに思います。やるべきことは全て上手く出来、一つのミスもありませんでした。

 

残念ながら結果は上手くはいきませんでしたが、これがレースと言うものです。チームの皆さん、おめでとうございます。1つの大きな目標を達成することができました。また、8号車の勝利もおめでとうございます。我々はル・マン優勝というもう一つの大きな目標に向け、全力で立ち向かって行きます。

 

中嶋一貴(8号車): 
 目まぐるしく激変する天候に翻弄されたレースでした。7号車の不運によって我々が優勝することが出来、申し訳なく思っています。何度も困難な場面に直面したことは、ル・マンに臨むための試練だと考えています。

 

今回の一つの目標だったチームタイトルを決めることが出来て、ささやかながらお祝いをすることが出来ました。次回は、最大目標のル・マン連覇とトライバーチャンピオン獲得の大仕事が待っています。それがどれだけ困難なものか誰よりも心得ていると思っています。

 

セバスチャン・ブエミ(8号車): 
 もちろん優勝は嬉しいですが、今日は天候に翻弄されたレースでした。7号車はトップを走りながらもトラブルが発生してしまい、とても残念でした。今日の7号車の速さに追いつくことは難しかったので、本来ならばこんな結果ではなかったはずです。

 

一方、我々は序盤に不運と無線不具合に見まわれましたが、最終的にはチームはチャンピオンを獲得出来たことはとても嬉しい結果でした。ドライバーポイントのマージンを広げて最終戦のル・マン24時間レースに臨みますが、タイトル獲得の保証は何もありません。正々堂々とル・マン24時間レースに臨みたいと思っています。

 

 

フェルナンド・アロンソ(8号車): 
 激変する天候に加え、いくつかの問題が発生した前半は、本当に難しいレースでした。気持ちが上向いたり、沈んだりの状態でした。

 

チームチャンピオンを決めることが今日の最大の目的でしたが、見事、トヨタガズーレーシングチームにタイトルがもたらされて、とても嬉しく思っています。今シーズンのここまでの結果は素晴らしい内容でしたが、最終戦のル・マン連覇とドライバータイトル獲得に向けて全力を尽くしたいと思っています。

 

トヨタ自動車株式会社、代表取締役社長 豊田章男氏:
 2014年以来、2度目となるWECのシーズン優勝を達成することが出来ました。ファンの皆さまからの応援に心より感謝いたします。

 

昨年の富士戦以降も、豪雨の上海、荒れた路面のセブリング、そして今回のスパでは、起伏に富んだコースでの、しかも雪も混じる気象下でのレースと厳しい道での戦いが続きました。
一つひとつを戦いを走り抜き、チャンピオンを獲得してくれた6人のドライバーとチームメンバー達を誇りに思うとともに、彼らに感謝の気持ちを伝えたいと思います。

 

おめでとう。そして、ありがとう。来月にはシーズン最終戦となるル・マン24時間レースが再び、待っています。

連覇は決して簡単なものではありません。今回のレースでは7号車にトラブルを発生させてしまいドライバー達に悔しい思いをさせてしまいました。ル・マンには、必ずや、ドライバー達が、安心して、気持ちよく乗り続けられるクルマにして臨みたいと思います。

 

そして、マイク、可夢偉、ホセ、セブ、一貴、フェルナンド6人のドライバーとチームみんな、ファンの皆さまと最高のシーズンエンドを迎えられると信じています。引き続き、ご声援いただければと思います。よろしくお願いいたします。

 

WEC第7戦 スパ6時間 結果(LMP1クラス) 
(順位)1_(車両No.)8_(ドライバー名)中嶋一貴・セバスチャン ブエミ・フェルナンド アロンソ_(チーム)TOYOTA GAZOO Racing/(車種)トヨタTS050 HYBRID_(周回)133_(ベストタイム)1:58.056

 

(順位)2_(車両No.)3_(ドライバー名)ナタナエル ベルトン・トーマス ローレン・グスタボ メネゼス_(チーム)レベリオン・レーシング/(車種)レベリオンR13ギブソン_(周回)132_(ベストタイム)1:59.393

 

(順位)3_(車両No.)11_(ドライバー名)ミカエル アレシン・ヴィタリー ペトロフ・ストフェル バンドーン_(チーム)SMPレーシング/(車種)BRエンジニアリングBR1・AER _(周回)132_(ベストタイム)1:59.474

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。