NEXT MOBILITY

MENU

2024年10月11日【IoT】

トヨタ、F1に復帰 ハース・フォーミュラLLCと業務提携

坂上 賢治

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

(写真左から)MoneyGram Haas F1 Team チーム代表の小松 礼雄氏、トヨタ自動車株式会社 会長の豊田章男氏、GAZOO Racing Company プレジデントの高橋 智也氏

 

トヨタ自動車傘下のTOYOTA GAZOO Racing(TGR)は10月11日、マネーグラム・ハースF1チーム(Haas Formula LLC/MoneyGram Haas F1 Team)の車両開発分野で協力関係(複数年の公式テクニカルパートナーシップ契約)を結ぶことで合意・基本合意書を締結した。( 坂上 賢治 )

 

これによりトヨタは、世界最高峰のモータースポーツシーン「FIAフォーミュラ・ワン世界選手権(F1)」に参戦し、日本の若手ドライバーやエンジニア・メカニックが成長する環境を整え、自動車産業の発展に貢献することを目指すという。

 

TGRでは、「クルマづくりに欠かせない〝People〟〝Pipeline(走行データ多拠点で共有・解析し戦略立案に活かす環境)〟〝Product〟の三要素を鍛えるため、モータースポーツ参戦を継続しています。

 

昨今、モリゾウこと会長の豊田の強い想いの下、レースの現場で〝壊しては直す〟を繰り返し、プロドライバーからのフィードバックを徹底的に市販車開発へ織り込む〝ドライバーファーストのクルマづくり〟の取り組みを強化させていく上で、〝People : ドライバーやエンジニア・メカニックの人材育成〟を行いながら、〝Pipeline : データ解析・活用〟を行い、〝Product : 車両開発〟に生かす必要性がますます高まっています。

 

TGRは、本提携を通じて〝People〟をさらに強化し、マネーグラム・ハースF1チームがF1で強みを持つ「Pipeline」を学び、モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりを加速させていきます」と話している。

 

具体的には、TGRの育成ドライバー、エンジニア、メカニックがマネーグラム・ハースF1チームのテスト走行に参加。ドライバーはF1での走行経験を積み、エンジニア・メカニックは走行データなどの膨大なデータの解析ノウハウを学び、TGRに於ける〝Pipeline〟の効果的な運用を目指す。

 

加えて、TGRのエンジニアおよびメカニックがマネーグラム・ハースF1チームのレーシングカーの空力開発に参画。極限の使用環境下を想定したシミュレーション、カーボン部品の設計・製造を行うことで、世界最高峰のレースの現場で活躍し、培った技術や知見を市販車に反映できる人材の育成も併せて目指していくとしている。

 

さて現段階では、これ以上詳細なハースF1のハードウエアへの関わり方については明らかにされていない。

 

しかしレーシングカーづくりや戦略のサーポートにまで関わっていくということを踏まえると、トヨタ陣営としては「F1復帰ではない」としているものの、より深くF1マシンづくりに関わっていくことは間違いは無く、トヨタが久方振りにF1シーンに於ける一員となるという意味で「F1復帰」も、あながちミスリードとは言えないだろう。

 

更に、トヨタのモータースポーツ活動全域を包括して俯瞰してみると、同社が現在、本格参戦している世界耐久選手権(WEC)では、ライバルメーカーの台頭に伴い、想定通りの成果が得られ難くなりつつある。

 

従ってF1チームのテクニカルサポートを通じて、WECでの自らのマシンや戦略のパフォーマンスアップにも繋げられる。そうした意味で米国籍のF1チームへの関わりは、モータースポーツ活動を介した事業戦略にも優位に働くとというプラス面もありそうだ。

 

また、かつてのF1撤退以後も、これまでトヨタが保有し続け、時にはF1チーム他に貸し出していた独ケルンの風洞施設も、これからは、より効果的に活用できていく機会が生まれるものと見られる(欧州の環境下に於いてハースは、フェラーリの風洞などを借りてマシン開発を続けていた)。

 

なお上記、テクニカルパートナーシップ協力関係は、今季に早くも形にとして表れる見込みで、来たる10月18〜20日開催の次戦F1アメリカGPからは、ハースF1マシンの車体の一部にTOYOTA GAZOO Racingのロゴが掲げられる。

 

 

会見に於けるトヨタ自動車会長の豊田章男氏、並びにGAZOO Racing Company 高橋 智也プレジデントのコメントは以下の通り。

————————————–

豊田 章男会長(モリゾウ)
豊田でございます。

 

私はレーシングドライバーではありません。
ですが一緒に走ってくれるレーシングドライバーは周りにたくさんいます。
最近ではホンダで育ってきたドライバーたちもいれば、ずっとトヨタにいるレーシングドライバーもいます。

 

レーシングドライバーたちと話していると感じること…
それは…やっぱりみんな「“世界一速いクルマ”に乗りたい」と思っているということです。
ドライバーとは“そういう生き物”なんだと思います。

 

ですが、私はF1をやめた人…
ドライバー達は、私の前で、その思いを素直に話すことができなかったんだと思います。
そんな“わだかまり”みたいなものが、我々のピットにはずっとありました。

 

今年の1月、やっと…
普通のクルマ好きおじさんに戻れたと皆さんの前でお話ししました。

 

普通のクルマ好きおじさんの豊田 章男は、
F1撤退で、日本の若者が
一番速いクルマに乗る道筋を閉ざしてしまっていたことを、
心のどこかでずっと悔やんでいたのだと思います。

 

ただ…記者の皆さんが目を光らせているので、
あえて付け足しますが
トヨタの社長としては、
F1撤退の決断は間違っていなかったと今でも思っております。

 

先日、小松代表とお話しをさせていただきました。
小松さん自身、大きな夢を切り拓いていらっしゃる方ですが、
その後ろには、
自由に夢を追いかけさせてくれた
お父様がいらしたとのことでした。

 

小松さんも私も、「今度は、我々が子供達に
夢を追いかけさせてあげられる“お父さん”になりたい」
という気持ちを共有しました。
小松さん、本当にありがとうございます。

 

今あちらにいる
スーパーフォーミュラのドライバーたちは
トヨタ勢もホンダ勢も、みんな子供の頃からカートに乗って育ってきました。

 

彼ら彼女らに憧れてカートに乗っている子供たちも
全国にたくさんいると思います。

 

そんな子供たちを小松さんたちと一緒にもっと増やしていければと思っております。

 

その前に、スーパーフォーミュラドライバーの誰かが、
世界一速いクルマに乗る日も、
実現していきたいとも思っております。
小松さんMoneyGram Haas F1 Teamの皆さん、日本のモータースポーツ界のために、
ぜひ一緒によろしくお願いいたします。

 

そして…、メディアの皆さん!
くれぐれも明日の見出しは「トヨタついにF1復帰」ではなく
“世界一速いクルマに自分も乗れるかもしれない”と
日本の子供たちが夢を見られるような見出しと記事をお願いします。

 

これが本日の豊田 章男の“思い”と“お願い”です。
皆様どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

 

———————————–

 

GAZOO Racing Company 高橋 智也プレジデント
おはようございます!
GAZOO Racing Companyの高橋です。
本日は、お集まりいただきありがとうございます。

 

皆様、いかがでしょうか?
こちらのMoneyGram Haas F1 Teamのレーシングカーには、
TOYOTA GAZOO Racingのロゴが貼られています。

 

「トヨタF1復帰!」
と思われた方がいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。

 

私たちTOYOTA GAZOO Racingは
MoneyGram Haas F1 Teamと若手ドライバーなどの人材育成および
MoneyGram Haas F1 Teamの車両開発分野における業務提携に合意しました。

 

私からは、今回、なぜ業務提携をしたのか?について説明します。

 

私たちは、昨今、モリゾウこと会長の豊田の想いの下、
レースの現場でクルマを「壊しては直す」を繰り返し、
プロドライバーからのフィードバックを徹底的に市販車開発へ織り込む
「ドライバーファーストのクルマづくり」を行ってきました。

 

そこで重要になってくるのが3つの要素、
People、Pipeline、そしてProductです。

 

Peopleは、ドライバーやエンジニア・メカニックの人材育成、
Pipelineはデータ解析・活用術、
Productは車両の開発です。

 

私たちは、今回の業務提携を通じて「People」をさらに強化し、
MoneyGram Haas F1 TeamがF1で強みを持つ
「Pipeline」を学び、
「Product」の開発に活かしていきます。

 

これらPから始まる3つの要素のうち、「People」と「Pipeline」に関して、
みなさまに補足説明いたします。

 

まずは「People」についてです。
みなさまもよくご存じの通り、F1は世界最高峰のモータースポーツです。
F1でのドライバー、エンジニア、メカニックの活躍は
子ども達にとって、夢や憧れ、目標となります。

 

将来の自動車産業を担う子どもたちに、そのような希望を与えることは
非常に重要なことだと考えています。

 

そのために、TOYOTA GAZOO Racingは、
MoneyGram Haas F1 Teamとともに、「ドライバー育成プログラム」を新設し、
世界の頂点を目指すドライバーを育てていくことにしました。

 

具体的には、TGRの育成ドライバーが
MoneyGram Haas F1 Teamのテスト走行に参加して、
F1での走行経験を積みます。

 

この提携を通じて、将来的に
F1のレギュラーシートを獲得できるようなドライバーを育成出来たら
素晴らしいと考えています。

 

また今回、チャレンジするのはドライバーだけではありません。
TGRのメカニックやエンジニアも世界最高峰のF1の舞台に、
MoneyGram Haas F1 Teamの仲間として加わります。

 

具体的には、MoneyGram Haas F1 Teamから評価をいただいている
私たちの「ものづくりの力」を生かして
F1レーシングカーの空力開発に参画し、
極限の使用環境下を想定したシミュレーション、
カーボン部品の設計・製造を行います。

 

続いて「Pipeline」について説明します。
今回の提携を通じMoneyGram Haas F1 Teamが強みをもつ「データの活用術」、

 

たとえば、レース中に収集する膨大なデータを
世界のさまざまな拠点へ共有し、即座に解析、
レースの戦略立案へタイムリーに活かすノウハウなどを学びます。

 

さて、ここまで「People」と「Pipeline」を
強化する話を差し上げましたが、

 

これらは世界最高峰のレースの現場でMoneyGram Haas F1 Teamと共に戦うことで
初めて培うことのできる技術や知見です。

 

その先に「Product」つまり、市販車へ学びをフィードバックできる人材が
育つのだと信じています。

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。